ハルトの告白
妖精の森のマサミチの家からオリーブ畑へ向かう途中に別の方向へ向かうとトマト畑がある。
トマトは妖精のサイズだと回収が難しいのでマサミチが使う分だけの畑サイズになっているのだがかなり大きい。
そのトマト畑の端にちょうど丘の様になっているところがあり、そこからある程度妖精の森の中を見渡せる場所があった。
なぜハルトがそんな場所を知っているか疑問に思ったが、ケティによるとエレナがハルトに教えたんだとか。
このゴシップキャットはマジで何でも聞き耳を立てているんだな。
そこにセラが向かうと既にハルトが待っていて手を振って合図をし、セラはハルトの横に腰を下ろした。
セラの目には夜の森を照らす魔法石の薄緑色の光は幻想的に映っているだろう。
ちなみにヒロとケティは見つからないように整備されていない森の中を迂回し、かなり後ろの茂みに隠れている。
「ケティ何話してる?」
「しー、静かにしてほしいニャ」
「俺はお前と違って聴覚強化できないんだって」
嬉しそうに耳をピクピク動かして覗いているケティの目は横から見ても明らかに瞳孔が全快に開いている。
本当に楽しそうだ。
「これから告白かもね」
「告白するんだけどね」
「うわっびっくりした!」
後ろから声がして振り向くと嬉しそうに二人のシルフがこちらを見ている。
「なんでここに?」
「僕たちは風の精霊だよ」
「噂があるところに現れるんだよ」
「いや、まだ噂は起きていないでしょ」
風の噂ってシルフが広めたんじゃないだろうか。
こいつらもケティ同様に噂が大好きなのだろう。
まぁ娯楽が少ないこの世界ではこういうのが楽しいのは人間も精霊も同じなのかもしれない。
「それでシルフは何を知っているんだ」
「それは僕たちからは言えないよ」
「エレナが後押ししたなんて知らないよ」
「言ってんじゃねーか」
「これは既に知っている内容だからセーフだよ」
「そうだよ君を揶揄ったんだよ」
シルフは嬉しそうに顔を合わせてクスクス笑った。
なんなんだよ。
「で、ケティ軽くまとめてくれよ」
「ニャー、仕方ないニャ―」
ケティによるとハルトにとって能力を抑える前から普通に会話をすることが出来たセラは特別な存在だった。
それと、ハルトもセラと似たような環境に育ったと言いたいらしいのだが、照れてるのか知らないが遠まわしの言い方でなかなか話が進んでいない。
「ニャー、じれったいニャ」
「いや、むしろそのまま失敗してくれ」
「ニャンてこというニャ!それでも仲間かニャ!?」
「むしろパーティ内で恋愛しないでほしいね」
ケティと無駄に揉めていると間にシルフが割って入って
「覚悟きめたみたいだよ」
「深呼吸が終わったら始まるよ」
とクスクス笑いながらセラ達を指さした。
「ハルトが言った言葉をそのまま伝えてくるれ」
「わかったニャ」
ヒロの目では二人のシルエットしか見えないがハルトがセラの方に向き直ったのが分かった。
セラもそれにこたえてハルトの方に姿勢を向ける。
緑色の光を背景に向き合った二人のシルエットが、なぜか凄く不安に映った。
「――ごめん、わかりにくかった。ちゃんと言い直すから聞いてほしい」
ケティがハルトのセリフをそのまま口にする。
というか、今いう事じゃないんだけど、ケティって語尾にニャをつけなくても喋れるんだな。
猫又に戻った時もニャをつけないからキャラづくりだろうか?
少し注意がそれてしまったがケティがそのまま聞き耳を立てる。
「俺が君を見つめ、見つめ返されるとなんだか突然普通じゃいられなくなる。自分がまるで強くなったようで、それでいて弱くも感じる。心が浮き立つのを感じながら、それでいて怖くもある。正直、自分の気持ちが分からない。だけど、どんな男になりたいかはわかる」
「ニャー、なんて素敵な言葉ニャ!」
ハルトのこのセリフを聞いてケティもシルフもテンションが上がっているがヒロはそうではなく逆に怒りで般若のような顔をしていた。
いやだってさ、今のセリフ・・・。
スパイダーマンのセリフじゃないか?
なんでハルトがスパイダーマン知ってるんだよ。
無意識で言ってるのか?いや・・・まさか・・・
「シルフ、ハルトが冒険者になる前の事って知ってるか?どこで生まれたとか育ったとか」
「知ってるよ」
「知ってるけど言えないよ」
「なんでだよ!」
「君が知らない情報は言わないよ」
「何でも話したら世界が混乱しちゃうよ」
「じゃぁどういう時に教えてくれるんだ?」
少し威圧しすぎただろうか、無意識に言い方がきつくなってしまったかもしれない。
シルフたちは声を出さないがお互いに手を合わせて意思疎通を図っているようだ。
「僕たちが必要だと思った時は話すよ」
「だけど今回は話したくても話せないんだ」
「なんで!?」
シルフがどことなく怯えてしまっている。
四大精霊がヒロに怯えるわけがない。
ということはもっと上の存在?例えば神とか……。
「ハルトおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお」
自分でもなぜかわからなかったが突然怒りで我を忘れて声が出た。
セラとハルトがこちらに気付いた時にセラの表情を見て冷静になったが、もう後戻りはできない。
ハルトに近付いて胸ぐらをつかんで立たせる。
「ヒロ何でここに?」
セラに話しかけられたが今は答えるつもりはない。
「ハルト、お前俺に隠してることがあるよな?」
「――それは…」
突き飛ばすとハルトは大きく尻もちをついたが、そのまま下を向いている。
「ヒロどうしたの?」
「黙ってろ!」
黙らせるために大きい声を出したが、セラの泣きそうな目を見て少し後悔する。
だけど今はハルトの方が大事だ。
「お前も転生者なのか?」
ヒロの問いにハルトは少し考えてから「――違う」とだけ答えた。
「ならなぜシルフはお前の過去を隠した?なぁシルフ」
「隠してないよ」
「言えないだけだよ」
ヒロに言われて気まずそうにシルフが出てくる。
「――シルフの考えは分からないけど、俺はヒロとは違う」
「なら冒険者になる前のお前の話を聞かせてくれ」
「――わかった」
その後、ハルトの話とシルフの様子を伺いながら話を聞いたが、ハルトが転生者ではないのは間違いないようだ。
ハルトは生まれた直後に親に捨てられて、精霊に育てられたらしい。
ハルトが使う魔法はその精霊の力を使ったもので回復魔法の殆どは月の精霊アルテミスの力なんだとか。
ちなみに太陽の精霊アポロの魔法も使えるらしいのだが、強力過ぎて制御できないらしい。
シルフがハルトの事を話せなかったのはアポロとアルテミスの息がかかっていたからだとか。
つまりは完全にヒロの勘違いで場を濁してしまった。
正直ハルトが正式に仲間になった時に過去について訊くべきだった。
心のどこかでハルトの事を敵視していたつけが回ってきたのかもしれない。
セラ、ハルト、シルフに謝るとヒロはその場を後にした。
少しするとセラが走って追いかけてきて「大丈夫だから」と手を握ってくれた。
正直返す言葉がない。
人の恋路を最悪の状態で踏みにじった。
ハルトからしたら初めての真剣な恋だったかもしれないし、セラだってそうだ。
二人には上手くいってほしいと言えば嘘になるが、罪悪感で押しつぶされそう。
小屋に戻り扉を開けると何事もなかったようにケティが迎えてくれた。
だが、ケティとしばらく目を合わせていると
「ぷ…ぷぷぷ……ニャ…もうダメニャ!面白すぎニャ」
と噴き出してお腹を抱えて笑い始めた。
「人の告白シーンに勘違いで割り込むとか恥ずかしすぎるニャ。腹痛いニャ」
それを見てセラも笑い
「本当だよ!ヒロ凄い顔で飛び出してくるんだもん」
そう言って胸に飛び込んできたセラを見てヒロも笑いだす。
優しいなセラは。




