妖精の森へ
鉱山都市を出てサザラテラ方面へ向かうとそこには大きな森がある。
その森の奥には妖精たちの住む国のようなものが存在していて、今ヒロたちはドワーフのリロイと妖精のアストリッドと共に妖精王に会いに向かっている。
リロイには昨晩はなぜあの場所にいたか訊かれたが、ケティと訓練をしていてたまたま出くわしたと伝えたらすんなり信じてくれた。
「にしても凄い武器だな。オグのランドバスターも凄いけどリロイの武器も相当デカいよね」
「僕の自信作なんだ。名前はグラントって名付けた」とリロイは背中に背負った大槌をブンブンと振り回して見せた。
リロイのクラスは聖騎士で、右手には大槌グラント、左手には少し大きめの盾を持っている。
最低限の回復魔法と身体強化のスキルを習得しているらしい。
妖精のアストリッドは妖精の魔法が使えるらしいのだが、自身の魔力消費だけで使える魔法と妖精の粉を消費して使う魔法があるようだ。
「それで妖精王ってどんな人なんだ?無視みたいな羽の生えたオッサンとか?」
「ニャーは妖精王の事を知らないのかニャ?」
アストリッドに訊いたはずなんだが、「え?知らないの?」と言った顔でケティが話に入って来た。
「妖精王って言っても今の王は女性で、ティタニアルっていうニャ」
「え?男じゃないのか」
「女王ティタニアルが現れるまではずっと男だったんニャけどニャ」
「女王様かぁ、美人なのかな?」と話を聞いてセラはちょっと楽しみにしているみたいだ。
「アストリッド、それで女王は説得できそうなのか?」
ヒロがアストリッドに話しかけるとアストリッドはリロイの顔を見た後に
「やるだけの事はやってみる」と答えた。
「みんな止まって!」
先頭を歩いていたオグがそう言って立ち止まり盾を構える。
「どうした?」
「あそこに何かいる」
オグが指さした方を見ると確かに何かいる。
身長2メートルほどの真っ黒で細い人型の何か。
体は毛だろうか?ここからではよくわからないがとにかく黒い。
そして最も特徴的なのは顔が前後に二つありその顔はカラスによく似ていた。
「ケティあれは何かわかるか?」
「ニャーも初めて見るけど多分デーモンニャ」
デーモン――バフォメットと同じタイプのモンスターか。
バフォメット同様に戦闘時には手下となるレッサーデーモンを召喚するのだろうか?
恐らくブルーフェアリーがが言っていたモンスターはきっとあいつの事だろう。
もしゲートが近くにあるのであればあのデーモンの親玉も現れる可能性がある。
「待って、私あのモンスターを知っているわ」
以外にも目の前のデーモンを知っていたのはアストリッドだった。
「あのモンスターはマモンと言われていて、戦闘時には二つに分離して襲ってくるわ」
「弱点とかあるのか?」
「分からないけど兎に角すばしっこくて狙われたら逃げるのはほぼ無理だと思う」
「ケティ聞いたか?速い敵はお前が頼りだ」
そう言うとケティは身体強化のスキルをかけ始める。
どうやらみんなやる気のようだ。
というよりも倒さないと先には進めないので仕方がない。
セラとハルトは後ろへ下がり、リロイは前に出てオグと並んだ。
「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」
陣形を整えている間にマモンはこちらに気付いたようでバフォメット同様こちらの発見と共に奇声を上げた。
だが、その声はカラスと獣の声が混ざり合った声でバフォメットとは明らかに違う。
マモンの体が二つに分裂する。
顔が二つあったのは二つの個体が融合していたのだろうか。
それぞれのマモンは両手に魔力で出来た刃を作り出す。
長さは1メートルほどだろうか。
そんな事を気にする間もなく二匹のマモンがこちらに突っ込んでくる。
それをオグとリロイが盾で受け止めた。
「――影の拘束」
ハルトが魔法を唱えるとリロイ側のマモン、マモンBの影が紐状になりマモンを拘束しようとするが、マモンBは魔力で出来た刃で影を切ると素早く距離をとった。
確かにアストリッドが言った通りすばしっこい。
しかしいつの間にかマモンBの後ろにケティが回り込み一撃を叩き起んだ。
どうやらケティがリロイ側のマモンを相手してくれるようだ。
ということはマモンAはヒロとオグ、セラで相手をしたいところなのだが今回は秘策がある。
「セラ、ケティの援護を」
セラが頷いたのを確認して「跳躍強化」とスキルをかける。
跳躍強化――ケティに教えてもらったスキルで、魔力を2消費して膝を足裏に魔力を込め、足裏の魔力を消費して大きくジャンプすることができる。
足裏の魔力がなくなると膝側の魔力も消失するので、複数回のジャンプを行う場合はあらかじめ多めに魔力を消費して足裏に魔力を貯めておくこともできる。
このスキルは魔力の属性変化みたいなものがないのでヒロはすぐに習得することができた。
「オグ、しっかりそいつを抑えててくれよ」
そう言って高くジャンプをして木の上に飛び乗った。
飛び乗って何をするかというと、ここでリロイに作ってもらった新兵器が役に立つ。
ヒロは背中に背負ったクロスボウに矢をかけ、マモンAに狙いを定める。
リロイに頼んで作ったクロスボウは試作品の為最低限のパーツを木で作っていて、少し大きい。
本当はもっと小型にしたかったのだが、この世界にはまだクロスボウの知識はなかったようだし、時間もなかったので仕方がない。
それでも弓を使うよりは何倍も扱いやすいので十分だろう。
引き金を引いてマモンAに矢を発射する。
だが、マモンAは気付いていたようで素早くかわしオグから距離をとるとヒロに向かってこようとする。
「ダメだ!こっちだ!」
しかしオグの発した言葉ですぐさまマモンAはオグに攻撃し始めた。
プロボーグ――魔力を込めた声でモンスターのヘイトを稼ぐオグのスキルだ。
恐らくケティがリロイ側のマモンと戦っているのはオグならしっかりと一匹抱え込むことができるとわかっていたからだろう。
もちろんヒロもそう思ってセラをケティの援護を任せた。
「オグ、当てられるようにうまく動きを止められるか?」
「やってみる」
そう言うとオグはランドバスターを投げ捨てた。
マモンAはそれを見て好機と思ったのか、空いたオグの右側に素早く走り込み刃を突き刺そうとする。
しかしオグはそれが狙いだったようでマモンAの腕を掴んでそのまま投げ飛ばし地面にたたきつけた。
マモンAが上手く息ができないのか一瞬動きが止まる。
その瞬間、ヒロが矢を発射した。
矢は胸に刺さり「ぐがぁぁぁ」とマモンAが声を上げ、そこをオグが盾を振り下ろしマモンAの顔を破裂させた。
「ふぅ」と一息吐いてケティたちの方を見る。
マモンBはやはり速いせいかケティが少し押されている。
だが、上手くリロイがシールドバッシュや大槌を振り下ろし援護している。
どうやらセラとハルトは相手が速すぎて上手く魔法での支援ができないようだ。
「オグ援護するよ」
「わかった」
オグの返事を聞いて大きくジャンプしまた別の木の上に飛び移る。
オグがマモンBの動きを止めればそれでおしまいだ。
クロスボウのおかげで自分も戦力になれるとやはり安心して戦える。
もちろんオグが優秀過ぎるのが一番安心して戦える理由の一つだ。
万が一オグが危うくなってもリロイが第二の盾役になってくれるだろうしハルトもいる。
それでもだめならケティがいる。
そんな安心感がきっとこの事態を招いたに違いない。
そうじゃなかったとしたら運が悪かった。
「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ」
カラスと獣の声が混ざったような奇声が聞える。
マモンBの声ではない。
「兄さんヤバい、あと2匹いる!」
そう言ってオグがランドバスターを拾って走り出す。
新手のマモンが2匹。
それぞれが分裂してこちらに向かってきている。




