ドワーフと妖精は恋をしない
ドワーフ鉱山をかなり登った所にかなり遠くまで一望できる場所がある。
夜の景色のその先にはうっすらとサザラテラの明かりが見えていた。
そんな最高の場所には二人の姿があった。
ドワーフのリロイと妖精のアストリッドだ。
「もうすぐ私たちは世界中をまわれるのね!あの街にも一緒にいけるわ」
嬉しそうに薄いピンク色の光を帯びた妖精がドワーフのまわりをくるくると飛び回る。
しかし「そのことなんだけど…」とドワーフは悲しそうな顔を妖精に向けた。
「ニャー、ついに始まったニャ」
そう言って耳をピクピクさせながら聴覚強化のスキルを使い、二人の会話を盗み聞きしているケティがこちらを見る。
実はあの後二人の事が気になって、戻って来たケティと共につけてきたのだ。
初めは悪いと思ったが、こういう時人は一度始めるとなかなかやめられない。
「なんで!?なんで……そんな……」
最初の一言はかなり大きい声で、ケティの力を借りなくても聞き取ることが出来た。
「僕たちは旅に出るべきじゃないんだよ。君がもうその姿で飛べなくなるのは耐えられない……」
「私は羽を失っても構わない。あなたと同じ姿でいられるのだから」
「それでも……」アストリッドの言葉にリロイが下を向いた。
妖精は妖精王のもとで妖精として一生を生きていかなければいけない。
もしそれを拒んだ場合、妖精は羽を奪われ人間の姿で生きていくことになる。
そのままでは妖精としての魔法も使えなくなり、飛ぶこともできない。
それを知ったリロイはアストリッドの為に二人で旅に出ることを諦めたようだ。
だが、アストリッドの方は納得していない。
このまま二人の話は平行線のまま終わらないかと思ったが、二人のもとに青い光りが飛んできた。
ブルーフェアリーと呼ばれる妖精だ。
「ブルーフェアリー!あなたがリロイに余計なことを言ったのね!」
「余計なことではありません。私はあなたのことを思って」
「私の事を考えてくれるならこんなことをしないでよ!」
「妖精王から離れるのであればあなたは羽を失ってしまう。羽を失ったら外の世界では生きていけませんよ」
「そんなことないわ。リロイが一緒にいてくれるもの」
アストリッドがリロイを見つめるとリロイは何かを言おうとしたが、ブルーフェアリーが先に言葉を発した。
「魔法のないあなたと彼は外でどうするのですか」
「二人で働いて生きていくわ」
「本当にできると思っているのですか」
「できるわ、だって私たちには愛があるもの」
感情的になっているアストリッドに嫌気がさしたのか、それとも呆れたのか、ブルーフェアリーは「はぁ」とため息をつくと「あなた達に愛なんてないわ」と冷たく二人に言い放った。
「妖精は恋をしない。ドワーフも恋もしない。だから妖精は花から生まれ、ドワーフはタマゴから生まれるのよ」
「そんなことない!私たちの気持ちは本物です」
「ならリロイに訊いてみなさい。彼はあなたと違って気付いているはずです」
二人はリロイの方に視線を向ける。
リロイは何か言いたそうだが言葉が出ないようで下を向いている。
どのくらいの沈黙が続いただろうか。
リロイが口を開く。
「ドワーフは恋をしないかもしれない。でも、僕のこの気持ちはその言葉じゃないと説明できない」
リロイの言葉にアストリッドが喜びの笑みを浮かべる。
だが、ブルーフェアリーはリロイの決断を知っているかのように黙っていた。
「――だけど…だから、彼女の羽が奪われるようなことはしたくない」
「なんで……」浮いていたアストリッドは力が抜けたのかフワフワと地面に落ちていく。
「ごめんアストリッド……」
リロイはしゃがみアストリッドに手を差し伸べた。
ブルーフェアリーは勝ち誇った様に何か言おうとしたが、物陰から出てきたヒロに気付いたようだ。
「その話ちょっと待った」
そう話しかけると「あなた達は」とブルーフェアリーがヒロに話しかける。
「妖精は誠実に生きる者の夢を助けるんですよね?その二人はその妖精が助けるべき者なんじゃないんですか?」
「妖精は別です」
「ならリロイの夢は?」
「彼は彼女とここで暮らすことを選んだではないですか」
「そうなのか?」そう言ってリロイの方を向くとリロイは頷きかけたが、ケティが空気を呼んだらしくリロイの顎の下に手を置いてそれを阻止した。
「ブルーフェアリー、リロイはまだ納得して無いみたいですよ」
「あなた達は何がしたいのですか」
「その妖精王に会わせてほしい」
「それは出来ません」
ブルーフェアリーは何を言っているんだという顔をしたが、アストリッドが再び飛び上がり
「そうよ、妖精王様に直接お願いさせてください」
「本当に呆れました。なら好きにするといいでしょう。ですが、飛べる私には関係ありませんが、今鉱山都市と妖精の森の間には強力な魔物が屯しています。もし妖精の森に来るのであれば気を付けることですね」
そう言ってブルフェアリーは飛び去って行った。
「聞いたかリロイ。力を貸すよ」
「え、えっと‥‥」
「それじゃ、俺達は明日の朝に仲間を連れて会いに行くから準備しておいてくれ」
そう言ってグっと長指を立てキメ顔をすると、回れ右をしてヒロは走り出した。
しばらくすると追いついたケティが横に並んで「ニャニャー、面白くなってきたニャ」と笑みをこぼした。
とりあえず今は隠れて覗いたことがバレるのが嫌なので全力で走って宿の方に向かっている。
妖精の王の事なんてぶっちゃけ今はどうでもいい。
明日の為になんであの場に居合わせたかの言い訳を考えなければ。




