セラの両親
エルフという種族をどう思うだろうか。
それは人それぞれ違うことは間違いないはずだ。
弓が得意な種族というイメージが強い人もいれば、魔法が得意と思っている人もいる。
もちろん両方もありえる。
共通認識としては美しい容姿に長い寿命、長く生きた分蓄積された知識とそれに見合った気品。
だが、実際蓋を開けてみるとそんなことはない。
確かにイメージ通りのエルフがいないわけではないが、結局は見た目が若いままの老人だ。
ようは長く生きた分融通が利かず、自分のエゴが強すぎて他人の考えや意見に耳を貸すことができない。
元居た世界に彼らがいたら間違いなく『老害』と呼ばれていただろう。
なぜこんなことを言い出したかと言うと、今いるこの家の主に訊いた話と知りえる知識を合わせた結果エルフがクズだと思ったからだ。
エルフたちは元々他の種族とは関わらず、エルフだけの国で自給自足で暮らしていた。
しかし、一人のハーフエルフが生まれてその歴史は大きく変わる。
禁忌とされていた他種族との交わりに嫌悪を示したエルフの王によって、ハーフエルフとその両親を抹殺することにしたのだ。
数年の逃亡の末ハーフエルフの両親を殺されたが、ある冒険者たちによってハーフエルフは命を救われた。
後にそのハーフエルフを加えた冒険者六人は魔王軍を西の大陸へ追い込み『六英雄』と呼ばれるようになったのだが、話はそこで終わらない。
英雄になったそのハーフエルフは強力な魔法を行使しエルフの国を攻撃したのだ。
エルフの大半は死滅し絶滅の危機を迎えたエルフたちは国を捨て、エンシェントドラゴンが住まう今の森へと移住することになった。
これがオッサン(神様)に貰ったこの世界の事が書かれた本に記載されていた内容だ。
ここからはこの家の主、つまりはセラのお母さんに訊いた話。
今の森に移住したエルフたちはさっそく住むための家を作り始めたのだが、すぐに問題が発生した。
何の準備もなく逃げ出したエルフたちには道具も食料も何もなかったのだ。
もちろん他種族との交流がなかったエルフたちは助けを求められるわけもなく、通貨も持っていない。
それを見て哀れんだエンシェントドラゴンは自らの鱗を彼らに渡し、人間の街で鱗を売ってその金で道具を揃えるように伝えた。
その当時、サザラテラはまだ出来たばかりで大陸のあらゆる大工達や資材、道具が集まっていた。
エルフ達は鱗を売った金で道具と食料を買い、それ以降は森でとれる薬草を売って暮らし始める。
しかし、その生活は長くは続かなかった。
数年がたち住む場所や狩り場、畑も出来てきたが食料問題がどうしても解決しない。
薬草も数が減り、エルフ達は満足な食事ができなくなったのだ。
そんなエルフ達を救ったのは一人の人間の冒険者だった。
エンシェントドラゴンに会いに来た冒険者のパーティの一人がエルフの里に残り、彼らの生活を立て直すと約束したのだ。
彼の名前はセイイチ。
セイイチはエルフ達が使う明かり替わりの魔法石の光に特定の植物の成長を促進する能力がある事を突き止め、胡椒を作ることになった。
その当時の胡椒は金と同等の価値があり、エルフ達の懐はあっという間に潤った。
しかしセイイチはそれで満足するのではなく、次は畜産業を行うことに。
幾回もの交配を繰り返し、食用の大人しい豚を作り出したのだ。
胡椒と豚の二つの収入源を得たエルフは、初めに鱗を与えてくれたエンシェントドラゴンに小さな城を作り、セイイチを家族のように迎えた。
セラが生まれたのはその翌年。
つまりは15年前ということになる。
禁忌とされていたハーフエルフだが、彼らはセラを受け入れた。
と言うのも、生き残ったエルフの殆どは元々ハーフエルフに特別嫌悪感を示していたわけでもなく、六英雄となったハーフエルフと仲良くしていたものもいた。
それでも歴史は繰り返してしまう。
ある事件がきっかけでセラはこの里にいられなくなった。
セイイチが仲間のエルフを喰ったのだ。
倒れたエルフの腸を引きずり出し、生き血をすするセイイチを見てエルフ達は恐怖し、すぐさま彼の頭を弓で射貫いた。
だがそれだけでは終わらなかった。
その日を境にエンシェントドラゴンに会いに行った者は全員が食人鬼となって里に戻ってきたのだ。
エルフ達はエンシェントドラゴンの城に結界を張り封印し、足を踏み入れることを禁じた。
それからしばらくして、セラ達への攻撃が始まったらしい。
そしてセラのお母さんはセラを逃がし、自らは攻撃の的になったのだ。
これがセラのお母さんに訊いたエルフ達の物語。
明らかにエンシェントドラゴンに何かあった事は分かる。
それでもセラ達を攻撃するのはお門違いだから許さないと言われると実はそうは思っていない。
これは自然な流れだからだ。
この世界にはネットがない、SNSが無い。
例えば学校で誰とも打ち解けれない人はどうしていただろうか。
嫌なことがあった人はどうしていただろうか。
大抵はネットに吐き出していただろう。
しかし、閉鎖された里という一つの空間で捌け口がないとどうなるだろうか。
それを束ねるものはどうするだろうか。
間違いなく捌け口を用意する。
元居た世界でもネットがなかった時代は民衆の攻撃対象になるべき人柱の様な階級の人間が存在した。
部落や奴隷と言えば想像は付くだろうか。
別にネットがあったとしても、この捌け口を用意するシステムは残っている。
警察学校やブラックと呼ばれる企業では人柱とも言うべき一人を全員で攻撃し、統率をとるなんて事はいまだによく耳にする。
実際に自分が同じような状態になったらもしかするかもしれない。
ならなぜクズなんて言葉を使ったかと言うと、自分たちを救ってくれた人間の家族を攻撃しておきながら、なおも人間の知恵に縋りつこうとしているからだ。
それでも仕事は仕事だ。
金になるのだから最低限は知識を渡そう。
――少し気が重くなったが、嬉しそうに部屋から出てきた彼女の顔を見て頑張ろうと思った。
「ライラさんありましたか?」
「はい、これが主人の冒険者時代の荷物です」
そう言ってライラに渡された背負い袋の中身をその場に広げる。
セラのお母さんはライラと言う名前で、セラの名前は両親から一文字ずつ貰ったようだ。
ライラはセラの話を聞いてとても喜んでいた。
そして幼いころのセラの話や、セイイチの話を聞いてあることに気が付いたのだ。
「――あった」
荷物の中から小さい手帳を見つけて手に取る。
「それに主人がよくメモを取っていたのですが、誰も読めないんです」
「私は読めますよ」
それもそうだ。
この手帳の表紙には農業高校の名前が書かれている。
セラの父親、つまりセイイチは転生者だ。
パラパラとページをめくると色々な知識が書かれていた。
恐らくは忘れる前に覚えていることを書き起こしたのだろう。
胡椒と船を交換!とかエルフ達が使う魔法の石で成長促進が見られた植物一覧や今後の方針なども書かれている。
「なぜヒロさんは主人が書いた文字が読めるんですか?」
「ん~、セイイチさんはどこの文字とか言っていましたか?」
「自分のいた国の文字とだけ」
「その国がどこにあるかは知ってます?」
「いえ、最後まで教えてくれませんでした」
「そうですか……」
やはり転生者たちは家族に転生者であることを隠しているようだ。
皆どこで話してはいけないと気付いたのだろうか。
「質問の答えですけど、私もセイイチさんと同郷だからです。ですがこのことは秘密にしてください。一緒に行動をしているセラにも危険が及ぶかもしれません」
濁すことも考えたが、セラの母親なのだから伝えるべきだろう。
ライラは「――はい」とだけ答えてそれ以上は何も話さなかった。
外はもう明るくなってきている。
手帳の内容も読んでおきたいし、これ徹夜確定だな……。




