対人戦2
ゴボっと水を吐き出し目を覚ます。
当たりを見渡すと砦前の大きな広場に横たわっていた。
上級魔法タイダルウェーブによって4階から流されたようだ。
あたりは一面が大きな水たまりになったかのように水浸しになっている。
――仲間たちは……見つけた。
ハルトがちょうどオグに人口呼吸をしようとしている。
セラは――ケティと一緒にいる。
「ケティやつらは」
「あそこニャ」
ケティが示す先を見るとランド、ハリーがちょうど立ち上がるところだ。
どこから来たのかウォータがフレイを背負っている。
お互いに武器は流されて持っていない。
だが、あちらこちらに転がっている死体と共に、彼らが使っていたであろう武器が散乱しているので素手でやり合うということは無さそうだ。
ハリーが両手に小さめの剣を取り、ランドが両手斧を拾い上げる。
「オグが起きたらこれを使わせて」そう言って拾った盾を二つハルトの横に投げる。
見渡してもオグの盾とランドバスターが見当たらない。
武器が絶望的に使えないオグは恐らく両手に盾を持たせて戦わせた方がましだろう。
ヒロは手近にあったロングソードを拾う。
左手のバックラーは残っているので何とか戦えるだろう。
「ケティはハリーを、俺がランドと戦う。セラはウォータに警戒して」
「うん」
「わかったニャ」
オグの意識はまだ戻っていない。
だが、ケティがいれば何とかなると思ったがそうでもなかった。
隣に来て「ニャーは今日はもう変身できないニャ」と気まずそうに言った。
「なんで?」
「ニャーはあの姿が好きじゃないニャ。それにまだ体が安定しない状態で戻ったらもうこの姿になれないかもしれないニャ」
ケティが頬を掻く。
「まぁ仕方ないか。努力するよ」
「それでも命に係わるときは変身するニャ」
そう言い終わる前にハリーが向かってくる。
ハリーの狙いはヒロの様だが、それをケティが阻止。
ヒロは後ろからついてきたランドの前に躍り出る。
「まぁハリーより弱そうだって事で相手してください」
「ブハハ、俺によくそんな口が利けたもんだ」
ランドが斧を振り下ろす。
後ろに飛んで交わしたが、斧はとんでもない水飛沫を上げて地面を抉る。
「これでも弱そうって?」
「まぁハリーよりはね……」
実際、敏捷で手数がとにかく多いハリーを相手にするよりは、動きが遅いランドの方が逃げる分には戦いやすい。
ロングソードでフェンシングのように突き攻撃を行う。
ランドはガードするわけでもなく紙一重で綺麗にかわす。
この人馬鹿みたいに一撃を叩き込んでくる人だと思ったけど、なかなか器用だ。
ランドが大きく振りかぶる。
それに合わせて後ろに飛ぶとランドは斧を振り下ろさずタックルを仕掛けてきた。
まともに喰らったので耐え切れず転倒する。
「初心者じゃこんなもんだな」とランドが斧を振り下ろす。
「衝撃波」
自信を中心に魔力の衝撃波が発生する。
ランドは吹き飛ばされはしなかったものの、少し仰け反り衝撃波が水溜まりの水をまき散らしランドの目に入った。
「ぐぐぐ、女のような戦い方をしやがって」
「そうやって女性を軽視するのはよくないんじゃないですかね」そう言って立ち上がる。
「なら正々堂々と武器で戦えってんだ」
ランドが斧を振り下ろすが今度は確認してから後ろに飛んでかわす。
びちゃびちゃと足元が水浸しで動きにくい。
あれだけの大津波が直撃したのだから仕方がない。
ここにいる全員が踝より上まで水に浸かっている。
――ん?
「セラ!ザリガニ作戦覚えてる!?」大声でセラに伝えると「覚えてる!」と返ってきた。
多分いけるか?
「ランドさん悪いけど俺の勝ちだ」
ロングソードをランドに向かって投げつける。
「血迷ったか」と斧でそれを弾くがそんなのはどうだっていい。
「空中浮遊」
無重力状態になってランドの方に向かって地面を蹴る。
「このまま叩き切る!」
ランドに向かって宙に浮き突っ込むヒロに斧を振り下ろそうとした時だった。
「――ライトニング!」
セラが地面に向かってライトニングを放つ。
杖がないが魔法発動は杖無しでも可能だ。
セラの杖は魔力消費を上げて威力を底上げする効果があるが今はそんなことは関係ない。
セラを含め、全員に電流が走りビクっと痙攣する。
ただ一人、宙に浮いているヒロを除いて。
ランドの手に思い切りバックラーを叩き込む。
電気が流れて手の筋肉が硬直していたせいか、それともランドが凄いのか斧を落とすことはなかった。
しかし、その勢いを使ってランドの後ろに回って腰に手を当てる。
「振動」
ランドは鎧の上からでもわかるビール腹だ。
恐らく背中からでないと内臓は狙えなかっただろう。
離れるとランドはこちらに攻撃しようとしたが、ピタッと止まり異変に気付く。
「内臓を揺らしたから吐きそうでしょ」
ランドは返事をする前に膝から崩れ落ち、それからとんでもない量を嘔吐する。
蹲り嘔吐するランドの顔を横から思い切り蹴り上げると気絶したのか動かなくなった。
あとはハリーとウォータだ。
二人を探すとウォータがいない。
いたはずの場所にはまだ意識が戻らないフレイが横たわっている。
「セラ、ウォータはどこ行った」
「ごめんなさい。多分痺れたときにいなくなった」
「あいつ魔法使いのくせに忍者かよ」
「――アサシンだ…」
「衝撃波」
耳元でささやかれ咄嗟に衝撃波を放つ。
声をする方向にはダガーを持ったウォータが立っている。
首が熱い。
右手で触るとかなり血が付いている。
「修復」
首の傷口を抑えて応急処置を始める。
「ランドに女みたいって怒られませんでした?」
「――あいつはそんなことを気にしているから、あんたに負けた」
「そうかもね」
こうやって対峙するとウォータはかなりやりにくそうだ。
魔法使いと言えば接近して物理で殴れば圧勝できるイメージだが、アサシンとか言われると一気に近寄りがたい。
セラのライトニングを使った方法も恐らく攻撃速度の速いダガー相手には使えそうもない。
ケティとハリーは激戦真っただ中だ。
このまま近寄らないと言う方法を取りたいが、中級魔法の知識がないのに魔法使い相手に距離を取るのも危険だろう。
上級魔法は大量の魔力を消費するので、あと数回程度しか中級魔法を使えないと考えてもかなり怖い。
オグはどうだろう。
オグの方を見るとまだハルトが心臓マッサージと人工呼吸を続けている。
――無理そうか。
ウォータの方に視線を戻したとき異変があった。
またウォータがいない。
しまった。アサシン相手に目を離すのは自殺行為だった。
ぐるっと周りを見渡す。
自分を狙うとは限らない。
セラ達はくっついているが明らかに無防備だ。
ハリーに加勢されたらケティが危ない。
首の傷口を治療していた右手を放す。
血は止まったようだ。
手近にあった武器を拾う――手斧……筋力がないヒロにはロングソードより使いやすい。
傷の確認に武器を拾うなんていうスキを見せたのに、ウォータは攻撃を仕掛けてこなかった。
って事は――。
「セラ!警戒しろ!」
「――警戒するのはお前だ」
「衝撃波」
距離はとれたが間に合わなかった。
というよりもさっきと違い、刺してから声をかけられた。
息が上手くできない。
間違いなく急所を刺された。
両膝をつく――。
強くなったのはパーティで、決して自分じゃない。
調子に乗った行動だったのかもしれない。
こんな状態で反省するの何回目だよ。
くそ――。
水面の濁った水に赤い血が混ざりゆっくり広がっている




