成人の儀式
「おいおいオグ、お前姉ちゃん同伴で儀式うけるってマジかよ」
「陰に隠れるなら盾だけにしとけよ」
「うっせー、てめぇらぶっ飛ばすぞ!」
オグを揶揄ったオークたちをネグが鉄の棒をブンブンと振り回し追っ払う。
恐らくオグの装備のせいだろうというのは気付いていた。
「オグお前もお前だぞ!言われたら何か言い返してやれ!」
「でも、僕の装備はこれだから」
「それでもなんか言い返せっていうんだよ!」
ガシャガシャと音を出しながらオグは頭を掻く。
オークたちの装備はみな軽装で、大きな棍棒や大斧、大剣などを担いでいた。
それに対してオグは全身板金鎧にヒロが丸ごと隠れられるような大きな盾、そして大剣。
冒険者から見たら立派な装備で強そうなのだが、オークの村全体を見た後だと一人だけ場違いな装備をしているのが分かる。
「それで今回はどこまで向かうんです?」
「んなもん今日中に一気に頂上まで行って終わらせるに決まってんだろ」
「それが理想だけど、頂上付近はバフォメットがかなりいるんですよね?ネグさんたちの実力は分からないけど、俺体の実力じゃバフォメット二体と出会った時点で終わりですよ」
「そこはアタシとそこの猫でバフォメットをぶっ潰して、あとはオグとあんた達がやればいい」
「それって俺たち4人で8体見ろって事でしょ?どう考えたって無理でしょ。な、ケティ」
「ニャー、確かにそうかもしれないニャ……でも、そのオークの女の人はニャーと同じくらい強いのは間違いないニャ」
「バカ、猫よりずっと強いに決まってるだろ」
「ニャー?じゃぁ勝負するかニャ?」
「おっし、なら勝負だ猫」
オークの成人の儀式はいたってシンプルで、オークたちの住む山の頂上に設置された祭壇に置かれたジジの腕輪を持って帰ってくるだけで良い。
しかしフレアリザードや火山竜と呼ばれる翼の無い竜が生息しており、場合によっては命を落とすオークもいるそうだ。
それに加えバフォメットが現れたことによってかなり難しくなっていたのだが……。
「ブレイブ、スピリットブースト、跳躍強化」
ケティが身体強化のスキルを使って突っ込みバフォメットを吹き飛ばす。
「じゃぁニャー達はレッサーの方を頼むニャ」
「ふざけんじゃねーぞ猫!」
パンパンと軽く弾ける音がすると思ったらレッサーデーモン二体の頭が弾け飛んでいた。
「マジかよ」と思わず声が出てしまう。
ネグは棒術を使うのだが、その棒術に使う棒が木製ではない。
恐らく鋼鉄で出来た1.5メートルほどの棒を軽々と振り回し一瞬でレッサーデーモンを仕留めたのだ。
「2匹だったら何とかなるだろ、頑張んな」
そう言ってネグはケティの方へ走る。
「オグ一体任せた。セラ、ハルトは作戦通りやるよ」
「任せて」
オグがレッサーデーモンAにシールドバッシュを仕掛ける。
レッサーデーモンAが派手に吹っ飛ばされているのを見るとオグに任せても大丈夫そうだ。
「――影の拘束」
ハルトの魔法でレッサーデーモンBが紐状になった自らの影に足を拘束される。
それを確認すると後ろに回ってレッサーデーモンBの背中に小刀を突き刺す。
それで終わりだった。
一対複数だとこんなに簡単なのか。
オグの方を見ると見事な盾使いというべきか、完全にレッサーデーモンAの攻撃を防いでいる。
見事なもんだなと思ったが、なかなか決着がつかない。
というのも、オグの攻撃が全く当たっていないのだ。
どの攻撃も大振りで、レッサーデーモンAは簡単に避けている。
「オグ、盾で転ばせて叩き込め」
「わかった」
シールドバッシュを叩き込みレッサーデーモンAを転ばせる。
そこに大剣を振り下ろしたのだが、大剣はレッサーデーモンAには当たらず地面に突き刺さった。
「――助けに入った方がいいんじゃ」
「わかってるけどちょっと待って」
オグの盾の技術はかなり凄いといってもいい。今も起き上がったレッサーデーモンAの攻撃を軽くあしらい全く危なげがない。
しかし、大剣の攻撃にまわるとなると一気にド素人になる。
「オグ、攻撃するとき盾に添わせて大剣で突いて」
オグは軽く盾でレッサーデーモンAを押し、大剣を盾に添わせて突きを入れると見事にレッサーデーモンAの胸に突き刺さった。
「お、やるじゃねーかオグ。珍しく攻撃が当たったな」
「ニャー、にしても見事な盾捌きだったニャ」
「あいつは攻撃はからっきしダメだけど、防御に関しちゃ爺さんも驚いてたからな」
ケティとネグも戦闘を終えて様子を見ていたようだ。ってかあの二人強すぎだろ。
その後もバフォメットとの戦闘は問題なくこなすことができた。
というのも、ケティとネグがとにかく強すぎる。
二人は競うようにバフォメットの初撃を奪い合い、出遅れた方がレッサーデーモン2匹を処理するというルールのもと戦っていたのだが、全ての初撃をケティが奪い、ネグがレッサーデーモンを瞬殺するという流れが完全に出来上がっていた。
ケティはレッサーデーモン二匹の相手が限界って言ってたし、わかっていてネグに勝負を吹っかけていたのかもしれない。
「ちょっと待て」
ネグに言われて全員歩みを止めて岩陰に隠れる。
「ニャー、あれはまずそうニャ」
「だろ、まさかこんなんになってるとはな」
「いったん戻るニャ?」
「まぁ仕方ねぇだろな」
「二人で話してないで俺にもみせてくれ」
岩陰から二人が覗いていた方向を覗くと確かにいったん戻るしかないと確信した。
火山竜――かなり太めのトカゲとドラゴンの中間位の竜で、背中に翼がないのだがその代わりにびっしりと鉱石がくっついている。体長は3~4メートルほどで皮膚は岩のように固く刃物での討伐はほぼ無理と言ってもいいだろう。
オークたちは集団でこの火山竜を狩り、背中の鉱石を売って収入を得ているのだが今ここにいるメンツでは到底倒すことはできない。
しかし、問題は火山竜ではなかった。その後ろに黒いなにか鉱石の様なもので出来た門が立っており、その門からバフォメットが現れたのだ。
「なにあれ?ネザーゲートかなんか?」
「ネザーゲートが何かわからニャいけど、あの門は別のどこかにつながってるニャ」
「ってことは、最近このあたりにバフォメットが現れたのって」
「十中八九あの門のせいニャ」
「話はもういいか?ぱっと見でバフォメットが7体はいるし、その周りには火山竜がいるから戦闘になったら逃げるだけで何人かは死ぬぞ」
「火山竜はなんでバフォメットを襲わないんだ?」
「火山竜は岩を喰うから他の生き物に手を出すことはない。だけど近くでドンパチやったらどうなるか分からない」
「わかった。じゃぁ帰ろう」
そう言って振り向いた時には遅かった。
「きぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
黙ってベテランの二人に従ってとっとと帰るべきだった。
門に戻っていたのだろうか、後ろから二匹のバフォメットに見つかりバフォメットが奇声を上げる。
それを聞いた門の近くのバフォメット達も一斉に4本の腕から魔法陣を展開しながら走りだす。
「まずいケティ、ネグ」
そういった時には既に二人とも後方の敵に向かって走っていた。
「ケティとオグでバフォメットを突き放して!ネグはレッサーデーモンを」
ケティがバフォメットAを蹴り飛ばし、オグがバフォメットBにシールドバッシュを叩き込んで召喚された8匹のレッサーデーモンから引き離す。
そこをネグがパンパンパンパンと4匹のレッサーデーモンの頭を粉砕し瞬殺。
それを見た残りの4匹はネグと距離を取る。
門の方からは40匹近いバフォメットとレッサーデーモンが向かってきている。
ここまでくるまでの戦闘時間から考えると、道を塞いでいるバフォメットを倒す前に40匹のモンスターたちに囲まれてしまうだろう。
「セラこっちに来て」
「なんで?私たちも戦わないと」
「空中浮遊」
セラを抱きかかえて無重力状態の様な状態になり、地面を蹴り空中へ浮かぶ。
「いいかセラ、逃げるよ」




