食事
セラを抱きかかえたまま空中浮遊の魔法で少しずつ浮かび上がる。
「ウインドブラスト」
セラの杖先から圧縮された空気の塊が飛んでいき、地面にぶつかると空気が一気に解放され爆風が起きる。
その風でヒロとセラは地上20メートルほどの高さまで一気に浮かび上がった。
空中浮遊の魔法はもともと一人用だが、飛び道具を持たない相手からの緊急逃走用にヒロは二人+荷物分くらいなら浮かび上がらせるようには練習をした。
といっても、今回逃げようとしている相手のバフォメットは魔法による遠距離攻撃があるので、もちろん飛んで逃げることは不可能だ。
「よし、セラ頼んだぞ」
「永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」
セラが魔法の詠唱を始める。
いまセラが使える唯一の中級魔法で、唯一魔法の詠唱が必要な魔法だ。
下級魔法は魔法発動前に魔力と発動後のイメージを練り合わせて発動させる為、発動までに呪文の詠唱は必要ない。
しかし中級魔法は習得前にその魔法の属性に対応する精霊と対話し、その属性の魔法を行使する為の交渉が必要だ。
そして魔法発動に呪文詠唱が必要になる。
セラは水の精霊ウンディーネと対話し水属性の中級魔法の資格を得た。
「水の威圧」」
セラの杖先に魔法陣が発生し、その魔法陣から勢いよく加圧された水が噴射される。
樹木なら簡単に切り裂くその水が飛んでいく先はバフォメット達ではなく――火山竜。
完全には切り裂けないが火山竜の頭から血が噴き出す。
「ぐぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
攻撃された火山竜が暴れ、近くにいたバフォメットとレッサーデーモンが尻尾でなぎ倒す。
巻き込まれなかったバフォメット達は火山竜に攻撃されないように様子を見ている。
「上出来だよセラ」
「上手くいって良かった」
「ケティさっさと終わらせて逃げるぞ」
上空から見るとケティ達は最後のバフォメットに止めを刺したところだ。
「俺とセラはこのままある程度のとこまで浮いていくから」
「わかったニャ―!上からついてくるニャ」
ケティが両腕で大きな丸を作る。
早い段階でセラに中級魔法を覚えてもらっておいてよかった。
結構な値段したけど……。
「それじゃぁ移動するからセラも風の魔法で移動手伝って」
――――――
オークの村に着くとオグとネグは族長に門の事を話すために一旦別れた。
ケティ、セラ、ハルトはネグの家で待機してもらって、ヒロは今オークの村の鍛冶職人の店に来ている。
「おじさん鎧の修理終わってる?」
「おう、ちょうど終わったところだ」
オークの村に来る途中レッサーデーモンにやられて鎧はボロボロ、服はズタズタだったので、ヒロはさっきまで着替えに鎧なしで戦闘を行っていた。
鎧がない分身軽で動きやすかったのだが、やはりまもりが薄い分一回一回の戦闘がいつも以上に緊張感のあるものだった。
オークの村で買えればよかったのだが、鎧も武器もオークサイズで使えそうなものは殆どなかったので仕方がない。
「さっすが、オークのデカい腕じゃ無理だと思ってたけど完璧な仕上がりだね」
「あったりめぇだろ、オークだって職人は繊細なんだよ」
「それじゃ腕を見込んで作ってほしいものがあるんだけど」
「おう言ってみな」
――――――
「え?嘘でしょ?涙が出そう」
「喜んでもらえて何よりですじゃ」
「そりゃそうですよ」
門を見つけて帰ってきた日の夜、族長に夕食に呼ばれたのだが出てきたものに感動の涙が出てきた。
和食――白米に味噌汁、漬物だけじゃなかった。
その横に並んでいたのはジャポンでも食べれなかったある食べ物。
天ぷらだ。
ただの天ぷらじゃない。
色とりどりの野菜に魚の天ぷら――。
揚げ物自体はどの酒場でもあったのだが、天ぷらやカツなどの衣があるものは存在しなかった。
ヒロも自分で作れないかと何度か試行錯誤してみたのだが、パン粉がなかったり、火の加減が上手くいかず納得いくものは作れていなかった。
しかし今出てきた天ぷらは衣も火の通り加減も完璧だ。
「オークの食事がこんなに繊細なものだとは思ってもいませんでした」
「いえいえ、これは殆ど我が家だけで、他のオークたちは肉や魚を豪快に焼いて食べておりますよ」
「こんなに美味しい天ぷらがあるのにもったいない」
「おや、天ぷらという名を御存知でしたか」
「あぁ、それは恐らく先代の族長と同郷だからだと思います」
「ネグの話を聞いてまさかとは思いましたがやはりそうでしたか」
「良ければ先代の族長話を聞かせてもらえませんか」
――族長、ネグ、オグの話だとオークと人間の同盟を組ませた先代の族長、つまりはネグたちのお爺さんはサトルという名の人間で合気道を使っていたらしい。
素手でその当時の族長と戦い、自分より1メートルも大きいオークを片手で投げ飛ばしたサトルは人間との争いをやめさせこの火山に移住。
村からサザラテラに街道を作り、途中には田園、山魚を育てる為に生け簀を作も作ったそうだ。
それからオークの戦闘力を生かし、火山竜を狩って背中の鉱石をサザラテラで取引を行えるようにした。
さらに村には温泉が湧き出ていたため器用なオークを集めて建築技術をサザラテラに学びに行き、今の温泉の建築ができたらしい。
今の族長と一部のオークはサトルに合気道を習ったそうだが、ネグは武器を振り回したかったらしく棒術を教わったそうだ。
他にも戦わないオークの女性たちは料理と回復魔法を学んだり、どのオークも最低限の農業ができたりとサトルを中心にオークはそれまでと比べ物にならないほど生活水準が上がり、戦いで数が減っていたオーク達は絶滅の危機を逃れた。
「あぁ美味しかったなぁ」
食事が終わりネグとオグの家に戻ると縁側で空を見上げる。
サトルの話が終わった後、門の話になった。
門はネザーゲートと名付けられ、明日には村のオークたちと破壊するために向かうことに決まったのでもうみんな眠りについている。
「ヒロ、あんたは酒は飲めるだろ?」
そう言ってネグが横に座り酒の入った木のコップを手渡してきた。
「いや、俺は酒は飲まないんだ」
「ただの酒じゃねぇ、アタシが注いだ酒だ」
「確かにそうだね。美人が注いだ酒はあまーい砂糖水みたいなもんだ」
「だろ?」
一口飲むとガツンとアルコールが体に染み渡る。
蜂蜜酒かなんかだと思ったら日本酒だ。しかもかなり強い。
「かなり強いの飲んでるんだね」
「こんなもん水みたいなもんだろ」
「そうかな、俺はもうクラクラかも」
「弱いんだな」
「もう何年も飲んでないからね」
「なんで酒を飲まないんだ?人生もっと楽しめよ」
「楽しんでたよ。でも、俺のいたところは酒以外にも娯楽は沢山あったんだよ。それに酒は失敗のもとだしね」
「それだよ。爺さんの話はしたんだからこんどはヒロの話を聞かせてくれよ」
「そうだな……何の話から聞きたい?」
それからネグと元居た世界の話をした。
ネグは口は悪いが純粋で、目を輝かせながら話を聞いてくれた。
純粋さで言えばセラも負けてはいないがなんて言うか――エロい。
服装もそうなんだけど、鍛えられた体の曲線が美しい。
オレンジ色のショートカットも可愛いし、鼻や牙も人間に近いから全然違和感がない。
何より月明りに照らされた緑色の肌がとても綺麗だ。
そりゃチャンスがあればいっちゃうよな。
うん。いっちゃうよ。
――――――
朝日が眩しい……もう朝みたいだ。
横を向くとネグが寝息を立てて眠っている。
ネグの腰に手を回すと柔らかい皮膚と、その下にしっかりと鍛え上げられた筋肉の硬い感触。
あぁスターロード、今ならわかる。緑の肌の女って最高だな。
幸せを感じているとトントントンと扉を誰かがノックしてネグが目を覚ます。
「――誰だ?」
「セラです。ヒロがどこにもいないんだけど知りませんか?」
「ヒロならここにいるぞ」
ネグに言われてセラが扉を開ける。
『あ……』
セラと目が合い同時に声が出る。
「セラおはよ」
布団をかぶってはいるが、全裸で寝ている二人を見てセラの顔が真っ赤になる。
「あ……え…えと…ごめんなさい」
バタンとドアを閉めてセラはどこかへ行ってしまった。




