60. 躍動する小兵
二回戦が終了し、49校あった出場校も16校まで絞られた。甲子園の日程も、いよいよ後半戦へと突入だ。
三回戦、八幡は春に敗北した金珠高校と対戦しリベンジを果たす。今大会3本のホームランを打っているプロ注目打者の氷露臥龍もノーヒットに抑え込んだ、やったぜ!
四回戦は序盤にこちらの打線が大爆発、大量のリードできたので俺→細川→河野→菊池と継投して、危なげなく逃げ切った。お陰で俺は次戦に向けて体力温存できたし、来年ダブルエースでやっていくであろう河野と菊池が甲子園のマウンドを経験出来たのも大きい。
そして準決勝。
勝ち残った4チームの抽選により、俺達の相手は一年目の夏に負けたマンモス校である大阪府代表、大阪十陰高校に決定。
そのスカウト・育成スタイルは『甲子園で勝つ』のと同じくらい『プロ野球選手を輩出すること』を重視している。
伸び代の大きい大型選手を優先的にスカウトし、プロでもホームラン打者や本格派投手としてやっていけるスケールの大きな選手となれる様に教育していくらしい。
その甲斐あってかこの大阪十陰、プロ志望の有力選手が沢山集まり、現在なんと四人ものドラフト候補を擁している。そして、府大会の決勝で二年連続春の準優勝高であるLP学園を撃破して以降、ここまで甲子園を圧倒的なスコアで勝ち上がってきた。
うーん、超強敵!ということで……
「プレイボールが待ち遠しいなぁ、匠!」
「今日はまた一段と笑顔っすね……」
「えっ?」
どうやら無自覚に笑っていたらしい。でもまあ、そりゃそうか。
前世、テレビで見るしか出来なかった相手と対戦。そしてリベンジマッチだ。
楽しい工作を待ちわびる熊の様にワクワクしてるし、燃えてるぜ!
さあ、試合開始。
一回の表、プロ注目の大型選手が打席に立ち野球部と同じく名門である大阪十陰吹奏楽部による『アフリカン・シンフォニー』が鳴り響く。まるで巨象の行進の様な凄い迫力だ。
「でも、八幡も負けてへんで!」
言いつつ、150キロのストレートをぶち込み三振を奪……いや、いきなりこれに当ててくるんかい!
打球はショート後方にとんだ難しいフライだったがーー
「河野、ナイスキャッチ!」
「湊先輩、ワンナウトです。皆しっかり守るんで、どんどん打たせてください!」
そう、向こうも強いが、俺達だって強いんだ。あちらはプロ注目選手が四人。でも俺、匠、ニック、細川の四人はきっとそれに負けてないし、河野はじめほかのメンバーだってみっちりトレーニングを積んできたもんね!
そんな、両者の実力が伯仲した試合の均衡を破ったのは、ウチの二番センター、菊池だった。
身長166センチ。全員が175センチ越えの大阪十陰の選手達と比べると『小兵』の部類に入る菊池だが、応援曲『負けないで』を背に何度も出塁しホームベースを駆け抜けることになる。
「湊先輩、ホンマありがとうございます!ワイ、あの日八幡に行くこと決めてホンマに良かった」
「いや、お礼言うのはこっちの様な気が……」
たぶん本日、攻守ともに一番輝いてたのは菊池だ。
試合の中盤、走者一、二塁からエンドランがかかり、左中間へ飛んだ打球を菊池がダイビングキャッチしダブルプレーに仕留めてくれたお陰で無得点を継続できたわけだし。
完全に長打コースだったからな、あれは。
大阪十陰にしてみたら不運と踊っちまった心境だと思う。
そういえば菊池、大阪の強豪シニア出身で、でも八幡に来てくれたんだよな。今日は同居している八幡の親戚も大阪の親御さんも見に来てくれてるみたいだし、喜びもひとしおだろう。
「さあ、これで決勝進出だ。このまま最後まで勝ち切ろう」
「おうよ!明後日は弾丸ライナーぶち込んでやるぜ」
「さて、対戦にはどっちが上がってくるっすかねぇ」
「下馬評では熊大有利って言われてるけど……」
そう、小梅ちゃんの言う通り、下馬評では島津、神子という超高校級二人を擁する熊大勝利を予想しているメディアが多かった。
ただ、前世の記憶がある俺としてはもう一校が勝ち上がってくる予感がしてならなかった。何故ならーー
***
とある整形外科医院の待合室、退屈な時間を緩和する為に設置されたテレビから大音量が聞こえてくる。
普段、ここにいる患者は「あー、早く呼ばれないかな……」とつまらなそうにしているものばかりだが、本日はその場にいる全員がテレビに釘付けになっていた。
『やりました!大仕事をやってのけた!ツーアウトから劇的なサヨナラスリーランで春の王者、熊大苫小牧を下しました!この夏の主役は……君だー!」
興奮気味に話すアナウンサー。
そこに映るのは、金髪碧眼の美丈夫。
生成り色の生地に、臙脂色のロゴの入ったユニフォームを着ている事から野球選手とわかる……が、なろう小説のジャンル『異世界恋愛』に出てくるスパダリ王子だと言われた方がしっかりくる様な男だった。
『王太子が今、ホームへと凱旋。甲子園はアルベルトの為にあるのか?遅稲田実業を牽引し、ここまで甲子園の全試合をドラマチックな勝利で飾っています』
男の名前は、斉藤アルベルト。
ドイツ名、アルベルト・フォン・ハーケンベルグ。
湊鴎賀の前世にて、この夏の甲子園を制した男。
松田健太郎、神子大将、島津隼人と並ぶ『超高校級』の最後の一人。
なお、湊鴎賀の一度目の人生において、後に『超豊作』と呼ばれるこの世代は、別名『アルベルト世代』とも評されていた。
何故かというと、最後の夏に他の3名を直接対決で下したからだ。
そしてドラフト指名時点でのNo.1は人気、実力ともにアルベルトだと言われており、他の超高校級三名が二球団競合となる中、アルベルトのみが六球団から競合指名される事になったからでもある。
通称『王太子』。
または『運命の女神に惚れられた男』。
八幡高校が最後に戦う相手は、そんな神の寵愛を受けし王太子の率いる軍勢……西東京代表、遅稲田実業に決定した。




