一旦エピローグ 2
夏の甲子園が終わった後、真田先輩がキャプテンとなって新チームが始動。
幸い、甲子園の余韻でチームがダラけるような事は全くなく熱意溢れるスタートを切ることができた。
何せ二年生と一年生はレギュラー争いが熾烈だからな。出場機会に恵まれず甲子園を応援していた面子が『今度は俺の時代だ!』とはりきっている。紅白戦もバチバチだ。
入部以来、細川は投手、ニックは打者として実力をグンと伸ばしており、俺も上位打線やエースの座を奪われないように頑張らねばとより一層気合いが入る。
そんなこんなで、春の選抜につながる秋大会は下記のメンバーで望む事になった。
1.ファースト 細川流
2.セカンド 真田キャプテン
3.ピッチャー 湊鴎賀
4.キャッチャー 大樹匠
5.サード ニック
6.ライト 山口先輩
7.センター 香川先輩
8.レフト 徳島先輩
9.ショート 島波先輩
古治とやった県大会準決勝の終盤、3点リードの場面で俺は強烈なピッチャーライナーを脛にくらってしまう。試合はそのまま勝利したものの、試合後に少し腫れたので大事をとり決勝は欠場。
細川が先発投手として奮戦したが、清美の四番ピッチャー中岸ティモンに投打で大暴れされ、6ー1で準優勝となった。
県二位としてノーシードで出場した四国大会でも準優勝。ちなみに決勝に俺は登板していない。清美がベスト4で敗れた時点で八幡の春の選抜甲子園行きがほぼ確定していたからだ。後で竹中監督から俺の故障防止と細川に大舞台の経験を積ませ成長させる意図もあったと説明された。
ちなみに決勝戦のスコアは5ー4。惜しい。
そうして月日は流れ現在、師走。野球はシーズンオフだが、名前の通り最近は特にせわしい毎日を送っている。あー、足りない足りない時間が足りない。
「やりたいトレーニングが多すぎるー!」
「昨日もあれだけやったのに、元気っすねぇ」
「というか今日も既に相当やってるよね……」
「ホント、どんな体力してんだよ……」
三人が呆れているが、俺は好きなんだよね冬の体力トレーニング。幼少期からの積み重ねによって技術習得面での不安はほぼないから、単純なフィジカル向上がそのまま結果につながるって確信しているし。
俺は幼少期より『身体を思い通りに動かせる能力』を高めてきた。そして、野球の動作を『解剖学的にはこうで、物理学的にはこういうことだ』と分析できる。
だから技術習得が他の選手より早くスランプにもなり辛い。その分、技術練習は最小限に抑えて時間と体力をフィジカル強化、そしてリカバリーに突っ込む事が出来ている。現在はそんな日々だ。
でもまあ、冬の体力強化トレってかなり地味でキツい上に成果もなかなか実感できないから高校一年生には不人気なのもわかる。やっぱり、技術練習の方がゲーム性は高くなるもんな。
むしろ、前世高校野球で二つの冬を超えパワーアップした経験と草野球で毎年フィジカルが少しずつ落ちる経験をした俺の方が特殊なんだろう。試合中に脚がつるオジサンになって初めてわかる下半身強化の大切さ、プライスレス。
「でもまあ、どうせやるなら頑張んないとっすね」
「うん、湊に頼ってばかりもいられないし」
「三ヶ月後には春の選抜もあるしな!」
でも、なんやかんやで毎日俺のハードワークに付き合ってくれるコイツらは流石だ。
竹中監督の方針で八幡は自主練習の時間が多く、各自が自分にとって必要と考える練習をする。そこで目的がやや曖昧なままスキル系練習に舵を切る選手も多い中で匠、細川、ニックの三人は最近『パワー』と『しなやかな強さ』の重要性に気づいたらしく最近は俺と一緒にそれらを強化すべく取り組んでいるところだ。
いい傾向だと思う、競技パフォーマンスを向上させる上で『パワー』と『しなやかな強さ』の二つに対する理解は非常に大切だから。
「みなさん、お疲れ様です」
「うぇーい、補食いっぱい作ってきたよん」
丁度いいタイミングで小梅ちゃんとダリアパイセンから差し入れが入った。食べながら、知識の棚卸しといこう。
まず『パワー』というのは重さ×速さ。
筋力とスピードの掛け算だ。決して、筋力の同義語ではない。重いバットやボール、それに自分の身体を爆発的に速く動かす時に『パワー』が必要となる。
そんなの当たり前じゃんと思うかもしれない。
ただ、残念ながら『パワー』をつけたいのに巨大なバーベルをゆっくり動かす様なトレーニングや、プランクのように固めてキープするといった誤った運動を取り入れる人もいる。
トレーニングには『特異性の原則』というものがある。トレーニング効果は刺激を与えた筋肉や機能にしか表れないという原則だ。つまり『パワー』を向上させるには、パワーに特化した負荷や動きを選択しなくてはならない。
関節強化や筋肥大を目的とした自重筋トレは怪我を予防しながら筋細胞内のエネルギーを消耗させるためにゆっくり回数を重ねるのが賢いやり方。しかしパワー系トレーニングの目的は速く俊敏に動くための脳・神経系の強化なので、また別のやり方が必要になるというわけだ。
例えば一回だけ全力でジャンプしたり、腕立て伏せで身体を跳ね上げたり、スピードにだけフォーカスしてバットを振ったりボールを投げたり……といった具合に。
身体を支える基礎、つまり関節や筋力が弱いうちにパワー系動作だけをやりすぎると怪我につながるが、最近やっと身体が出来てきたのでパワートレーニング頻度を徐々に増やしている。おかげで球速やスイングスピードもメキメキ上がってきた。
ちなみに今のスペックはこんな感じだ。
身長:175センチ 体重:67kg
球速:139キロ スイングスピード:135キロ
この時代、プロ野球の平均球速が141キロ、スイングスピードは145キロくらいだったから来年春までにそこを超えるのが短期目標だ。特にアマとプロの分水嶺である球速140キロの壁は速く突破したいなと思う。
そのためには、アスリートにとってパワーと同じくらいの重要なもう一つのファクター『しなやかな強さ』も同時に磨いておかねないとね。
スポーツ漫画などにはよく『柔軟性』という言葉が出てくるが、柔軟性というのは『柔らかさ』と『しなやかな強さ』の両方が内包されている大きな括りだ。
しかし、両者が混同されていたり『スポーツには身体の柔らかさが必要だ』なんて誤解されている場合も多い。
アスリートに必要なのは『しなやかな強さ』の方で、これは『筋緊張させたときの柔軟性』と同義語。筋肉をストレッチした時にも緊張し続け、強いままでいられる筋力と可動範囲のことを指す。
そしてこの機能は、『柔らかさ』の獲得を目的とする、本人はできるだけリラックスして人に背中を押してもらう様な所謂『受動的ストレッチ』では絶対手に入らない。
医療現場などでよく使われる、筋肉を弛緩させて行う『受動的ストレッチ』。これは血流改善や疲労回復、それに瘢痕組織や古傷のせいで固くなった組織のリハビリには優れた効果を発揮する。しかし一方で、アスリートのパフォーマンス向上には役立たない場合が多い。
プロの投手が投げる直前の写真を見ると、力を出しつつ大きく胸を張って背中がそり返り、身体は弓の様に大きくしなっている。この様に、運動するにあたって緊張することとストレッチすることは敵ではないのだ。
なのでブリッジ姿勢のままキープし深呼吸するなど、本人が筋肉に力をいれる『能動的ストレッチ』に分類される動きの中で『筋肉を収縮させながらコントロールできる可動範囲』を広げていくことが重要になる。
ちなみにこの『能動的ストレッチ』は筋力や関節の強化にも役立つ。アスリートにとっては一石三鳥だし一般人の健康維持にもとても良い、おすすめの運動だ。レイズ、ブリッジ、ツイストの三種類を毎日行えば、少なくとも80歳を過ぎるまでは関節痛と無縁でいられるだろう。
そういえば、皆は今どんな目標で頑張ってんだろうな。ちょっと聞いてみよう。
「今度は甲子園でホームラン打ちたいっすね」
「僕は大事な試合でしっかり抑えたい」
「俺は彼女にいいところ見せたいな!」
ちょっと、ニックさん!?
「お前、彼女いたんだな……」
「おお、最近付き合いだしてな。真里愛ってんだ。まあ、幼馴染の腐れ縁なんだけどな。」
「てゆーか鴎賀、気づいてなかったんすね」
「湊は脳ミソの代わりにグローブが入ってるよね」
いや、そんな事はないと思うが……ともあれおめでとう。一度きりの青春だし。恋愛もいいよな!男って好きな女のためなら色々と頑張れるもんだし。
まあ。今のところ俺には縁がなさそうだけど。
「……にぶちん」
「てか、野球以外に興味なさすぎじゃない?」
少し離れたところで女子マネージャー二人が何か小声で言ってるが、よく聞こえない。
でもまあ多分野球のことだろうね、毎日献身的に部員をマネジメントしてくれてるし。
もし将来、誰かと付き合うとしたら彼女達みたいな相手がいいな、なんてことをふと思った。
「ごちそうさまでした!さて、栄養補給も終わったし……そろそろ次のトレーニングにいこうか。」
でもまあ、今は野球だ。
俺はこの素晴らしいスポーツに恋しているから、まずは一冬超えた俺の魅力で勝利の女神をメロメロにしてやるのだ。懸垂しながら告白すれば高嶺の花も落とせるって恋愛漫画に書いていたし……ってなわけで、今日も今日とて鍛えるぞい。
待ってろよ甲子園。そして前世同様、来春以降に頭角を表してくるだろう同期の黄金世代達。
もうすぐ年末の練習納めだが、あえて言わせて頂こう。
俺たちの戦いはこれからだ!
というわけで一旦完結です。ここまで、七万文字以上お付き合いくださりありがとうございました。
ここで完結ブーストを狙う予定……だったのですが、多くの方からブクマして頂いていたり素敵な感想を沢山頂いたりしたので続きを書くことにしました。
実は今、結構な量のストックあります(*´ω`*)
なので、明日、明後日とさらに2話ずつ投稿予定です。
それはそれとして、キリ良いところまでの読了記念に、ポイント、感想、レビューなど頂けるとロンダートバク宙で喜びます。




