24 甲子園の魔物
甲子園に乗り込む前、『地区大会とは全く別物で、体調管理やメンタル面のコントロールを含めて難しい戦いになるだろう』と覚悟していたのだが、蓋をあけるとビックリ、二回戦まではむしろ地区予選よりもイージーな戦いになった。
一回戦の相手は野球があまり盛んでは無い県の初出場校。俺たちと同じ公立高で、初回に相手が浮ついていたところに先制パンチが突き刺さり、落ち着きを取り戻す前にリードを広げて危なげなく逃げ切った。
この試合、俺は投げては7回無失点、打っては三安打三打点とまずまずの活躍をすることができた。リリーフしたウチの三年生投手も甲子園で登板できた事にホクホク顔である。
二回戦の相手はよく名前をきく強豪校。戦力的には古治や清美と同じクラスの相手……だったのだが、おそらく予選からの勤続疲労による相手エースの不調と雨天による影響が重なり、これまた大量得点で快勝。
雨の日ってピッチャーは大変だからな。
なにせ、ボールが濡れると摩擦係数が変わってコントロールが難しくなり、変化球の曲がり方もかわる。それに、打ち取ったゴロも味方の送球エラーが増える。特に相手のエースは繊細なコントロールでゴロを打たせるタイプで、雨は鬼門だったらしい。
ちなみに俺の場合は雨対策として、監督と匠にお願いして梅雨の時期に土砂降りの中で投球練習をしたり、定期的に濡れたボールを投げる練習をしていた。
また、指先の水分を抜くためにポケットに入れていたハンドタオルも役立った。準決勝で対戦した古治高校の地元で生産されているもので、ちょっとお高いけど吸水性が非常に良い。
良い人生で一度は言ってみたいセリフ『こんなこともあろうかと!』ってやつだ。予選では言う機会がなかったけど、準備しといてよかった。古治のご当地キャラクター、『ハリーさん』もこれにはアッパレをくれるだろう。
また初戦と投球の組み立てを変え、高めのストレートで三振もしくはフライでアウトを重ねる戦術へ変更したこともハマり雨の影響を最小限に抑える事に成功。九回一失点で完投勝利。ヒットも二本放った。
体調面も、就寝環境を普段寝ている温度と湿度に合わせ、枕など普段慣れている寝具を持ち込む事でコンディションを維持できた。この方法はチームメイトにも共有済みで皆高いパフォーマンスが維持できている。
そんな訳でトントン拍子にベスト16入り。上手くいきすぎた結果「もしかして、このまま一気に優勝までいけるんじゃね?」みたいな浮ついた空気が流れはじめた八幡だったが……三回戦の大阪代表との試合でドン底に叩き落とされることになった。
大阪は野球人気の高い大都市で、『大阪府大会で優勝するのは甲子園で優勝するより難しい』と言われるほどだ。事実、府大会でベスト16に残る様な高校は全て他県の代表クラスの力を持っている。ベスト4以上は全校が甲子園優勝校クラスだ。
今年度の代表校は大阪四天王の一角、大阪十蔭。野球だけでなく、吹奏楽部も全国常連のマンモス校である。
さて、そんな大阪十蔭との試合。大方の予想に反し途中までこちらのペースで進んだ。序盤、将来プロ入りすることになる三年生の四番打者、田中将を三振にとり流れにのると、キャプテンと匠と真田先輩、それから俺の四連続長短打で得点。3ー0で試合を折り返す。
そんな流れが変わったのは七回裏だった。
ノーアウトから内野と外野の間にフラフラと上がったフライがポトリと落ちる。どうやら大歓声でお互いの声が聞こえなかったらしい。
その後一本ヒットを打たれた後に打ち取った内野ゴロが若干イレギュラー!それでも落ち着いて処理すれば一つアウトは取れそうだったが、セーフにしてしまう。
無理もない、甲子園があるのは兵庫県だが立地的には大阪に近い。観客は大阪贔屓が多いほぼアウェーな環境と全国屈指のブラスバンドが猛烈なプレッシャーになっているからな。
守備のタイムをかけて流れを切りにかかるが、全員表情と動きの硬さは変わらなかった。ちなみに俺もこの時心拍数モニタリングにて過緊張状態を示す170台を示している。
そこから先は、八幡にとって少々辛い展開となった。
打ち取った当たりがヒットになり、そこにエラーも重なる。
こういう時、本当は三振で流れを変えることが出来れば良かったのだろう。しかし、この年優勝することになる高校の打線から狙って三振を奪う能力は今の俺には無かった。
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湊鴎賀、一年目の夏
大阪十蔭に7ー4で敗れ終了
チーム最終成績 : 甲子園ベスト16
個人成績 :防御率1.28 :打率.593 :本塁打2




