89. 各球団の選択(下)
まさか八つもの球団から一位指名されるとは……しかも抽選の結果、所属球団は見本としたい投手が多い名古屋ドラゲキンになったときた。
この時点で望外の結果である。
なのに、さらに喜ばしいことまであった。
『名古屋ドラゲキン 第2巡選択希望選手 大樹匠 捕手 県立八幡高校ーー交渉権獲得』
匠も同じチームになったのだ。
マジか……最高かよ。
念の為に時計を二度見したり五感を確認してみたが、いずれも正常だった。どうやら夢ではなかったらしい。
「やったな匠、ドラフト二位!すげーじゃん!」
「ありがとうっす。でも、正直この順位はたぶん鴎賀のおかげっすね。セット販売ってやつっす」
祝福するニックの言葉に謙遜する匠だが、全然そんな事は無いと思う。コイツの凄さは一緒にバッテリー組んでる俺が一番知ってるし……
「けどまあ、せっかく高く買ってもらった分、球団には結果でお返ししたいっすね。ドラフト二位で間違いなかったと思って貰えるように、はやく一軍の試合に出られるよう頑張るっす」
そうそう、お互いプロの一軍でバッテリー組めるように頑張ろうや。
というか、名古屋ドラゲキンって正捕手は結構なベテランだけど、投手は層が厚いから俺の方が頑張らないといけないよな……頑張れ、俺。
ともあれ、これで俺と匠はプロ入りが確定した。後は、ニックがどうなるかだ。
ドラフト会議は進行していく。
『阪神ジャガーズ 第3巡選択希望選手 白井慧 外野手 近代高崎高校』
『西武ガンマンズ 第4巡選択希望選手 中岸ティモン 外野手 清美高校』
『横浜ブロッケンズ 第4巡選択希望選手 氷露臥竜 外野手 金珠高校』
高校時代の強力なライバル達は四巡目までに大方が指名された。ちなみに、野球ゲームなんかに慣れていると4位指名って少ししょっぱく感じるかも入れないが、高卒の3〜4位指名って実はめちゃくちゃ凄い。
基本的に1〜4位は即戦力が期待される社会人や大卒の選手が指名される事の方が多いからな。
故に、この辺の順位で指名される高卒選手というのは将来的に球団の中核を担う事が期待されている逸材という場合が多い。有名どころだと、『背番号51』や『いてまえ』や『日本のエース』なんかも4位指名だったからね。
さて、そんなドラフトも5巡目までが終了。
残るは6位以下の下位指名だ。
ニックは5巡目くらいで呼ばれるかなと思っていたのでちょっと意外。
高校時代の実績や能力的には充分に足りていると思うんだけど……もしかしたら、彼女の真里愛さんが妊娠している事をスカウトは伝えていたのでその辺が指名を躊躇させている可能性はある。
ニックはリア充だが不誠実な奴じゃないし、守るべき家族がいる事をパワーに変えられるタイプだと思うんだが、そこまで見てくれるスカウトがいるかは微妙な所だしなぁ……今はとにかく、選ばれますようにと祈るしか無い。
さあ、ニックと言え!ニックと!
しかし、六巡目、七巡目でもニックは呼ばれなかった。各球団のテーブルにある「選択終了」のランプが次々に点灯していく。
八巡目まで指名を行う球団は、僅か二つだけ。最後の望みをかけて全力で祈るがーー
結局、ニックという名前は最後までコールされず、全球団が指名権を行使し終えたことが確認された。
ニックの方を見ると、肩が震えている。
「うっ……うっ……」
そうだよな、悔しいよな。何て声をかけていいのかはわからないが……とりあえず励まそう。
とはいえ、選ばれた側である俺が変な声をかけると癪に思われるかもしれないから、言葉は慎重に選んで……
「なあ、ニックーー」
「うおぉぉぉーお!選ばれたああぁぁぁー!!」
やったぜー、とコロンビアポーズをキメるニック・ダディ。ショックで頭がおかしくなったのだろうか……
しかし、周りもなんかニックの事を祝福している。
と、そこでふと気づいた。
ニック・ダディって、別にコイツの本名じゃないわ。あだ名だったわ。そして本名はさっき千葉シーガルズにきちんと呼ばれてたわ。
***
「やっと笑顔になりましたね、木庭さん」
「ああ。狙い通り、昔から目をつけていた選手を獲得できたからね」
「現在の実力、実績的には4〜5位でもおかしくない選手をドラフト8位でお得にゲットですか。しかし……」
後輩スカウトは知っていた。
木庭は、湊鴎賀の一位指名を諦める交換条件として、『在学中に彼女を妊娠させた選手を指名する』という話を本部長に通したことを。
また、万一その選手がプロで不祥事を起こす様な事があった場合、木庭が責任を負うと約束した事を。
その選手は、確かに良い素材を持っているとは思う。だが、他球団が指名を躊躇する中でリスクを負ってまで獲得する必要があったのだろうかと訝しむ後輩スカウト。
そんな彼に、シーガルズの誇る敏腕スカウトは笑って答えた。
「彼は誠実な男だよ。それに守るべき家族がいる事をパワーに変えられるタイプだと思うんだ。潜在能力もかなり高いから、数年後にはきっと一軍で大活躍していると思うよ」
そんな木庭の言葉が正しかったと証明されるのは、これからおよそ4年後の事である。
こそこそバックネット裏話
プロ入り後、ニックは『ニック』で選手登録します。
『イチロー』や『パンチ』と同じ扱いですね
なお妻の真里愛ちゃんとはずっとラブラブ(意味深)で、ヒーローインタビューで『子供のオムツ代のために頑張ります』的な事を10年以上言い続けた結果、晩年は無事『ニック・ダディ』の愛称を獲得した模様。
日本のプロ野球は一軍に外国人選手を3人までしか登録できません。しかしアルベルトとニックが揃って出場した日のシーガルズは、オーダーの半分がカタカナ表記になります。当然、ネタとしてネットでこすられます。




