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過保護の壁は脅しで堅牢に


「…出てはいけないの?」


「ダメ!です!」







扉の前で手を広げて、立ち塞がるのは私の護衛騎士。


「ほら、ダメですって。」とメイベルが私を部屋の中へ促そうとするけれど、私は力を入れてその場から動くことを拒否した。








「もう5日よ?お父様は何も仰らないし、リンダは何処かへ出かけているし…」








今私達が居るのはソテラ。


リオンの実家であり、領内の中心であるこの場所に帰ってきて5日。何時ものように一泊するだけかと思っていたら、父から少しの間滞在すると告げられた。


というのも、問題の子爵家の者がここソテラに滞在しているというのだ。私が聞いた限りでは、探している対象は東で行方知れずとなったらしいと聞いた。ということは西に位置するソテラよりも、普段の屋敷へ帰って探した方が情報も集まりやすいと思うのだけれど。


父はジャニアを連れて子爵家の者と面会し、リンダは私の世話を一時外れて連日外出中。周りが動いている中で、私に言い渡されたのは『外出禁止』という戦力外通告だった。









「勿論、私は何も出来ないし、足手まといなのは知っているわ。お父様について帰ってきただけだもの。」


「り、リリ様…」








トーンの落ちた私の声に、ラングが『ゔっ…』と動揺した様子で顔を歪ませる。けれど腕は上がったままで、首を左右にずっと振っていた。


その意志の硬さは、何時も私の意見を尊重しようとしてくれる…いえ、“聞いていれば”、尊重してくれるラングには珍しいものだった。








「ダメです!旦那様から言われてるんです!『何が起こるかわからないから、リリルフィアはお留守番』って!!」


「…何かって?」


「何かは何か!ですよお!!誘拐とか誘拐とか誘拐とか…」








誘拐しかないじゃない。とはいえ、その懸念がある限り父は私をこの場から出してはくれないだろうし、ここで私がワガママを言い続ければメイベルにも迷惑がかかる。


息を吐いて、私は「わかったわ。」と後ろにいたメイベルに向き直る。メイベルは安心したように笑うと「お茶しましょう?」と手を引いてくれた。


5日ほど外出を禁止され、必要以上に部屋から出ることもしてはいけない。徹底的に隔離しようとしている父の意向も分からなくはないけれど、私を連れてきたことを考えると矛盾しているようにも思えた。








「お父様は子爵家の方々と頻繁に面会されているのよね?新たな情報は入っているの?」






部屋にあるソファに腰を落ち着けた私は、扉の前にまだ居るラングへ問いかける。話題が外へ出ることではなくなったからか、ホッと安心したような表情をしてから彼は「はい」と頷いた。







「最後に目撃されたのは山脈の麓にある村、そこで“灰色の髪の”奴隷を見たと言う者がいたそうです。子供だったという証言もあって、その村周辺で探索が進んでいます。」







“灰色の髪”


珍しい髪色という情報には一致するけれど、居ないわけではない色に人探しは難航しているようだ。


頷く私にラングは続ける。







「子供の体力では行動範囲が限定されます。問題は最後に目撃された村の近くに…」







そこで言葉が止まったのでラングを見れば、開いていた手が今度は自分の口を覆っていた。不味いことを言ったような行動に、私は一つ思い出した。


領地の北に位置する山脈。その山脈に背を向けるように建っているのは、何だったか。その近くに村が有ったではないか。









「…屋敷の近くが目撃された場所なのね?」


「ああもう、バカ…」








頭を抱えたのはメイベル。「私でも分かったわよ」とラングを睨んでいるので、彼女にもこの情報は知らされていなかったのだろう。


これで屋敷へ帰れないのはなんとなく分かった。


であれば、外出禁止の必要は無いのではないか。私の疑問はラングに伝わったらしくて、ブンブン首を振って「ダメですからね!?」と先手を打たれる。








「わかってるわよ。もう無理を言うつもりはないわ。」


「なら、良いです…」


「ラングにも迷惑が掛かるのは分かっているもの。」








私の言葉に「そうなんですよ!!」と涙目で訴えられる。







「リリ様出しちゃったら、俺ここに居られなくなりますからあ!!」


「そんな、大袈裟よ。」


「そんなことありません!!旦那様に外出禁止が失敗したら俺…」







口を大きく「あ」と開けて、ラングは固まる。


私とメイベルは顔を見合わせて、一つの可能性を確信に変えた。ラングは私の護衛騎士。主は私であり、給金が一応でも私の手元から出ているのであれば命令の優先権は私にあるはずだ。それが断固として拒否しているラングに、違和感はあったのだ。








「ラング、何って言われたの?何を知っているの?」







プルプルと首を振ってももう遅い。


きっと彼の頭の中には、『私が父に怒る→父がラングに怒る』の図式が出来ているのだろう。








「イエニスト騎士として、扱って欲しいのかしら。」







ラングではなく、子爵の騎士として丁寧に対応しようかと微笑めば、彼は涙目で降参とばかりに膝から崩折れた。



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