40話 準備!!!
バンド『クライス』のコピーバンドのライブ当日になった。会場はクロエさんの実家の練習スタジオ。ここの練習スタジオは事前に予約などの手続きを行うと簡易的にライブが可能になる。時々、何組かのバンドがそれぞれのスタジオで合同ライブのようなことを行なったりするようだ。
ライブの時間は14時からだ。それまで僕たち『クライス』は集まってライブの準備を行う。まぁ、準備と言ってもアンプやドラムは既に置いてあるので、自分の機材を新しく置いたり、マイクの調節をしたりなど機材を全部持ってこなくて良いのは楽である。クロエさん達大学生組から聞いた話だと、高校の軽音楽部は校内ライブをするときドラムから照明など全て自分たちで設営をするらしいので相当しんどいらしい。
「お疲れ様〜、少し休憩してから練習しようか。」
「そうだ〜ね。14時開始だからね〜ぇ、13時までやろうか〜ぁ。」
「もう!クロエは変に伸ばさないでお話をしなさいよ!」
「おう!了解したぜ。てか着替えとかどこでやれば良いんだ?やっぱりトイレかな?」
準備が完了したため僕が休憩を申し出るとクロエさん、栞ちゃん、旭で返事が来た。さっきの旭の着替えで新しい問題を見つけてしまった。
「みなさん。呼び方は本名にしましょう。あと、クロエさんはバンドでの名前が本名なんで苗字の方でお願いします。」
「ん〜?どうして〜?」
「いや、僕と旭学校にクライスのメンバーって言ってないんで隠してるんです。」
「なるほどね〜。お姉ちゃん了解しました。」
どうやら納得してくれたようだ。
「あ!?お、おい。も、もしかして……お、俺の女装も禁止か……?」
旭はいつも『クライス』でベースを弾くときは女装をしている。これは受けを狙って何か奇抜なことをしようとしたんじゃなくて単純に趣味なのだ。しかも割と可愛いので有名だ。ファンのみんなは旭のことを女の子と思ってる人もいれば
女装だと勘づいている人も居る。さらに、ボイチェンの使い方もすっごくうまくてMCで話す時も中性的な声をしてるから性別の見分けに手こずらせてる。
「そうだねー。お姉ちゃん達も協力するので旭くんもき・ん・し!」
「そ、そんな〜……」
「ごめんね、旭。でも身バレを防ぐためなんだ。それに同じ学校の人に女装バレってどうなんだ?」
「た、確かに……バレるのを防ぐために今まで努力してたわ。てか、それならクロエさん、いいやホーリィさんのあの喋り方も変えたほうが良いだろ。あんな特徴的な話し方ならすぐバレるぞ。」
た、確かに。クロエさんって普通に話せるのに栞ちゃんを揶揄うためだけにああいう話し方してるからな。
「クロエさん、そのお願いしても良いですか?」
「あぁ。問題ない。この話し方はあんまり好きじゃないが君の頼みなら答えよう!」
クロエさんは普通に喋るとすんごく凛々しくてかっこいい感じになるのに……。ま、これも栞ちゃんの気を引くために少し芝居風になってるけど。
「そう!そうなんだよ!クロエは普通に話してたらかっこいいんだからこれからもそうしなさい!」
普段からクロエさんの口調に気を使っていたナオさんは多分久々に聞けたちゃんとした口調に感動してるんだろう。
「い〜や〜ぁだ〜よ。や〜らない。」
「もー!なんでなのよ!」
あなたの気を引きたいからですよ。なんて言わない。だって茶化そうとするとクロエさんにめちゃくちゃにされてしまうからだ。う……記憶が……20時間……。
「それじゃあ、タクくんは学校スタイルで、旭くんは女装禁止、ボイチェンも切っていこう。クロエはホーリィ呼びにして話し方をまともにする。これで問題ない?」
「「「了解!」」」
旭と僕の身バレ対策に協力してくれるみんなに感謝して、リハーサル前の練習に取り掛かった。本番の会場で練習しているようなものだから移動時間も考えずに限界まで練習ができる。基本的にこのバンドのメンバーは楽器に支配されてるので練習時間は長いほどに嬉しいのだ。指が痛くなれば少し休憩するが……。




