30話 認識
すずさんとのメッセージでの会話から数日が経った。
今日は土曜日。すずさんのお宅にお邪魔する日だ。
数日前に『ご両親の許可が降りたら問題ないよ』とは伝えたけどまさか本当にすずさんのお宅で勉強するとは……。最終的に近くのファミレスで勉強するに落ち着くと思っただけどな。本音を言うと女の子の部屋に入るのが初めてなので緊張しているって言うのもある。落ち着かない気持ちで待ち合わせ場所の駅に着く。
「ま、まだいないか。僕も流石に案内してくれるすずさんの後に来るのは申し訳ないからな。」
今日の予定は一緒にご飯を食べて、その後すずさんのお宅にお邪魔して勉強をする。流石に夜ご飯を一緒に食べるのは時間が遅くなってしまうため無しになった。予定を思い返してすずさんを待っていた。
「ご、ごめーん。遅れちゃったみたいだね拓朗くん。結構待った?」
走りながら、すずさんが声をかけてくれた。なんか僕が早くきてしまったために焦らせてしまったみたいだ。
「いや、全然待ってないよ。っていうか時間まであと15分近くあるじゃん。気にしないで。」
「そ、それはそうだけど、今回のは私の企画だからさ。」
「気にしないで、僕がすずさんより早く来ようと思ってきただけだから。それに予定より早く合流できたからたくさん勉強できるしね。」
「うん。拓朗くんがいいって言うなら私も気にしないよ。」
その後2人で会話をしながら最初の目的地ファミレスに向かう。前回打ち上げをしたところとは別の店舗である。
今回行くファミレスは使用する食料のほとんどを自社で回しているため非常にリーズナブルな価格設定になっている。
「なんだか楽しいね。」
「そうだね、まさかすずさんと2人でファミレスに行くとは思わなかったよ。」
「私も拓朗くんとこんなに仲良くなれるとは思わなかったよ。」
お互いに今の関係がなんか面白くなって笑ってしまった。
「ここのファミレス来るの実は初めてなんだ。」
「そうなの?拓朗くんってバンド組んでるって言ってたし、ファミレスってバンドでよく集まるところなんだと思ってた。」
「確かにバンドでファミレスってイメージは分かるし実際に結構行ってるけどね。ただ大きいライブの打ち上げは居酒屋だったりもするけど。」
「そうなんだね。でも居酒屋ってお酒ってイメージだけど未成年もいけるんだ。」
「場所によるんじゃないかな。僕たちのバンドの関係者には成人した方もいるからね。流石に打ち上げの飲み物がジュースなのは頑張ってもらったのに我慢させるのは申し訳ないしね。」
「なんか色々考えてるんだね。それじゃあ、もしかしてここ苦手だった?」
「苦手なんかじゃないさ、いつも行くスタジオやライブハウスの近くにはなかっただけだよ。」
「苦手じゃないならよかったよ〜。何も聞かずに誘ったせいで苦手なものを食べさせてしまうのは申し訳なかったからさ。」
2人でそれぞれ好きなものを注文した。前回は複数人での打ち上げだったから山盛りのポテトフライだとか、でっかいピザなんかを頼んだりした。
だが、今回はそれぞれが好きなものを頼んだため味の好みが知れた。なんだか嬉しい気分になれた。
「おいしかったね〜。お値段がお安いのも嬉しい。て、なんか私が守銭奴見たいじゃん。普段はこんな感じじゃないよ!」
すずさんはわちゃわちゃしながら、僕に伝えてくる。そんなことはわかってるよ。
「もちろん。わかってるよ、すずさんがそんなにケチな人だとは思えないよ。」
「ほ、ほんとー?ならよかったよ……」
いつもはバンドの話、最近は勉強の話題が多かったけど、今日はお互いのことをたくさん話していた……




