41.ある覚悟の上に待っていたもの……
「ん?ようやく来たね~ソフィア・アストレアさん」
少女は私の名前を呼ぶ。それはここに来ることを最初からわかっていたことを意味していた。
「ようやくあんたが来てくれたか……待ってた。俺らはあんたを歓迎する」
もう一人、向こうで暇そうにしていた男は動き出す。途端、私は一歩下がる。
「おっと、そう警戒しないでくれよ。なにもしないから」
とてつもないオーラを感じる彼を見て警戒心は百パーセント上昇する。
この人たちがレウスが言っていた四天王の残りのメンバー。
「アストレアちゃん。あの人たちはとても敵う相手じゃないよ」
「浮遊している子はとても強い。でもソフィーなら」
カノンやマリーも体力が消耗しているのか立っていられない状態。
二人の助言を聞くに当たって強いだろうなとは見るだけでわかる。
「先輩……名前聞いてもいいですか?四天王序列一位と二位さん」
この際だから名乗ってもらおうとフレンドリーな態度で立ち向かった。
先の戦いで今だ胸辺りが痛むためそれの回復に時間を掛けることにする。
「そうだねー♪多分知っている通り私は、セイクリッド四天王が一人、序列二位の《浮遊者》リンネ・クリステンセイ。覚えなくて結構だよ」
浮遊しながら名乗る少女。クリステンセイと言えばフェルノート家、覇王の側近の家柄だ。
その少女リンネは覇王の関係者という訳か。
これまた厄介だ。
「次は俺か……名はゼロ・アルグレファ。そして四天王で序列一位《魔装》という異名だが気にしないでくれ」
続けて自己紹介をした彼。アルグレファ……聞いたことがある。
確か帝国最大の軍隊を率いるアルグレファ司令官の伝説は知っている。
生前、会ったこともあり一緒に酒を飲みあっている。そしてこの男こそ司令官殿の息子。
「自己紹介も終わったことだしー早く遊ぼうよ」
「まあまあ、落ち着け。リンネが本気を出すと秒で終わるから程々にな」
「はーい!」
リンネは早く戦いたいと駄々をこねる。余裕ある表情で会話する 二人の姿は未知の存在を見ているかのよう。
そして驚くのはゼロが放った言葉。そこにはこの少女が本気を出すことで秒で終わるということ。
それだけヤバい奴なのか……
「さあ、ようやく楽しくなれそうだ。魔装展開コンパクトオン」
ゼロは空間から禍々しさ全快の一本の剣を取り出した。色は暗黒に染まり形は歪。
「その剣は……」
「ん?ああ、《魔剣グラム》大陸最強の魔剣をコピーして生成したと言えばわかるだろう」
魔剣グラム──元は北欧神話に登場する剣の名称。
その名は古ノルド語で怒りを意味しているがそれのコピーがあれ……
見た目こそ禍々しいが本当にレプリカなのか?昔本で見たデザインに似て、本物にしか見えない。
「リンネ、お前が使え。俺は素手で戦う」
「本当にゼロは素手大好きですよね。まあ、お借りしますね」
彼はリンネに向かって魔剣を投げた。普通魔剣を投げて渡すのも可笑しいが作った本人が剣を使わず素手で挑もうとしている。
「三人係で掛かってきなよ。たーぷり遊んであげる♪」
相手は余裕そうな顔で煽ってくる。少女の言うとおりにこの二人を私一人で戦うのは無理というか不可能。
後ろを振り向きカノン、マリーの二人を見る。
彼女等も察していたのか頷く。
「一緒に戦おう!学院の未来のために」
「そうわね。敵う相手じゃないけどやってみないとわからない」
二人とも勇気と覚悟を持って立ち上がる。
そうだ!二人の姿を見た私は一つ思った。仲間は互いを信頼し、一緒に困難に乗り越える存在であること。二人の姿を見て思わず微笑ましくなった。
今まで一人で何事もこなしてきたが、今は誰かに頼るのも良いと随分心が柔らかくなったなと感じた。
「行こう!皆で明日を切り開くためにも」
「おー!」
私たちは武装を展開し警戒しながら立ち向かった。
「だからもっと力を入れないと勝てないよ」
剣同士のぶつかり合い。魔剣・レプリカの威力は想像より遥か上で歯が立たない。
一方的に押される私は回避を続け隙を狙おうとした。
だが、そんな隙は一度も作らせて貰えなかった。
「その程度か?まだやれるだろう」
「アストレアちゃん、下にしゃがんで! オーバードライブ出力最大、装填可能──オメガキャノン」
カノンは私にしゃがむように指示した。指示通りにしゃがんむとカノンの重大砲をあの二人に目掛けて発射させていた。
その同時にマリーも動く。
「今……黒き月影よ!影技、舞麗」
先程まで此方に居たであろう彼女は気付けば相手の背後に潜んでいた。マリーは影技という技を容赦なく本気で使った。
攻防一体の技。空中2段蹴りを放つアーツである。
「穿て!イカヅチの雷撃、ライジング……」
私も二人に続け、浮遊しているリンネの急所を狙って一撃を放とうとした。
しかし、そう上手くいかない。
「──だから甘いって」
溜め息を吐きながら何か期待外れのように脱力するリンネ。
その次にとった行動は予想外であった。
「てんかーい~」
やる気の無さそうな声でバリアらしき物を展開させた。
三人同時の攻撃はそのバリア?に衝突するが全く効かなかった。それどころかひび一つも付かなかった。
「何よ、先のバリアと違う……」
「全体にバリア……嫌、違う」
私は何か察した。これはバリアであるのは間違いない。だが、違う。あの一瞬で見えた文字……彼女はルーン魔術の使い手。
「へぇ~その様子だと君は気付いたんだね。そうだよ、私はルーン魔術の使い手なの」
ルーン魔術とは今では古く使う人は居ないとされている魔法の一種だ。
その実態こそ、そう珍しくはないが今やルーン文字を書いて発動する魔法なんて不便でしかも展開速度に致命的な無駄がある。
一方でルーン魔術の評価は低いわりにリンネはそれを使いこなしていた。書くスピードも尋常のない速さ、尚且つ多彩な付与を自らエンチャントしていた。
「そのシールド、もしかして私たちの攻撃を吸収してるの?」
「う~ん、大体合ってるかなー私の周りに空間を貼り完全無敵の鉄壁の防御。でも、惜しいね」
カノンは思ったことを述べたが大体の理屈は当たっていたそうだ。でも、まだ肝心な憶測へとは導けていないとリンネは言う。
(まだ何かあるのか……?)
あのシールドには吸収する他に何か効果があるのだろうか?嫌、まだある。
吸収による稼働エネルギー……ついこの前見た失敗品のことを思い出していた。その瞬間、私は何かピントきたかのように勘づく。
「なるほどね、それは厄介だ……」
「あはは!やーぱり君は凄いよ。そうだよ、このシールドには相手が放った攻撃を吸収し自分にそれを付与している。あなた達のお陰で私はもーと強くなれた、ありがと♪」
他人の攻撃を吸収し自分の力として付与する。そう浮遊少女は言う。
一見それは単なる吸収にすぎないけど考えてみよう。私たち三人はそれなりの凄腕ではある。その分、力ももっと倍増させてしまうからだ。
「あんまりはしゃぐなよー。何かしたら怒られるの俺だから」
「わかってるよ~ 楽しんだからゼロは引っ込んで」
「はいはい、了解」
楽しそうにはしゃぐリンネを少しでと抑えようとしたゼロの姿はとても苦労してそうだった。
仕方無い顔で溜め息を吐いていた。
呑気に話をしてる二人を見て少々困る私たち。
「ごめんね、待たせちゃって。でも次で終わるから安心してね」
当然切り替えて外していた目線を私たちの方へと再び移した。
急な切り替えに反応が出遅れてしまう。
自信満々で次で勝利宣言を下したリンネは魔剣の刃にあることをした。
「え!?まさか……魔剣にルーンを書いてるの、か」
「それってまずいんじゃないの?」
刃にはルーン文字が浮かび上がっている。
うん!間違いない。あれは付与しようとしている。
「はぁ~また本気になってあれを使おうとしてる……」
「嫌、さらっと否定しといて呑気に傍観してくれないで貴方も止めてよ!」
マリーの行進の突っ込みが入る。ゼロはなるべく巻き込まれないような場所に座って見てた。
あれだけ無茶するなはしゃぐなと言ってた彼は止めようとしない。
「はあァァー!」
「皆、一旦逃げよう」
兎に角攻撃に巻き込まれない場所へと移動する。あんなの食らったら生きて帰れなさそうと思った私たちは必死で逃げる。
「──ひゃ!いたぁ~」
急ぎのあまりカノンは粉々になった小さな瓦礫に躓き転ぶ。
早く逃げないかない緊迫した状況の今、思ったことを語ろう!……転け方が可愛い。
「私も真似してみようかな?」
どうしても可愛かったので自分でも試したかった。
「真似するんじゃないわよ!逃げるのが先でしょ?ほら、カノンも早く」
頭を叩かれた。そして痛い。
馬鹿はやめて直ぐ様走る。マリーはカノンを起き上げていたため私と50センチ離れている。
「早くしないと巻き込まれるよ!急いで」
「待って……もう間に合わないわ」
「ごめんね、皆……」
私は丁度攻撃の当たらない範囲まで頭で予測し到着した。それは良いことなのだがまだ二人はそこまでたどり着いていない。
急ぐよう声を掛けるがそろそろリンネは一撃を放つ準備をしていた。
(なんて黒い粒子が飛び散っている?)
魔剣を見るとこれほどない禍々しい黒い粒子が散乱していた。あれほどまでの力を持っているなんて想定外。
カノンやマリー、私も内心諦めていた。勝てっこない……強すぎる。
「さぁ覚悟してね──アルクレイズヘル……!?」
もう駄目だと一斉に瞼を閉じた。甘かった。どうして勝てるって思ってたんだろうか……
(ん?揺れが収まった?)
何故か地響きしていたはずの床が収まった。それと同時に近い場所でデカイ爆発音が聴こえた。
目をそっと開ける。
「この爆発音……もしかして」
「ああ。まさか出し抜かれていたとはこれは一本とられた見たいだ」
二人して何か会話し始める。嫌な予感が的中したような顔をしていた。
出し抜かれた?何に。
「すまん、悪かったな。この勝負は中断だ。ほら、リンネ早く行くぞ!」
「ごめんね、この勝負はまたの機会に。あ、待ってよ~今すぐ行くから」
武装を解除すると同時にゼロとリンネは謝りの一言を残し階段を登っていった。
「……何だったの?」
「さ、さあ~?」
上の階──確か生徒会室がある場所だ。そしてあの爆発音が聴こえたのも生徒会室であると考えられる。
「あのさ、私……後を追ってみる」
気になったので後を追いかけることにした。
「あ、待って私も行く」
「仕方無いわね。私も付いていくよ」
結局三人で後を追いかける。その先で何が待っているのかまだ知らない。
「生徒会長大丈夫か? なっ!」
「アリサちゃん大丈夫……え?──手が」
ゼロとリンネはようやく生徒会室へとたどり着く。そしてその光景に驚いた。
何故ならアリサの両腕は赤黒くボロボロで地面に座り込み涙を流していた。
「──敵!?」
リンネはこの部屋で見知らぬの存在に気付く。敵なのかそれとも別なのかそれは今はどうでも良かった。
あの女性が何か知っているだろうと思うから。
「まさか……ローズさん?」
「ん……え? その声、ゼロ君?」
声で反応したローズは端末を閉じて此方の視線に気付く。誰かと連絡していて直ぐには気付けなかったようであった。
「ローズさん……会長と戦ったのか?」
「……ええ、そうよ。」
視線を外し顔を辺地向けたローズ。淡々と答えた彼女の表情は冷血だった。
「ゼロ、アイツは敵なの?」
リンネは制服の袖を引っ張って聞いてきた。
「嫌、違う……彼女は──」
「ここが生徒会室よね……」
「とても静かだけど中に居るのかな?」
遅れてやって来た私たち。
私は扉の前で立ち止まっていた。
「どうしたのソフィー? 開けないの?」
一向に扉を開けようとしない私を見て心配そうに声をかけてきてくれた。
そう言う優しさはありがたいが今は別に集中していた。
それは中で何か会話をしていること。俺にははっきりと聞き取るがため耳を澄ましていた。
「──そろそろ入ろう」
俺は扉に手を当てた。このタイミングなら入れるだろうと思い開ける。
「ようやく来てくれましたね。お待ちしていましたよ──ソフィア・アストレアさん」
入った瞬間、生徒会長の座席に座っている大人の女性。何故俺の名前を……
更には四天王の二人であるゼロとリンネ、そして何故かボロボロの生徒会長も席についていた。
「あなた方も席に着いてください。お話を始めましょうか」
読んでくれてありがとうございます!
ブックマ登録も宜しくです。




