42.これはまだ序章に過ぎない
遂に学院編完結です
席に座るよう命じられる。それにより淡々と空いている席に座った。
何が始まるのか?
駆け付けてる間に何があったのか知らないことだらけだ。でもあの女性が全てを握っているのは確かだ。
大人しく話を聞く体制を取る。
「話はまあ単純なものだから楽にして聞いてほしい。今、この学院で起こっている問題の収集をどうするかについて──」
聞く耳をした俺を見て頷き話を始めた女性。その前に聞くことは山程ある。
「その前に一つ伺いたいのですが貴女は誰?なんでしょうか」
席から立ち上がる俺。先ずは名前を名乗って貰うのが礼儀だ。
カノンやマリーも突然立ち上がった私を見て驚く。
「そうですよね……すみません。私の名前はローズ・セイクリッドです」
ローズ・セイクリッドと名乗った彼女はお辞儀した。それを返すかのように私もお辞儀する。
セイクリッド──彼女は正真正銘学院の関係者嫌、それよりも上の存在。
余計な行動は慎んだ方が宜しいと判断し、座り直した。
「失礼致しました。それでローズ・セイクリッドさん」
「ローズで構いません」
呼び捨てにして良いと言ってきた。少し戸惑う。
彼女ほどの人物を気安く呼び捨てにして良いのか困ってしまうが一応"さん"は付けよう。
「わかりました。それでローズさん……お話とは何ですか?」
私がそう言うと周りに座っている全員が此方へと視線が集中した。
険しい空気が流れる中ローズは何を話そうとするのか?
この場に居る者全員が知りたいことだろう。ましてや四天王の二人や生徒会長までもが大人しく聞く耳を立てている。
「──今、現在この学院で起こっている闘争……それをどうにか治める口実を作りたいのです」
「口実って……」
「まあ、そうだろうな。こんな取り返しのつかないことになったんだ。ましてやここは国内最大の学院であるからな」
カノンはそれを聞いて驚いたような顔をする。そして私の対反対側に座っているゼロは事の重大さを表現するように語った。
そう、ここはアルカディア公国最大の学院機関、セイクリッド魔法学院だ。
評価や偏差値も高い優秀学校。 そんな場所で今回、取り返しのつかない問題が起こったのだからそれを何とか揉み消しにしたいのだろう。
「ええ、このままではこの学院は崩れていくでしょう。その為、私は出向いたのです」
「出向いたって……まさか知っていらっしゃったのですか?」
マリーは問い掛ける。
その言葉、まるでこの騒動が起こると想定されていたかのように聴こえた。
「ええ、知ってました。でも我々も知ったのは問題が起こる前日です。」
ローズは淡々と答える。この問題が起こるのを知ったのが前日、つまり丁度学院祭の頃合いだ。
謎なのはどうして未来のことを把握できたのかという疑問。
「どうしてローズさんは未来のことを把握できたのですか? まさか未来予知という科学的現象なんて言いませんよね?」
未来予知《Visus future》──普通この時代に未来予知が出来る魔法など存在しない。
例え稀に特殊能力者が居たとしても昔、読んだ本によると未来を予知することは不可能で見たこともないと書かれていたのを思い出す。
「実は未来予知とは別に未来が記された本が存在することを皆さん、知っていますでしょうか?」
「未来が記された本?」
「聞いたことあるか? リンネ」
「ううん、聞いたことないよ~」
私たち全員はそれは初耳だった。
それもそう、未来が記された本がこの世に存在する訳がない。ましてやこの世界の謎すらも解明できていない今、証明することは難しい。
だが、ローズが嘘をついているという証拠もないし、言っていることにも嘘はない。本当に現在、起こっていることがそのままの形で実現したと言うのだから。
「まあ、知らないのは当然なことだと思います。第一私もつい最近まで知りませんでした」
深々と考え込む一同。その存在が何なのか謎が深まる我々。
その次、またローズはあることを言い出す。
「私は実際にその本を見たわけでは無いのです。ただ、ある人物が教えてくれたとだけははっきりと覚えています」
ある人物?
ある人物とは誰のことなのか?どうして起こる前日に現れ彼女に教えたのか……謎が多くなる。
「覚えてますってその人物が誰だったのか覚えていないのですか?」
「ごめんなさい、記憶が曖昧でね。覚えているのはその具体的な内容だけですので……」
カノンはローズに向かって問い掛けたが答えは記憶が曖昧だと語った。頭を抑えながら痛むような表情もした。
記憶がない、それこそ不思議な話だ。
唯一わかると言ったら多分その時の記憶を強く消されたのが妥当だろう。
そして思い出そうとすると激痛が走るか……
「それでローズさんはこれからどうするのです?」
あの人たちの動向と対応が気になり個人的に話を進める。
「今、現在、私たちアルカディア政府のお役人とお父……学院長が丁度、この騒動を止めている頃でしょう」
「政府の……?どうして政府が」
政府がこの騒動に介入しているとのこと、つまりは政府側もこの件をご存知だとそう考えられる。
そして学院長──あの叔父さんが遂に動き出したという。
「名乗り忘れていましたが……私はアルカディア公国政府直属、魔導育成機関所属です」
「正直に正体明かすのかローズさん」
「ええ、その方が都合が宜しいかと」
突然、立ち上がりローズは言う。アルカディア公国政府とはこの国を纏める最高職のことだ。
あっさりと明かした彼女に対しそれを知っていたかのように語るゼロ。
魔導育成機関……
「では、再び話を戻しますが我々政府はこれをどうにか対処すべく動いたわけです。その為の口実をあなた方に考えてほしいのです」
最初に言っていた話に戻る。最初のと説明を聞いたの意味が全然変わってくる。
事の重大さに気付くことで一同は何もかも黙り込んでしまう。
「あの……今回の件は私に責任が──」
先程までずっと黙り込んで大人しく座っていた生徒会長アリサがようやく口を開いた。
それもそう、今回の件は大体、生徒会長が犯したのことだ。その計画が思わぬ展開で消沈し、ましてや取り返しがつかない事態まで陥ってしまった。
全て責任を背負う覚悟で言葉を発言する時、私は立ち上がる。
「今回は私に責任があると思います!」
生徒会長の言葉を遮るように発した。突然のことでアリサは「え?」て頭の思考が抜けたような顔をしていた。
「ソフィー!?」
「な、何を考えているのアストレアちゃん!」
このことでカノンもマリーも二度確認するように見て驚く。
どうしてこのようなことを言ってしまったのか私にもわからない。けどあの生徒会長の悲しい顔を見たとき、どうしてか助けないといけない気持ちが一杯になった。
悲しそうな涙をしている彼女を今まで敵として睨み合っていたとしても助けないといけない!感情になってしまっていた。
「あなたが責任を取ると……」
「ええ、私が今回の件の責任を全て抱えます」
二人は止めようとしているがその声を無視して話を進める。
どれまでの責任が降りかかってくる覚悟はとっくに出来ていた。
「ですから……私一人だけにしてください。どうかお願いします」
必死にローズに向かって頭を下げる私。その姿は本当に醜かった。
主観的に見たら勇気を振り絞ってした行為だとしても客観的では情けなく無様な姿が形成されている。
情けなさが私の中にも溢れてくる。
「良いでしょう。貴女がそこまで言うのなら他には罰を与えません。その代わりに……わかっていますよね?」
交渉を何とか無事に成立した。
これで私以外には罰がくださらないことになる。当然、それを聞いて不満に感じている人もいるが以下仕方無い。
そうする手段しか選択はなかったのだから。
「ええ、わかってます。望み通り私、ソフィア・アストレアは責任を取って退学します!」
強い感情を込めて宣言した。実際、そこまでする必要はないはずだがこうまでしないと納得してもらえなかったからだ。
元々、都合は良い。何故ならこの学院でのソフィア・アストレアは落ちこぼれの不良品扱い。
このまま学院にて残ったとして特もなく損もなくただ生まれるのは害悪のみ。
それなら退学する道を選んだ方が楽。
「おいおい、それはやり過ぎじゃないか?」
「そうだよ~責任と言ったら私たちにもある。彼女一人に抱えるのは可哀想……」
この宣言で敵だった彼等までも不満が生じていた。
「どうして……いつも一人で抱え込むのよ!ソフィー」
機嫌が悪くなったマリーは席を立ち上がり私のところまで歩いてくる。
パチン!!
そして次の瞬間、マリーは手をパーにさせ勢いよく振った。その手のひらが私の頬までに直撃する。
「……ごめんなさい。」
その叩かれた衝撃はアリアよりは衰えるがそれなりに痛みを感じた。
赤く腫れた頬を抑えながら深々と謝る。
「マリーちゃん……気持ちはわかるけどそうしないと何も変わらないよ」
「で、でも!ソフィー、あんたね。残された方も考えなさいよね!あんたの決断で私、嫌、ようやく馴染んできたクラスの皆やアリアが悲しむじゃない……」
強く響くその声は今の怒りとは別の感情が混じっていた。
そう、マリーは泣いていた。
彼女の瞳から一滴の涙が溢れた。それは俺にしか見えなかった。
「マリー……ちゃん、な、涙が……」
「言わないで……」
彼女の涙を見るのは初めてで戸惑っていた。それだけ俺が居なくなることが悲しいと言える。
俺だって悲しい──でも悲しみの象徴である涙が出ない。
「本当に宜しいのですね?」
遂にローズは最終確認をしてきた。辛いかもしれないがこれで何もかも治まるのならどうってことない。
「大丈夫です。覚悟はもうとっくの前から出来てました」
最後ぐらいは笑顔で言おうと無理して笑みを作った。
「ソフィア・アストレア……ううん、アストレアさん。本当にごめんなさい! 私何かを守って……」
横からずっと呆然と見ていた生徒会長は俺に向かって謝ってきた。
その姿は申し訳なさそうに俯いている。
「──気にしてないから大丈夫。そもそも悪いのは私だから……」
「え?」
今まで力を隠してきた俺は最初から明かしていた場合だとどうだろう?
結論は変わっていた。多分学院全体が俺を信用するようになっていたかもな。
「そうと決まれば明日にはここを出て貰うことになります……宜しいのですね?」
その言葉を最後に我々は話が終結し独自解散した。マリーとカノンには言葉をかけられない。
しかし、最後くらいのお別れはしないとな……
「私たちに構わず行きなさい……私たちはずっと友達でしょ?最後ぐらいは」
「アストレアちゃん、私はこの一年間しか関わってなかったけどずっと友達だよ……だから行って」
「──ありがとう……また何処かで会おう」
二人ともあるところまで行くように言われた。頷き御言葉に甘えて進もうとした時、耳元で最後の一言を呟いた。
それを聞き取った彼女等はニコリと笑みをした。
さようなら──嫌、また何処かで……
それから医務室に到着した俺は左から二番目のベッドまで向かう。
先輩たちに聞いた限りここでアリアは眠っている。
静かにカーテンを開けて中に入る。
「ごめんな……君は本当に強い子だ。だからもう俺が居なくても大丈夫。さようなら──楽しかったよ親友」
寝顔を見ながら語った言葉。その時だけ素の私をさらけ出した。寝ているアリアには聴こえない。
だからこんなことが言えたんだろうね。
気持ち良さそうに眠っている彼女をこれ以上は見ていられないと思い立ち去ろうと後ろを向き医務室を出ていく。
「ソフィアちゃん……ずっと一緒」
あの後、私は家に戻りリアーナに説明した。退学が正式に決まり荷物の準備等、誰からも悟られないように片付けをした。
あれだけ二年半ぐらい過ごしてきた部屋は空っぽとなり完全なる空席となった。
「ありがとう……楽しい思い出だった」
正門前で学院の風景を目の当たりする。大変な思いは多かったこの場所だが、そこには楽しさもあった。
「行きますよーお嬢様!」
「ええ、ありがとうございました」
あの騒動はあの後、丸く治まった。
そして──学院長、ゼクト・セイクリッドはこの学院の騒動を止めるべく動き、開始一分にて何とか押さえたのである。
どのような方法で止めたのかは逆に気になるが……
セイクリッド魔法学院騒動事件はある一人の少女によって闇に葬られることとなった。
アルカディア公国政府はこの事件を気に学院に新たな改革を目指すため進んでいくであろうと思われる。
今回の事件の首謀者である生徒会長アリサ・ローランとその協力者であった四天王の四人は残り少ない学院生活にて学院の再建を目指していくだろう。
最悪な学院祭となった今年。生徒たちにとって不満は大きいものだろう。
今回のことで失ったもの……思い直したこと、そして新たな希望にて満ちたこと。色んなことがあったとし、意味は必ずある。
どうか覚えていて欲しい──これはまだ序章に過ぎない。
転生し、新たな人生を歩む少女の物語はこれから何を成して、己を掴んでいくか……
それは誰も知らない。
読んでくれてありがとうございます!
ブクマ登録良かったら宜しくお願いします。
次回からは新章(結構短い)が始まります




