アユム4
アユムは、ビエンタとユルダームジュニアの試合が終わった後も、ここを離れられなかった。
2つの日の光は、大分傾き、空は茜色に染まり始めている。
昼間の暖かさを残した夕暮れ時の大気は、柔らかく、穏やかで、それでいて、どことなく気持ちが高鳴る。
まるで、夏の始まりのように。
第二太陽が、リニア列車の陸橋をオレンジ色に照らしている。陸橋はここから数メートルしか高さがない。
夕方になり、さっき迄全く走っていなかった陸車が次々と往来するようになった。
片側三車線の平たい道を陸車が次々と通り過ぎて行く。
この陸車道は、下の階層との境界地にある。下の階層から50mほどの高さだ。少し先で他の道と斜めに交差している。
アユムは、少し錆びた薄緑色の手摺に、背中向きに両肘を置き、陸橋との間の空を見上げている。
この道を通る陸車は、業務用の車輌が多い。白、黒、灰色...地味な色の車ばかり。
道の反対側を、青いジャージを来た少年達が歩いて行く。大きなスポーツバッグ。ボールをぶら下げている。マネージャーの女の子二人が、それぞれ、保冷用の大きな水筒や、救急箱などを乗せたセグウェイに乗っている。
ジャージの背中にはユルダームjrと書いてある。
かっこいいジャージ。
ポケットに手を入れ、シャツを出して歩いている。
不良ぶってるとこがかっこいい。
ブルースって言う人は...みんな同じ顔をしている。
1人目が合った。
首を傾げて向き直った。
気の合いそうな人はいない。
この中にブルースって言うあの凄い人が...。
もし、苦労して、奇跡が起きて、ユルダームに入れても、この人たちと上手くやってく自信は無い。
かっこいいけど。
誰かのシューズバッグを、誰かが放り投げた。
笑い声が聞こえる。
1人はパン食べている。
下層市民の生活ぶりは、百年前と全く変わらない。
スロードープ(路線バス)が来た。
スロードープ(路線バス)は、陸車じゃない。
エルカーみたいな飛行車でも無い。
極変換を止めてない反重力板の浮力で、地面から浮く単純な仕組み。
極変換するから強い浮力はないけど、最大高度は10mを超える。
スロードープ(路線バス)は、停留所で地面に降ろした。
白を基調に、つなぎ目やフレームが赤く塗装された車体を。
マネージャー達のセグウェイを先に乗せたあと、選手達が続々と路線バスに乗っていく。
スロードープ(路線バス)は、まだ発車しない。
何人かが、降りて、後ろに向かって叫んだ。
大分後ろに、黒いジャージの少年が歩いてる。
ボールを蹴りながら歩いてる。
「ブルース!早く来いよーー!」
「バス出ちゃうぜー!」
ブルース!?
あの人がブルース!!?
「置いて行くぜーー?!ブルース!」
全く反応しない。聞こえているはずなのに。
!!?
そして、突然、ボールを蹴った。
ボールは凄い勢いでバス目掛けて飛んだ。
低く真っ直ぐな弾道。
す、凄い...。
こんな球筋たことない!
!!?
突然ボールがホップした。
え!?
顔面を直撃し、跳ね上がった。
1番前の選手の...。
す、すげぇ...。
マジすげぇ!。
直撃した人。
顔を抑えてしゃがんだ。
鼻血を出してる。
「な、何しやがるんだよ...!」
しゃがみながら言った。
「ひでぇ...」
「行こうぜ...。何だあいつ。」
「お、おい!ボール!」
「知らねぇよ!ブルースがやったんだぜ!」
ボールは、ゆっくりと弧を描き、僕の方に落ちて来た。
咄嗟にトラップしてキャッチしてしまった。
...キーーーーーーーー。ドルン、ドルン、ドルン、ドルン、ドルン...
信号待ちで、目の前に大きな陸用トラックが止まった。
向こう側のユルダームの人達が、トラックの下から覗きこんでいる。
ルコントのボールは、高価だ。返さなきゃ。
僕は6等市民だから、後々盗んだとか面倒臭い。
「おい!!おまえ!後でユルダームの練習所まで持ってこい。いいな!!来なかったらしめるからな!」
「持って来るか?」
「来るよ。気弱そうだし。バックれたら探してボコボコにしてやんよ!笑。」
何だよ!偉そうに。
...。
笑。
そうだ!
俺も...笑。
トラックの前で曲げよう。笑。
フックさせてホップで顔面直撃!笑。
...タタ...ダンッ!!...
ほらいけ!
爆撃だ。笑。
僕は、二、三歩下がり、思いっきり蹴り上げた。
ボールは、ひしゃげ、トラックの前のワゴン後ろまで飛んで行く。
「ギャハハ!」
「どこ蹴ってんだよ!!笑」
ワゴンのリアウインドウ越しに外を見ていた女の子が、慌てて避けた。
ボールには急激にブレーキがかかる。
そして、トラックの前を、ブーメランのように急激に曲がる。
そして、ホップ!。笑。
「う、うわっ!」
...バーーン!...タンタンタン...
何か柔らかい物にぶつかる音。
威張ってた奴の顔面を直撃。笑
「今のどうなった!?。何だあれ?!。」
「い、痛てぇ...いてぇ...」
「大丈夫か?ライナス!。こ、この野郎!!」
げ...やばいかも。笑
「ま、曲がった...。」
「馬鹿!笑。曲がらねぇよ!笑。鉄橋に当たったんだよ!笑。」
「い、いや、確かに、、」
「ブルースだってあんなに曲げられないよ。笑」
『...出発します。...』
...プッシューー...バタン...
...グググ...
...ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン...
スロードープ(路線バス)は、発車した。
「あ!?おいっ!!行っちまうぜ!」
「あぁぁ!追いかけるぞ!」
「次のにしないか?」
「ブルースが来るぜ?」
「やっぱ行こう!!」
「面倒くせぇ。あいつ。笑」
「なんだ、呼んだくせに。」
「おまえこそ。笑」
「バスのおじーさーん!待ってーー!!笑。」
「愛してるーー笑。」
「おじーさーん!。ギャハハ。」
不良達が走って行く。
鼻を押さえた人もその後をついて行く。
...ビュウゥッ!...
...ドスッ!...
ボールが飛んで来た。
土曜日のこの時間、本当に陸車が通る。
!!?
あいつだ!!。
反対側。
道の反対側に...。
ブルースだ!!
「よぉ!」
な、何て返事すれば?
「すげぇ、フ...ボー...だな?!左..........ないぜ!?」
ブルースの叫び声を、通り過ぎる陸車のエンジン音がかき消す。
「え?!」
「いつも....おま...俺たち.............よな!」
「何て!?」
「待ってるぜ!」
「え?!」
「来いよ!ユルダーム!。」
道の反対側からブルースが大声で叫ぶ。
「....でも...」
ブルースの後ろから夕日が射している。
後光みたいに輝いてる。
「好きなんだろ!?あのキックなら通用する。お前ならやってけるよ!!」
...ゴッゴッゴーーーーーーーーーーーーーーーーウーーーーーン...
...キィーーーーーーーー...ドルゥン...ドルゥン...ドルゥン...ドルゥン...ドルゥン...ドルゥン...
スロードープが来た。
ブルースは、歩き出す。
「あ、あの、ボールっ!!」
「やるよ!それ!」
ブルースは、走って行った。
「...待ってるぜ!...」
ブルースはバスに乗る前に、もう一度振り向いて叫んだ。




