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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
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ハイドラの狂人12

マタブマとバールクゥァンは、大闘技場の中央で睨み合っている。


2人の距離は100mといったところだ。


まばらだった観客席は隙間なくぎっしりと埋まった。


まだざわついている。


「まだ始まってない?。大丈夫?。」


「あぁ。」


フィアンセのエノアだ。


2人分の麦酒を買ってきた。


ゴード笹から作られた麦酒のカップは、保冷性が高い。


「はい。」


「あぁ、ありがとう。お金...。」


「いいわよ。さっき出して貰ったから。笑。どっちのお金かもう分からないし。笑」


エノアが麦酒のカップを手渡してくれる。


僕のはXLだ。


うん。


麦の甘みが口の中に広がる。


確かにここの麦酒は美味しい。


旨味が凄い。


同じラワン麦なのに酒によって全く味も香りも違う。


不思議だ。


ほのかな笹の香りが冷えた麦酒をより美味しく感じさせる。


「あれ?。もうそんなに飲んじゃったの!?。」


「あ、あぁ...。」


「喉渇いてたの?。」


「ここの美味しいよ。評判通り。か、果汁の、ゲフッ。」

「やだ。笑。」


「ごめん。ごめん。」


「ほぉんと!。美味し!。」


エノアは、足をばたつかせながら麦酒を飲んでる。


もう、お喋りをしてる人は殆どいないのに。


エノアはいつも明るい。


僕はこの娘のことが好きだ。


マタブマは大きい。


異常なほどだ。


3階建ての建物くらいあるハノイ象より大きい。


形態を変えれば、怪獣レベルの大きさ。


ハイドラ北部の民族、ダンドア族のマタブマは、肌が白く顔は赤らんでいる。


そして、銀色の長髪を後ろに束ねている。


銀の毛だらけの腕はシャトル並みに太い。


対峙するバールクゥァンは、マタブマよりふた回り以上小さい。


口ひげが印象的だ。


腕と額には火焔鳥の羽毛を細くよった赤いサンダツを巻いている。


黒く光る筋肉が隆起している。


癖の強い長い黒髪が風になびいている。


マタブマほど人気の無いアンティカはいない。


マタブマは勝つために手段を選ばない。


マタブマは四方アンティカ以外に負けたことはない。


マジアなど四方アンティカ以外の八方アンティカの中では勝率だけで言えば間違いなく最強。


四方アンティカと同じく漢名が貰える。


しかし、第三位だ。


オルテガが戦闘不能になって以来、八方アンティカの第一位は不在のまま。


そもそも、セティ以外の流派では、マタブマのような戦士はアンティカどころか、ヒルマ殿に来ることすら許されない。


セティでは強さが全て。


いや、実力も関係ない。


勝つか負けるかだけだ。


人格や素行などは全然関係無い。


そのため、セティ一門は荒くれ者しかいない。


マタブマのように勝者のみが登りつめる。


全国から戦士が殺到する。


そして、セティ出身の大闘技場出身者の数は、御三家の中でも群を抜いて多い。


国権の最高機関 首長会は、誠実で優しすぎるヒドゥィーンの生き残りをかけて、セティ一門をバックアップしている。


巷の噂では、マタブマはバールクゥァンに勝てないとされる。


そうだろうか?。


違う。


バールクゥァンは確かに稀に見る強いダルカンラキティカだ。


しかし、オルテガとは違う。


マタブマはオルテガには勝てなかった。


なので汚い手を使った。


しかし、マタブマは、腐ってもアンティカ。


バールクゥァンのアンティカ戦での勝率は2桁に満たない。


オルテガは特別だった。


アンティカの中での戦績は、マトゥバ、マドワアンティカ、一時的にはマジウさえも上回っていた。


そのオルテガすら、マタブマの策略の前に倒れた。


首長会はセティ家の征天大剛であるバラドの嘆願を受け、禁じ手を犯したマタブマの咎を不問とした。


しかし、セティ一門や、首長会がいくらマタブマを擁護しても、マタブマの戦士としての地位はこれより上に登ることはない。


なぜならば、ヒルマ殿は、大闘技会は、ハイドラでの武闘は、ハイドラの絶対的守護者ハイドゥク影響下だから。


そして、ハイドゥクと首長会は、こんな所でも対立している。


一階 北ゲートの辺りの観客が一斉に立ち上がり、大歓声を上げた。


もの凄い声だ。


「あれ?。どうしたのかしら?。ねぇ、見て。笑。全部飲んじゃった。笑」


エノアはカップを逆さにして見せた。


ほんのり赤くなっている。


本当に無邪気だ。色っぽい...。


辺りの観客はちらほらと立ち上がった。


エノアも気になるらしく、立って北ゲートの方を見た。


「マジウだ...。」


隣の席の男が呟いた。


「マジウだ!。」


後ろの男も。


「えぇ!?。」


観客は連鎖して一斉に立ち上がった。


3階席の床が抜けそうだ。


この階はタント族が多いので一斉に立上られるとよく見えない。


大闘技では、最初は新入幕した戦士から戦いを始め、最後の総大将まで順番に戦士は強くなっていく。


もし、マジウアンティカが露払いの儀式に来たのなら異例中の異例だ。


露払いは同じ北方で勝利した格下の戦士がゲン担ぎと上位者の戦い方を学ぶためにする儀式だ。


「すいません。タントの勇者の方々。私達も見たいのですが...。」


大きなタント族の男達は、一斉に振り返り、直ぐに座った。


「悪いね。姉ちゃん...。」


エノアは、自分の気持ちを伝えることに躊躇しない。


かなりキツイことを言っても、エノアには悪意がなく一所懸命なのが分かるから、寧ろエノアが可哀想に思えてしまう。


許してしまう。


あれ?。


やはりマジウアンティカがいる。


あれは正しくマジウアンティカだ。


直ぐに、バールクゥァンはマジウの下に走り寄り戦士の礼をした。


マジウは、しきりにバールクゥァンに何かを話している。


しきりに、バールクゥァンの武器大刺股を指差している。


露払いが戦士に話しかけるのは異例中の異例だ。


しかも、アンティカが直接作戦を授けていると見做されては禁じ手になりかねない。


何を話しているんだ?


作戦を授けている様子ではない。


マジウはしきりにバールクゥァンの武器を指差している。


バールクゥァンは、首を横に振っている。


ジャワ族のそれは拒んでいる仕草。


アンティカに従わない気なのか。


バールクゥァンとマジウアンティカは、お互いに兄弟の盃を交わしていると言われている。


一枚岩だと言われている。


以心伝心のはずだ。


オルテガが、最年少で最弱のアンティカ モルフィンを、マジア アンティカを脅かすマジウ アンティカに育てた。


そして、マジウは自分より15歳以上も年上のバールクゥァンを、万年イブラデ最下段から、左のダルカン ラキティカ まで引き上げた。


実質上バールクゥァンは北方のNo.2だ。


マジウアンティカは、ヒドゥィーン12種族の中では数少ないシャガール族だ。


シャガール族は身体はヒドゥィーンの中ではアミ族に次いで小さい。


アトラ人に背格好が似ている。


しかし、体重が重い。


巨人族タント族以上に。


シャガール族は一般的には動きが遅い。


その変わり力は体重に比例して強い。


マジウは、シャガール族でありながら、動きも凄まじく早い。


そのスピードには誰も叶わない。


その腕力は、最強のアンティカ マジアに匹敵する。


マジアもマジウも創造的な戦士だ。


それぞれ必殺の技を持っている。


お互いにそれを破りあい、凌ぎを削っている。


しかし、マジウが、技の繊細さ切れ、 柔らかさですぐれる巨人マジアアンティカに勝つことは稀だ。


相性が悪いのだ。


マジアがアンティカになって以来、南方の独壇場だった大闘技場に、オルテガ、そして、バールクゥァンは一度ずつ北方に優勝をもたらした。


マジアを倒すという大金星によって。


整備を終えた1000人近い戦士達は、整然と並び一斉に四方のゲートに帰っていった。


20人の神官達は、マタブマを追い越し大闘技の中心に集まった。


いよいよ、北東方 アンティカ マタブマと、北方 ダルカンラキティカ バールクゥァンとの決戦が始まる。


まだ、バールクゥァンはマジウとやり取りをしている。


首をゆっくり横に振っている。


「どうしたんだろう...。」


僕はついついエノアに問いかけてまう。


エノアは時折僕の知らないことを知っている。


「どうしたのかしら...って、ケンドゥに分からないこと、私が分かる訳ないじゃない。笑。」


「エノアは、どう感じる?。バールクゥァンとマジウは意見が対立しているのかな?。」


「そうだよね。ケンドゥは、記事にしなきゃいけないんだものね...。私一階まで降りて行って聞いてこようか?。」


!?


とんでもない!。


「ダメだよ!。何かあったらどうするの!?。観衆には荒くれ者だって沢山いるんだよ!。行くなら自分で行くよ!。」


「じゃ、私も。」


「うん。でも、危ないな...。」


「何か遠すぎて分からないけど2人とも悲しそう。意見が対立してるみたいに見えるけど何か悲しそう。」


「バールクゥァンは武器に細工でもしてるのかな?。」


「うん...。いや、逆じゃないかしら。」


「逆って?。」


「マジウアンティカが、なぜ武器に細工をしなかったのかってバールに言っているみたいに思える。」


「マジウが?。バールクゥァンに反則をしろって?。そんなバカな!笑。マジウは、バカ正直なアンティカだよ。だから人気も高いんだ。」


「そっか...。そうだよね。マジウがそんなこと言う訳ないよね...?。ケンドゥみたいにジャーナリストじゃないから私分かんないよ。」


「あ!。いやごめん。でも、エノアの勘っていうか言うこと。的を射てること多いからさ。笑。この前の、ハイドラの孤児の記事だって...。」


「ううん。平気。麦酒とおつまみ買って来る。何か食べたいものある?。」


「あ、俺行ってくるよ。危ないし...。」


「危なくないわよ。心配し過ぎよ。ケンドゥは。笑。子供だって売店くらい行くわよ。ここはヒルマ殿よ?笑。ハイドゥクのお膝元よ?。」


「そうだけど...。」


「ありがとう。心配してくれて。笑。でも、あなたは、お仕事に集中してて。」


エノアは、席を立った。優しい娘だ。


あ!?。そうだ...。


「エノア!。ダイエットは良いの!?。」


「もう...。サワークリームのサラダしか食べないわよ。」


3ブロック先からエノアが叫んだ。


「ご、ごめん...!。」


エノアは、また麦酒を買いに行った。


でも、エノアの言ってること。正しいのかもしれない。


もし、マタブマの武器にまた細工がしてあったら...。


マジウだけではく北方の戦士達は、みなバカみたいに礼儀正しく優しい。


そして、若く幼い自分達のアンティカを、異常なほど愛し尊敬している。


彼等は、きっと若くて華奢に見える自分達のアンティカをみなにも同じように尊敬し愛して欲しいのだ。


歓声が大きくなり始めた。


地鳴りのようだ。


12万人の観客は一斉に立ち上がり始めた。


エノアが戻って来た。随分一杯買い込んで来た!笑。


「始まった!?。」


タント族達は一瞬立ち上がったが、エノアの方を振り返り直ぐに座った。


歓声が高まり始めた、


凄い声だ。


地面が振動してる。


大気が真っ白だ。


ビリビリと大気が揺れる。


凄い音量だ。


前のタント族達も大声で叫んでる。


マタブマとバールクゥァンは中央線からそれぞれ200m離れて両方の拳を地面に着け睨み合った。


両者は立ち合いにボルドト(ぶちかまし)を選んだのだ。


中央に立つ2人はまるで精巧に出来たフィギュアのように小さく見える。


大闘技場の対角にある空砲が同時に鳴り響いた。


マタブマ、バールクゥァン、ともに地につけている両方の拳を浮かせ敵を目掛け走り始めた。


マタブマの戦艦ように重い大きな身体は、ゆっくりと動き出し徐々に加速し始めた。


やや小兵のバールクゥァンは、いきなりトップスピードだ。


は、速い...。


マタブマが大闘技場の大地を踏みしめる度、爆発のような振動と音がする。


しかし、その爆発も間隔がつまっていく。


重い重いその巨体は徐々に加速しついに暴走し始めた。


物凄いスピードだ。


マタブマの歩調に合わせ大闘技場は激しく振動する。


マタブマの暴走は、ますます拍車がかかる。


悲鳴とともに観客が逃げ始めた。


バールクゥァンの黒い鋼のような身体は、巨大なタンカーを下からすくい上げるように低く地面を這うように走っている。


早すぎてもはや黒い影にしか見えない。


ぶつかる!。


大闘技の中央で両者は激突し止まった。


...


...


...


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


どちらも弾き飛ばされない。


...ガゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


遅れて音が轟く。


鈍くて大きな...まるで鉄の塊と鉄の塊が激突したような音だ。


もの凄い衝撃が...。


腹が痛い。


頭も。


大気が歪む。


え、エノア...?。


エノアがずっこけてる。


だ、だ、大丈夫?。


アンティカ マタブマと、ダルカンラキティカ バールクゥアンは激突した。


ついに...ついに...決戦は始まった!。

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