ハイドラの狂人6
...ドドーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
閃光とともにシャトルが大きく揺れる。
「見ろ!。巡洋艦が主砲を撃ってる!。」
「ほ、ほ、ホント...。」
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
なにかの鳴き声だ。
シャトルが揺れるほどの音量。
浮き島や谷に反響して響き渡っている。
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
「み、見ろ!。」
上空の大きな島の上から、巨大な帯のようなものが旋回して降りてきた。
いや、帯ではない。
途轍もなく巨大な反重力羽を持ったムカデだ。
いや、違う!。
イソメだ。
節ごとに無数の反重力翼を持っている。
錆びた鉄の様な体色。
蛇腹のような身体。
真上から急降下してくる。
...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドドーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドドーーーーーーーーーーーン...
全ての巡洋艦が全主砲を巨大昆虫に向け発射した。
凄まじい音。
しかし、巡洋艦の主砲が、ただの煙幕のように全く効果がない。
「何で?!。ギリノアに主砲なんて撃つんだ...。」
ケンドゥは耳を塞ぎながら言った。
「見て...ケンドゥ!あれ、ギリノアじゃないわ...!。」
「え?。」
「あれ、ギリノアじゃない...。」
「な...何だよ...。汗。」
「ギリムよ。」
「な...。そんな...。」
「ギリムよ!。大き過ぎるわ!。」
「ギ、ギリム...。ギアナの最凶危険種。」
『......ギリノアを巡洋艦が排除致します。少々停車いたします.......』
「うそよ。見て、あの放電翼。ギリノアには放電翼なんてない。触覚も短い。ギリノアは、こんなに大きくないわ。」
「エノア。君、ツアーコンダクターだろ?。」
「だからよ。みんな最初に研修するわ。」
「それじゃ、だ、誰も助からないじゃないか...。なぜこんなところに...ナジミールなんて9000万キロも離れてるのに...。」
「だから、ガルマンスーパージェット気流に乗って来たのよ。ギリノアじゃない。絶対に。」
巨大なイソメは一気に降下してくる。
もの凄いスピードだ。
とにかく巨大だ。
頭部だけで巡洋艦より大きい。
「お、大きい...。」
「デカい。うわああ...。」
シャトルの上に落下してくる。
...キャーー...キャアアァァァー...うわぁーーー...キャーーーー...おおぉ...ヒイィ...キャーーー...ギャァァァァァ...うおーーー...うわぁぁ...ギャァァァ...キャーーー
車内はパニックに陥っている。
トラフィンはのんびりとしている。
サンザは気持ちよさそうに寝ている。
ケンドゥは、声をかけようか迷っている。
直後、巨大なムカデは、巡洋艦カブトに激突した。
...ズズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
振動はシャトルまで伝わる。
シャトルは軋みながら、激しく揺れた。
巡洋艦カブトが弾き飛ばされた。
まるでたいまつのように回転している。
...ダーーーーーーーーン...
...ゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
カブトはコントロールが効かず、浮き島に激突しながら墜落して行く。
ギリムは反重力翼をバタつかせ、カブトを追いかけている。
猛スピードで遥か下の地上まで降下していく。
ギリムがカブトにもう一度激突する。
...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
カブトは全くコントロールが効かない。
地面に激突し大爆発を起こした。
巨大な昆虫ギリムは、しばらく、地面と水平に泳ぐように飛んだあと、燃え上がるアギトの近くを旋回している。
アギトとリガヤの高圧炉は、回転を上げた。
緑色の防御エネルギーシールドは、更に明るさを増す。
シャトルは、アギトとリガヤに護られ移動する。
ギリムは、墜落した巡洋艦の周りをまだ回っている。
とにかく大きい。
まるで巡洋艦が小魚だ。
やつの狙いは高圧炉か人間だ。
ケラム地帯と、ナジミール平原の間では、巨大飛行虫ギリムが、しばしば超長距離大型輸送船ナイルレーターを襲う。
ナイルレーターは、多くの人々の命や希望を乗せ、希望の地メディアを目指す。
ギアナ大渓谷を飛び越える。
命からがら逃げてきた無階級の人々の希望を乗せて。
しかし、大半のナイルレーターは、ギリムに阻まれ、メディアどころか、ギアナの対岸にたどり着くことができない。
3217万キロのギアナ大渓谷を飛ぶ間、ひしめき合うありとあらゆる獰猛な生き物の攻撃に、無防備なナイルレーターはただひたすら耐えるだけだ。
先月も1470万人の無階級市民が、ギアナ大渓谷の深い深い谷に飲まれた。
ナイルレーターは人々を乗せたまま、虫に食べられてしまった。
ウミガメの子や、 魚の稚魚のように。
巡洋艦のアフロダイエネルギーシールドのせいで、軍やシャトルの通信が途切れて聞こえる。
ハイドラ軍の兵士が怒っている。
「...第三艦をもう一体の...かわ......乗組員を第二艦......二手に分かれ......作戦を......おとりと......もし、......たら、アギトだけでは、..................。ハイドラ軍..................なぜギリノア............ハノイ支部............40分............もう一体の............。」
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
「見ろよ!。あれ!。」
上空に浮かんでいる島じまの間を悠然と飛ぶギリムが見える。
「さ、さっきのか...?汗」
「ち、違う。あれは雌だわ。あれとギリノアを間違えたのよきっと。ギリムの幼体はギリノアに大きさも色も似てる。」
「二体も...。」
下から雄のギリムが、上がってくる。また猛スピードだ。
「ギャーーーー。」
前の席の男が大声を上げた。
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
...キャーー...キャアアァァァー...うわぁーーー...キャーーーー...おおぉ......キャーー...キャアアァァァー...うわぁーーー...キャーーーー...おおぉ...ヒイィ...キャーーー...ギャァァァァァ...うおーーー...うわぁぁ...ギャァァァ...キャーーー...
シャトルの中は大パニックだ。
気絶して倒れる老婦人。
抱きしめ合う家族。
バンドルを慌てて開くもの。
シャトルのドアを開けようとする者。
窓を見てだだ叫び続ける者。
雄のギリムはシャトル目掛けて飛んでくる。
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
上空のもう一頭も、巡洋艦とシャトルに気づいた。
突然狂ったように降下してくる。
...キャーー...キャアアァァァー...うわぁーーー...キャーーーー...おおぉ...ヒイィ...キャーーー...ギャァァァァァ...うおーーー...うわぁぁ...ギャァァァ...キャーーー
バスバスバスッ...バスバスバスッ...バスバスバスッ...バスバスバスッ...バスバスバスッ...バスバスバスッ..ヒューーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーー...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ゴガーーンン...ドドドーーーン...
ズズドーーーーン...ズガーーン...ズガーーン...ドゴーーーーン...ゴガーーンン...ドドドーーーン...ズズドーーーーン...ズガーーン...ズガーーン...ドゴーーーーン...ゴガーーンン...ドドドーーーン...ズズドーーーーン...ズガーーン...ズガーーン...ドゴーーーーン...
巡洋艦は、主砲、副砲、機関砲、ミサイル、魚雷...。
上弦下弦の全ての装備をギリムに放つ。
下から来る巨大なギリムそして、上から急降下してくるギリムの幼体に。
巡洋艦は自らの持てる力の全てを二体のギリムにぶつけている。
凄まじい攻撃だ。
グリーンの防御シールド越しの世界は、砲撃の煙幕で何も見えない。
煙の隙間からギリムの幼体が方向を変えるのが見える。
「おぉ...。」
シャトルの中に呻き声が漏れる。
成体のギリムも動きが止まっている。
「...ブラックドッグ...。」
車内放送が。
『...ハイドラ軍が、ぶ、ブラックドッグを発射します!。お客様にお願いします。お座席にお座りになり、安全バーをしっかりと固定して下さい。もう一度、も、申し上げます。お客様...』
シャトルの機長だ。
...バスバスバスッ...バスバスバスッ...バスバスバスッ...バスバスバスッ...バスバスバスッ...バスバスバスッ..ヒューーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーーヒューーーーーー...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ズズドーーーーーン...ゴガーーンン...ドドドーーーン...
ズズドーーーーン...ズガーーン...ズガーーン...ドゴーーーーン...ゴガーーンン...ドドドーーーン...ズズドーーーーン...ズガーーン...
ズガーーン...ドゴーーーーン...ゴガーーンン...ドドドーーーン...ズズドーーーーン...ズガーーン...
ズガーーン...ドゴーーーーン...
巡洋艦の激しい砲撃は、続いている。
直下の巨大なギリムに向かって、二筋の赤い光が、煙を噴射しながら向かって行く。
「あれがブラックドッグ...。」
成体のギリムの大きな頭部で、ブラックドッグが炸裂する。
爆発は凄まじい。
シャトルが壊れそうなほど揺れる。
また二筋の赤い光がギリムに向かった。
そして、もう一度...。
立て続けに、大爆発が起きる。
シャトルが耐えらているのが不思議な位だ。
揺れは収まらない。
爆煙で何も見えない。
...ピリッ...
シャトルの内装にヒビが入る。
...グウン...
シャトルが動き始めた。
...グュウ...ギャッ..ッ...ギャッ..ゴッ...ッ...ッ...
...グュウ...ギャッ...ゴッ...ギャッ..ッ...ッ...ッ...
ギリムの鳴き声が変わった。
ミサイルが効いたのかもしれない。
シャトルは進んでいる。
でもゆっくりだ。
「撃退した...?。」
ケンドゥが呟く。
エノアは顔を安全バーに押し付け震えている。
みんなそうだ。
怖く無いはずがない。
静寂が続く...。
シャトルが加速し始めた。
乗客達は顔を上げ始めた。
爆発の余波はまだ続いている。
...ゴゴゴゴ...
島々が唸っている。
乗客が顔を起こす。
助かった?。
みんな辺りを見回している。
助かったのか...。
談笑が始まる。
乗客達はホッとしている。
爆煙が晴れてきた。
「.........戦艦ハリーア、レバンナ........ベイルーブ........島の間隔が狭く................入れない........何が......救援..危機的........何とか........入れない........何とか........までおびき出せ........長距離砲の射程.......。」
!!?
突然、大気が白む。
...ゴガーーーーーーーーーーーーーーーン...
爆発音が。
...キャーー...キャアアァァァー...うわぁーーー...キャーーーー...おおぉ...ヒイィ...キャーーー...ギャァァァァァ...うおーーー...うわぁぁ...ギャァァァ...キャーーー
乗客が悲鳴を上げる。
何かが、アギトは下弦の大半を吹き飛ばした。
「え?。な...何が?。」
ギリムは、顔の半分を失い緑色の体液があふれだしている。
ギリムの背中の放電翼が光っている。
電熱線のように。
眩しいほど。
ギリムは、アギトの方を向いている。
「撃ってくる!。」
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
上から、ギリムの幼体がまた襲ってくる。
別の方角からも鳴き声が...
「え。!?。」
「な...。」
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
今までとは比較にならないほど大きな鳴き声が。
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
「な...。」
ギリムが...。
一際大きい。
反対側の空から。
大破したアギトがシャトルの上を通り過ぎる。
力を振り絞っている。
アギトの下弦は、見るも無惨だ。
もはや反撃も高速での飛行も不可能。
「みて、やっぱりギリムよ!。あれ、ギリムの熱戦放射でやられたんだわ!。」
「えぇっ...。そんな...。たった一撃で巡洋艦がこんな...。一隻でハノイゲートを制圧する巡洋艦が...。」
シャトルの船体も悲鳴を上げている。
アギトは、リガヤと島の間に入って来た。
リガヤは、ハッチを開けアギトへ船員を移動させている。
アギトのアフロダイ高圧炉が回転を上げている。
防御シールドは最大限に光を放った。
「アギトは、自分を盾にする気なのね。」
リガヤはゆっくりと後退し始める。
下弦に18基のブラックドッグが装填されている。
艦橋にパイロットの姿が見える。
1人だけ残っている?。
「ま、まさか...自爆するつもりでは...汗。」
...パアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...パンパアァーーーーーーーーーーン...
...パアァーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...パンパアァーーーーーーーーーーン...
...パアァーーーーン...
...パンパアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
リガヤの警笛だ。間違いない...。
最後の挨拶だ。
...グワ...グーーーーーーーーーーーーーーン...
...グワグワッブーーーーーーーーーーーーワーーン...
アギトが返す。
アギトの壊れた警笛音はまるで泣いているように聞こえる。
前のシートで女が立ち上がった。
何かを言っている。
うわ言のように。
「ウソでしょ?。嘘...。嘘...。そ、そんな。」
「ニンフ?。どうした?。」
隣に座っている太った白髪の初老の男が。
ニンフに良く似てる。
父親か親戚だ。
「まさかリロイじゃ...。」
「そんなことはないだろう...。まさか...。」
「あの警笛...。あの人の鳴らし方...。あの人だけなのよ。1人で操舵出来るのは。第1操舵手のあの人なのよ...。」
「ま....まさか...。だとしても...。まさか。オートパイロットがあるだろう?。艦長や責任者がやる。普通は。」
「戦闘をオートパイロットではやらないわ。リロイは次期副長...。他に動かせる人がいない...。あの時もそうだった...。」
「だからと言ってそう決め付けることもない。大丈夫だよ。大丈夫。リロイばかりが...。そんな...。大丈夫だ。」
男はニンフを抱きしめ背中をトントンと叩いてやっている。
きっと父親だ。
男の顔も辛そうだ。
「あの人勲章貰っている。第7艦隊の窮地を救ったの。あの時も。リロイはそういう人...。そういう立派な人。だから私...。でももう...耐えられない...私。頭がおかしくなりそうよ。あの人が今どんな気持ちで...。泣」
「ニ...ニンフ。お、落ち着きなさい。しっかりしなさい。お腹に赤ちゃんがいるんだ。とにかく。落ち着きなさい。リロイと決まった訳じゃない。ほ、ほら。お水。お水を飲みなさい。」
そう言う父親が取り乱している。
トラフィンは目を覚ました。
ニンフさんが...。
ジュースをくれた。
「大丈夫だ...。きっと大丈夫。神様が守ってくれる。リロイは神様と同じ名前なのだから。」
根拠になっていない...。
「おい!。リガヤは第1操舵手だけになったみたいだぜ!。」
「...おい...!。おまえ。気を遣え...。隣の人。」
「あ...。」
「大丈夫だ。大丈夫。」
「なぜあの人ばかり...。二人で頑張って来たの...。あの人はやっと掴めたの。2人で掴んだの。やっと...。」
トラフィンは、ヤマダさんを掴んで、車両の前に走って行った。
トラフィンは、トントンとニンフの背中を叩いた。
ニンフはトラフィンに気がつかない。
「大丈夫。帰って来る。リロイはそう言う奴だ。必ず帰ってくる。」
ニンフは立っていられない。
トラフィンは、ニンフに亀のヤマダさんを差し出した。
ニンフは涙に濡れた目でトラフィンを見た。
「ありがとう...。」
ニンフはヤマダさんを受け取り胸元に押し付けた。
ヤマダさんがまたあくびをする。
リガヤは、ゆっくりと旋回し1番大きなギリムに向かって行く。
「.......ニンフ。必ず帰る。.......」
!?
男の声が聞こえる...。
「リガヤの操舵手だ...。」
...ドタン...
ニンフの父親は、座席に倒れ込んだ。
慌てて隣の席の男達が介抱する。
「リロイ!。待ってる!。私!。この子と一緒に...あなたの帰りを!。だから、だから、お願い...。」
ニンフは叫んだ。
伝わるはずが無いのに...。
...パアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
!?
リガヤは警笛を鳴らした。
リガヤが加速しギリムに向かう。
...グゥワァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
ギリムは熱線を吐く。
ケラムやナジミールの獣の吐く熱線は、兵曹の粒子放射の原型となるもの。
アルマダイやアフロダイの粒子消滅の爆発的エネルギーを利用している。
リガヤはかわした。
至近距離で。
操舵手の誇りと技術の高さ、そして勇敢さを示すように。
...ギ...ギャーーーーーーーーーーーーーーーー...
...ギ...ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
ギリムのIQは80近いと言われている。
ブラックドッグの威力を知っているはずだ。
...ピシィッ...
「キャアーーッ!。」
ギリムの咆哮で、シャトルのガラスに亀裂が入る。
...ズゴーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
ギリムの長い尻尾がついにリガヤを捉える。
「キャーーーー!。」
ニンフが叫ぶ。
ギリムの巨大な尻尾の直撃で、リガヤは主砲、副砲も何もかもむしり取られた。
リガヤは回転し続けている。
操舵手は即死だ...。
ギリムは強力な生物。
!?
リガヤのスラスターや方向舵が目まぐるしく動いている。
しかし、リガヤはコントロールを取り戻すことが出来ない。
ギリムの前で、なす術が無い。
回転し続けている。
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
ギリムの幼体がシャトル目掛け急降下して来る。
アギトは、船体を傾け浮島との間隔を詰めた。
幼体のギリムが、アギトに激突する!。
...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
アギトの第二艦橋が吹き飛ぶ。
激しく揺れている。
アギトはシャトルの2cm手前で止まった。
「ギャーーーー!。」
「うわぁぁ!。」
幼体は爪でアギトの装甲を引き剥がしにかかる。
首を執拗にシャトルとアギトの間にねじ込んで来る。
幼体の目当てはシャトルだ。
...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
アギトがスラスターの出力を高める。
幼体の首をねじ切ろうとしている。
幼体とはいえ300m近い体長がある。
生き物の力は凄まじい。
アギトの甲板は穴だらけだ。
少しずつ隙間が空いて行く。
幼体の首は隙間に入って来る。
ついに、シャトルに噛み付いた。
...ゴゴ...バギィ...ガキ...ゴンゴン...ガガガ...ギギギギィ...
イソメのようなキバ。
シャトルが砕ける。
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
...ギュギュッ...ッ...ッ...ギャーーーーーーッ...ッ..ッ..ッ..ッ..ッ...
雄のギリムが真下から急上昇して来る。
アギトには、もはやシャトルを護る術が無い。
...キャーー...キャアアァァァー...うわぁーーー...キャーーーー...おおぉ...ヒイィ...キャーーー...ギャァァァァァ...うおーーー...うわぁぁ...ギャァァァ...キャーーー
シャトルはパニックだ。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
大きな爆発が立て続けに起きている。
岩が砕け散るような音が反響している。
『...........こちらは第七艦隊旗艦レバンナ..........本艦の長距離砲は、射程圏内にギリムを捉えている。本艦の射線上にギリムをおびきだせ。.......繰り返す、本艦レバンナは、.......ハバヌノア、浮遊島群域に入り、貴艦ターゲットの射程内に到達している。何とか、何とか、本艦の射角にギリムをおびきだせ。頑張れ。何とか!.......。』
レバンナの主砲だ。
こんな遠隔から...。
「射程距離内...。あんなにでかい戦艦が...レバンナが...捨て身で、バハヌノアの中まで入って来ている。」
レバンナは全長1200mのハイドラ軍の旗艦。
アマギとともに、ハイドラ空軍最大の戦闘艦レバンナは、その巨大さゆえ、浮遊島群域に一度入ると抜けられなくなる。
貨物船で洞窟に入るようなものだ。
ギリムの幼体が、花の蕾のような牙だらけの口を開く。
...ガキィ...ボン...ボウゥン...ゴガーーー...ギュウウゥゥゥーーーーーー...ドン...ドーーーーーーーン...ガキィ...ボウゥン...
天井のジニリウムをキバが貫通している。
ムラのある茶色。
黄ばんだ瀬戸物のような色。
シャトルの天井を食い破った。
粘液が滴る。
香ばしく何とも言えない悪臭が漂う。
!!
触手をシャトルの中に伸ばし始める。
車内には、悲鳴が響く。
天窓の外で、彼方で、ギリムの放電翼が燦然と光を放つ。
リガヤに狙いを定めている。
巨大なギリムの口はより一層光を増した。
下からのギリムも口を大きく開いている。
もう500メートルも離れていない。
絶対絶命だ。
万事休すだ。
「モル兄様...。どうか、この人達をお護りください。ワシの命と引き換えに。どうか...。」
トラフィンは、モルフィンからの手紙を握りしめ祈った。
「偽善者かよ!。バカじゃねぇのか!。ガキ!。家族を亡くして悲しんでる人もいるのに!。ちっぽけなお前の兄貴に何ができる!。バカ野郎!。」
トラフィンすくんだ。
「そんな言い方ないだろ!。今言ったの誰だ!。」
ケンドゥは怒鳴った。
誰も名乗り出ない。
エノアは、そっとトラフィンの頭を抱き抱えた。
そして、トラフィンが息が出来ないほどギュッと。
「優しい子。そうよ。トラフィンのお兄様ならきっと助けてくれるわ。気にしないで。」
ニンフは、トラフィンの前にしゃがみ、トラフィンの宝物を返した。
「ありがとう。私、負けないわ。」
ニンフは、トラフィンの頭を撫で微笑んだ。
顔は涙でくしゃくしゃだ...。
!?
地震?。
浮島もシャトルも何もかもが揺れている。
...ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ...
大気も振動している。
...ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ウォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ...
全てが激しく揺さぶられている。
空には、巨大なマントラが...。
数十キロにも渡る、巨大な二つのマントラ。
一つは北の空に、もう一つは南の空に。
北の空は赤い光を、南の空は青い光。
燃え滾る炎のように、燦然と光を放っている。
巨大なその多角形の波紋は、お互い逆の方向に回転し始める。
「あ...あれは..,。」
「見ろ!。ナジマの波紋だ!。」
「おぉぉ...。」
「イプシロンが!。」
彼方から振動が近づいて来る。
大きな太鼓のような音、振動が。
それも二つ。
振動は大きくなる。
とうとう巨大なギリムがリガヤ目掛けて熱線を発した。
まるでホースのように衝撃で変形して、しなる。
真っ赤な光が浮島を伝い広がる。
島よりも大きなエイのように。
赤い光が島ごとリガヤを覆う。
...バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ...
ギリムの熱線を吸収する。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
大気を切り裂く音とともに、赤い光は、赤い雷をギリムに放つ。
...ドドドドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
雷がギリムの頭部に炸裂する。
ギリムは白い腹を向けひっくり返った。
1000mの巨体が空中でゆっくりと。
シャトルの前から、亜光速で大きな青い光の塊が飛来する。
ギリムはが威嚇する。
...ギュギュッッーーーーーーギャ...
青い光はギリムに激突した。
....ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
一瞬でシャトルの下に到達した。
...
衝撃波でシャトルのガラスは、全て粉々に砕け散る。
...パリーーン...ドシャァーーーン...ガシャーーーン...パリン...ドシャァーーン...パリン...ガシャガシャ...パリーーン...
シャトルが波打つ。
...キャーー...キャアアァァァー...うわぁーーー...キャーーーー...おおぉ...ヒイィ...キャーーー...ギャァァァァァ...うおーーー...うわぁぁ...ギャァァァ...キャーーー
ギリムは吹き飛び、頭部が引きちぎれて回転している。
衝撃に耐えきれなかったのだ。
...ズズズーーーーーーーーーーーーン...
ギリムの頭部は、後ろの島に激突し、めり込んだ。
ぐちゃぐちゃに潰れている。
...ゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
浮島が二つに割れて行く。
幼体のギリムは、先頭のシャトルの天板を噛みちぎりむしり取った。
狂ったように人間を探している。
しかし、シャトル真下から、青い光が燻り、シャトルとアギトの間に立ち上り始めると、幼体はもがきはじめた。
まるで何かに押さえつけられているように、頭部が引き伸ばされている。
吊り上げられて行く。
透明な巨大クレーンに。
浮島の上の巨大なギリムの放電翼は、光りを帯びている。
リガヤを島ごと覆っている赤い光もまた、ゆっくりと燻りはじめた。
太鼓のような振動が激しくなる。
やがて、リガヤの艦上に、青い巨人が実体化した。
目が4つある。
車のヘッドライトのように強い黄色い光を発している。
青い金属の身体。
極限まで筋肉が張り出している。
体長はリガヤよりも大きい。
リガヤの浮力は、巨人とギリムを支えきれない。
そして、浮島の上には赤い巨人が。
青い巨人よりも更に大きい。
二体の巨人は、鬼でも、ロボットでも、人でも、アンドロイドでもない。
そして、動物でも、昆虫でもない。しかし、その全ての特徴を持っている。
二体の光る目は、貴金属や宝石のように光を放っている。
二体の背にある多角形の光る放電翼は、イプシロンと同期して、ゆっくりと回転している。
...ゴゴゴゴ...
...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
二体からは、ジェットタービンが回転するような大きな音が聞こえる。
青い巨人が実体化するに従い、幼体のギリムの首は引き伸ばされていく。
...ゴン...ゴン...ギュ...ドーン...バリバリバリバリバリバリ...
ギリムの幼体は、自分の半分の大きさもない、青い巨人に首を引き裂かれた。
幼体の口は、頭部を引き裂かれてもなぉ、パクパクと動いている。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
青い巨人は、無表情のまま幼体の頭を浮島に思いっきり叩きつけた。
「も、モル兄様...。」
ケンドゥは腰を抜かした。
「き、君のお兄様って...まさか...。」
ギリムの幼体はもがき苦しむ。
引きちぎられた首の後から、紫色の触覚をむき出しにしている。
更に、青い鬼は、ギリムの幼体を生きたまま引き千切って行く。
...バリバリバリバリ...
...バギィィッ...
...ブヂィッ...
...ゴギィッ...
...バギィバギィ...
大量の体液が大気中に噴霧される。
ギリムは動かなくなった。
...ズゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
青い巨人は、力任せに、そのまま、浮島に叩きつけた。
幼体の肉片は飛び散り、浮島の側面にこびりついた。
「見ろ...マジゥアンティカだ...。あれは、アスバードドラゴンだ。」
「な、な、何て事だ...。」
「アンティカが、に、2体も...。」
「アンティカが、俺たちを助けに来てくれた!。」
「こ...こんなにデカいのか...。」
「す、す、凄い...。」
「島の上を見ろよ!マジア様だ。マジアアンティカが...。」
「あれが...あれがマジア...。最強の...。」
「アンティカもハイドゥクも本当だったんだ...。」
「間違いない。見ろ。あの角。」
人々の騒めきが止まらない。
マジアは、額に第三の目を持っている。
同じくヘッドライトのような目が青い光を放っている。
鹿のような銀色の角が日の光を反射している。
「助かったぞ...助かった!。」
巨大なギリムが、再びリガヤに向けて熱線を発射した。
青い巨人がアスバードドラゴンを熱線目掛けて投げる。
アスバードドラゴンは、盾と刀が一体化した武器。
シーアナンジンを宿す三種の神器だ。
アスバードドラゴンは、熱線を反射しながら赤い巨人の左肩に取り付く。銀色の武器に反射されたギリムの熱線は、威力が倍加し、自らを直撃した。
...ドゥーーーーーーーーン...
巨大なギリムの顔面の硬い甲殻は割れ、おびただしい量の体液が吹き出している。
赤い巨人は、アスバードドラゴンを構え、浮島から飛び上がった。巨大なギリムを真っ二つに切り裂いた。
まるで紙を切るように。
二つに切り裂かれたギリムもの身体も、一瞬で、それぞれに切り裂かれた内蔵部分に膜がはり、無数の白い脚が生える。
間をおかず、赤いイプシロンから、雷の巨槌が振り下ろされた。
二つに分かれた、巨大なギリムは、一瞬で粉々に千切れ、蒸発をした。
...ギ...ギ...ギ...
雄のギリムが、猛烈なスピードで、赤い巨人の背後に迫る。
まだ、生きていた。
頭部にはできたばかりの不釣り合いの白い小さな頭がついている。
「危ない!。デフィン兄様!。」
トラフィンは叫んだ。
直後に、青いイプシロンからのギリムに向けて、雷の巨槌が叩き降ろされる。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
雄のギリムは、一瞬で粉々に砕け散り、蒸発した。
「おぉぉ...。」
「あぁ...。」
人々は、呻き、呆然とした。
二体の巨人は、顔を見合わせた。
凄まじい雷鳴が鳴り響き、二体は燻る光とともに、消えた。
...ブウゥオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
警笛が鳴る。
遥か上空から。
巨大な戦闘艦が無数の駆逐艦を引き連れ降下して来る。
ハイドラ軍の旗艦レバンナだ。




