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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
PR
7/382

ニシノ1

...グオ..ォォ..ォォーーー..ーーーー...


...きゃ...ーー..ーーー...ー...


...ゴオ..オオ..オオーーー..ーーーーーー...


...ギイ..イィ..ィィーー...ーーーー...


...は..はは...はは...は...


...グ.ウ..オオ..オオ..ォォ...ォォォーーーーーーー...


歓喜の声。


土煙の合間に見える子供達の。


風が運んでくる。


反対側のゴールポストで、ボールを追いかけている。


みんな夢中になって...。


元気だね。


もう...くったくただよ。笑


僕は、こっちのゴールポストにもたれかかって休んでいる。


汗だく。


白地に水色のストライプの入った強化スーツ。


暑っつい!。怒


装甲歩兵の装甲(ガラントウォーク)のように、エアコンやファンがついていれば良いのに。


そんな高級な装備じゃないから無理。


このスーツは、出力を5倍〜20倍にしてくれる。


そして、トラックに激突して吹っ飛ばされても怪我しない。


痛いけど。


この強化スーツがなければ、あの子たちと一緒に遊ぶことなんてできない。


全身毛で覆われた3mの猿人の子。


人の体型しているけど象の骨格、皮膚、同じ組成の子。10m の身長。


チーターや、熊、サイ...の特性を備えた子。


大トカゲ、ワニ、蛇....。


ノミの特性を備えた子もいる。


彼は、茶色い甲殻と骨を両方持ち、凄まじい跳躍力がある。


見た目は、人間に近い。


生殖器は螺旋状にコイルした構造。


人間に近いからこそ、自分の身体に悩んでた。苦しんでた。


一時は死のうとして、思い切り飛び上がった。


あの子は全力で跳躍すると関節が砕けてしまう。


そして300m跳び上がった後、地面に激突して死んでしまう。


生まれた子はそれぞれ美しい。


生命エネルギーであり、愛であり、意識そのものであるアルマダイが、本来結びつかないもの同士の、最適な結合を模索する。


いや神が考えているのかもしれない。


でも完璧じゃない。


組み合わせは、人間が考えているからだ。多分。


この施設は、タルカント砂漠の中にある。


兵曹 研究の一環として、様々の人体実験が行われている。


中央アトラ合衆国とローム国の莫大な資金が投入され運営されている。


この非人道的な研究は、ご存じのとおり、随分と長い歴史がある。


実験動物として、兵器として、部品として育て、危険度の高いものはケラム地帯に捨てられるか、殺処分される。


人間と生物の尊厳両方を踏み躙る行為だ。


でも、僕はその尊厳を踏み躙る立場にいる、ここSITの研究員だ。


僕は、アルマダイが作り出す新たな創造物に、機能美に、魅せられてしまった。


...ビュオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...ババババババ...


砂嵐が吹き荒れる。


顔に当たる。


オレンジ色の砂が。


これでもマシな方だ。


SIT の防護壁やサクサリスクや、ネブ椰子などの防砂林が砂を緩和してくれている。


4.2km²の敷地。


一辺が2kmの広大な施設。


フットボール場が余裕で作れる。


この施設は地下20階まであり、スーパーシナプスフレームと言われる、人工知能が隠されている。


名前はコマチ。


名前聞くとズッコケちゃうけどね。


民間の人工知能だけど、アトラのイザナミ、イザナギ、スサノオや、ハイドラのペルセアに匹敵する演算能力を持ってる。


リフブ砂岩帯水層の巨大な地下水脈から水を引いて冷却してる。


発電はアルマダイ。


この地下水を冷却に使う極秘技術もニシノさんが開発した。


コマチは、人間のシナプスに似せたチップを、アルマダイを使用することにより、爆発的に増殖、減衰させる。


なおかつ、量子的振る舞いをするアルマダイ粒子を、併用することにより、爆発的な演算能力を叩き出すと同時に、昔の脳模倣型チップの、更に、2.3兆分の1の発熱量で抑えている。


でも、発熱量がそれだけ減っても、演算量が比にならないくらい爆発的に増えているので、やはり冷却水は不可欠。


だから...。


...ビュウウゥ...


風を切り裂く音。


...ガツッ...


うわっ!。汗


...バシィッ...


ボールがポストに激突した。


...パラパラパラ...


砂がメガネに当たる。


「びっくりしたぁ...。」


シルバーに輝く楕円球。


硬さも質量も弾力もある。


このボールは頑丈に出来ている。


...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


子供達が一斉に押し寄せる。


土煙を噴き上げて。


...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


こ...怖い。流石に。


まるで民族、いや動物大移動だ。


「あぁーっ?キョイまたサボってるーーー!。」


マーサスの声。


鷹と人間のハーフの女の子。


この子は飛べない。


ダチョウのように高速で走る。


....ドドドドドドドドドドドドドドド...


「待たんかーーい!。w」


子供達に紛れて、人間のおっさんがボールを取りに突進してくる。


所長のニシノさん。


頭は禿げ上がって、首の辺りまで筋肉が盛り上がってる。


筋肉スモウレスラー体型。


首が余計に短く見える。


昔、フットボールのフォワードだったとか...。


丸い眼鏡から覗く目。


とても人懐い。


前歯が少し欠けている。


この子たちを作ったのも、コマチを作ったのも、地下水を引く技術も、全部この人がやった。


自称65歳だそうだけど、計算が合わない。


800歳超えてる..もしかしたら...。汗


大部分は人ではないのかもしれない。


それを言うと笑顔は一瞬で消える。


いつも笑ってるニシノさんの。


その話題だけは絶対にタブーだ。


...ガハハ...ガハハハハ..こら...押すな..押すな...ガハハハハ...


まじで楽しそうにしてる。


子供達に紛れて。


...ドーーーーーーン...


...ズザアアアアアアァァァァァァ...


ぁあ!。


ニシノさんがスライディングしていく。


ブーラが突き飛ばした!汗。


ブーラはバッファロータイプの子。


ブーラは戯れているつもりでも人間にとっては即死レベル。


強化スーツがなければ。


...ガハハハハ..ガハハ...やめなさい...ガハハハハハハ...


非人道的な研究の第一人者だとは到底思えない。


本当に自分の子供のように接している。


僕でさえ躊躇するタイプの子にも。


この子らはまだ恵まれている。


他の施設では、生命の尊厳を踏み躙る研究が横行している。


ミミズやウミウシと人を交配したり...。


ただの興味本位だ。


知能の高いミミズやウミウシがいかに自然環境を好転させるかという興味の。


この施設にも鯉や鰯と結合した子たちもいた。


他の施設から引き取った。


鰯の子は物心がつく前に寿命を終えた。


鯉の子は15年生きて今年亡くなった。


厳密にはもう子供ではなく老人だった。


身体も5mと大きかった。


クーという名前だった。


天才的に頭の良い子で、自分がただの鯉ではないことに気づいていた。


直観的に自分が人間に由来があることに気づいていた。


話すことも、書くこともできない。


いや、近いことはできるが、彼の能力を満たすことは何一つできない。


彼はとても悲観していた。


仲間の鯉はあまりにも知能が低い。


人間が思っていたのと違い、鯉は痛みも、暑さも、苦しさも、恐怖も感じる。


安らぎや、愛も感じるがクーにとっては極めて低い。


クーの話では、個体によっては、知能が高いものがいて、そのものが群れに影響を与える。


群れの頭脳となって群れを支配するのだそうだ。


テレパシーのように意識がつながっている。


クーの巨大な水槽では、1,000匹いた鯉は皆間も無く死んでしまった。


クーの絶望がそうさせた。


クーの意思がそうさせた。


クーはとても苦しんだ。


ハセガワさんの心無い回答で、クーは自殺を試みた。


水槽の壁に何度も何度も頭をぶつけて。


僕がここに来て2年目、クーは亡くなった。


僕とニシノさんが家族のように水槽で接するようになって、一緒に餌を食べたり、会話の方法を研究したり...亡くなる前、クーは初めて笑った。


初めて笑ったと言っていた。


僕から見ても笑っていることは良く分かった。


クーは亡くなった。


僕たちがいつも座る水槽の中の陸に上がったまま。


クーの側にはボールが置かれていた。


クーが大好きな水球ゲームの...。


僕とニシノさんで遊んだ水球ゲーム。


...フォーーーーーーーーン...


!?。汗


ホイッスルが鳴る。


「...休憩ーー...。」


土埃の中をニシノさんがこっちに歩いて来る。


「あー疲れた、疲れた..w...ひゃーーー...笑...キョイ。あんたも偉いなぁ。青白いもやしみたいな顔しとる割に。ガハハ。ガハハ。w」


「あぁ..いえ..笑...後半疲れちゃって..あの...もやしに顔ありませんけど?。」


「っ...w...また細かいことを..w..構わん、構わん。スキンシップが大事。スキンシップが。ガハハ。ガハハ。w」


何言ってんだろ...?。汗


「所長おはようございます。」


「おう。ハセガワ。おはよう。」


「キョイ。大丈夫だったか?。」


「あ..はい。おはようございます。」


ハセガワさんは僕の先輩。


珍しくグラウンドに出てきた。


色黒で短髪筋肉質のイケオジ。


「あんたも、次から参加しなさい。」


「いや、私は...。しかし、タイガーは、粗暴過ぎますね。この子たちの中ならまだ何とかなりますが。」


ん?。またタイガーの話?。汗


それを話しにわざわざここまで?。


嫌な予感...。


「ちょっとなぁ。ガハ...ガハハ...w」


タイガーは、この施設の中で最も成功した子だ。


アルマダイに結合相手を選ばせる方式で生まれた。


外見は完全に人間。しかも人間としてもかなり美しい。


バッファローとジニリウムの骨格。

ゴリラ、シャコ、チーターの筋力。

サイ、クマムシ、オポッサムの皮膚。


知能もとても高くIQは200近い。


ただ、感受性が強すぎる。


そして、この子も、戸籍、市民権、投票権そして人権もない。


つまり6等市民以下。


学校にも行けず街にも住めない。


だが、タイガーを最も傷つけているのは、父親と母親がいないこと。


試験管とジェネレーターの中で実験として生み出されたこと。


そして、大人たちがタイガーを人間と認めないことだ。


タイガーはとても優しく賢い子だ。


正義感が強く、公平で、利他的な精神もある。


しかし、如何せんまだ14歳の子供だ。


タイガーは荒れに荒れている。


クーが亡くなってから特に。


...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー

...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー...ワー


昼飯の時間。


子供達が移動式ドームに向かって走って行く。


ちなみにこの水滴型のこのドーム スバは、折りたたみ式で、アフロダイを流すことで強度の高い建築物に変わり、アフロダイを切断することで、もとの折りたためる布になる。


地面の備え付けフックに固定する。


ここの子は本当に恵まれている。


ニシノさんのおかげ。


自分たちの境遇を気にしないで生きていける。


16歳のなった3人はここの職員として、仕事を与えられ、生活をスタートしてる。


個人に合わせた食事が提供される。


研究の一環でもあるわけだが。


タイガーなど大抵の子供達は、ほぼ普通の人間と同じものを食べる。


アルマダイ・ブルーと言われる特殊な飲み物を除いては。


匂いがここまで漂ってくる。


今日のお昼は...?。笑


!?。汗


こ..この匂いは...。


とても嫌な予感がする。


...ガシャァァァァァァァーーーン...


...キャアァァァーーーーー...


...うぉぉ...


空気が凍りつく。


...ガシャァァァァーーーン...


...ドシャァァァァーーー---ン...


た、タイガーが暴れてる...。汗


まずい!。汗


僕はいつの間にか走っている。


勝手に体が動き出している。


グラウンドを横切り、芝の生える移動式ドームに向かって。


タイガー!。どうした?。汗


...はっ..はっ..はっ..はっ..。


全力疾走...。


もうヘトヘトなのに。


ニシノさんが追い抜いていく。


「どうしてこんなことするのぉ!。」


くみさんが叫んでいる。


くみ子さんが怒るのは珍しい。


...はあぁっ...はあぁっ...はあぁっ...はあぁっ...苦しい...。


...ガシャァァァァーーーン...


「やめなさい!。やめなさいよ!。」


タイガーは聞く耳を持たない。


え!?....。


鍋やパン、食器の乗った長テーブルを次々と倒していく。


早く行かなければ...。


...はあぁっ...はあぁっ...はあぁっ...はあぁっ...苦しい...。


...ドシャァァァァーーー---ン...


「みんなお腹空いてるのに!。どうするの!。」


何をやってるんだ...。汗


一体何があった?。タイガー。


...ガシャァァァァーーーン...


ニシノさんがタイガーを止めの入る。


タイガーは体は小さいが力はヒグマよりも強い。


大きなニシノさんが振り回されている。


...ドシャァァァァーーー---ン...


「キャアァァァーーーーー!。」


「こら!。や..やめんか!。...何をやっとる!...怒..。」


子供達は呆然と見ている。


全員で32人。


「せっかく作ったのにぃ...泣。」


...はあぁっ...はあぁっ...はあぁっ...はあぁっ...苦しい...。


くみ子さんが可哀想じゃないか...タイガー。


一体どうしたんだ。そんなに怒り狂って。汗


...ガシャァァァァーーーン...


「やめえ!コラァ!。」


ニシノさんがタイガー顔面を張り飛ばす。


..パンっ!...。


全力に近いビンタ!。汗


ニシノさんは多分ヘビー級のレスラーくらいのパワーがあるだろう。


巨漢のニシノさんのビンタにタイガーは少しよろけた。


...はあぁっ...はあぁっ...はあぁっ...。


タイガーは、身体は小さいが体重は重い。


105kgだ。しかも体重比筋力がゴリラの10倍。人間の155倍。


ニシノさんも命懸け。


強化スーツを着ているが、タイガーが反撃したらニシノさんは即死。


僕なら少し躊躇するかもしれない。汗


...はあぁっ...はあぁっ...はあぁっ...。


僕は両膝に手をついて中腰で全身で息をしてる。


情けない。


こういう時のために鍛えておかなければいけないのに...。


..パンっ!...。


..パンっ!...。


「何とか言わんかい!。こらっ!。怒」


往復ビンタ!。


..パンっ!...。


「こらぁっ!。怒。なんでこんなことするんや!。」


...


「何で黙っとるんや!。おぉ?。」


..パンっ!...。


...はあぁっ...はあぁっ...ニシノさん...やり過ぎ....。


そんなに叩いたらダメ!。


そもそも暴力はダメ!。怒


「ニシノさん!...はぁっ..そんなに叩いたら...はあぁっ。」


「タイガー!。黙っとらんと何とか言わんかい!。」


..パンっ!...。


ニシノさんは怒ったら聞く耳を持たない...。


「何とか言わんかい!。怒」


「...はぁっ..タイガーは犬や猫じゃないいですよ!...はあぁっ...何でそんなに叩くんですか!怒...そもそも..暴力...。」


!?。汗


はっ!。汗


し..し...しまった。汗


不用意なことを...言ってしまった!。汗


タイガーの眼光が鋭くなる!。汗


やっちまった。


次叩いたらタイガーは!汗。


「何やその目ぇはぁ!ごらぁぁっ!。怒」


ニシノが振りかぶった。


やばい!汗。このオヤジっ!。マジか!?。死にたいのか!。


行くっきゃない!。


「止めてくださあぁぁーーーーーいっっ!。」


...バチィィ------ーーーーー----ン...


顔に衝撃....。


血の匂い..鼻の奥に....。


本当に火花って目から出るんだぁぁ.....。


目の前が真っ暗に....。


タ..イ...ガ..ー...ニ..シ...ノ...サ...ン...


...ドタッ...


...


....


...


....


...


「えぇ!。そんなはずないでしょう!。えぇ!?。」


...女の人の声..かなりピンチな感じ....


...くみ子さんの声?...


...


くみ子さん!?汗。


...ガバッ...


濡れたタオルがベンチに落ちる。


青いプラスチックの長いベンチ。


寝てた?。


どれくらい寝てたんだろう。


移動式ドーム スバの中。


綺麗に湾曲した白い壁。


食べ物の匂いが充満してる。


顔が痛い...右の頬っぺたがジンジンヒリヒリする。


熱を持って腫れてる...汗。


「おぅ...起きたか?キョイ。痛かったろ?。笑」


ハセガワさんが隣に座ってる。


「この濡れタオルはハセガワさん?。」


僕は何でここに?。


記憶がない。


KOされたボクサーみたいに。


「いや、それマツダさん。マツダさんめっちゃ心配してたぞ?。所長の渾身のビンタが、お前の顔面にクリーンヒットしたって。」


「何か記憶飛んでるみたいです...。」


「だよな。マツダさんがここまで抱えてきて寝かせてくれた。あとで礼言っといた方が良いよ?。あのオジ優しいよな。何かウケるわ。」


「何がウケるんですか...?。怒」


テントの外でバールとボーザがニシノさんとくみ子さんに怒られてる?。


血!?。僕の?。あれっ!?。これ歯?。


「あ...それ、またタイガーがやったんだよ...。もうあいつ救いようがねえな。」


「はっ!汗。タイガーが!?。タイガーどこ行きました!?。」


「不貞腐れてどっか行ったよ。」


「これ歯ですよね?。汗。誰かの...。タイガーまた何やらかしたんです?。汗」


「それバジャンのだよ。タイガーがブチギレてバジャンをボコボコにしたよ。バジャンは顎にひび入ってたってよ。あの頑丈なバジャンがさ。」


バジャンはトドと人間のハイブリッド。


「何でまた...。」


「バジャンはただ昼飯食ってただけなのにさ。」


「...どっちが..言うたんや!...お前か..バール!..怒...」


「...いい...えー...」


「...そんなら...お前か?..ボーザ!...怒」


「...い...いえ?...」


「何やお前ら!。怒」


ニシノさんがヒートアップしてる。


よいしょ...フラフラする。


おっと...よろけてしまった。


「キョイ。気をつけろよ?。脳震盪(のうしんとう)起こしてたんだから。」


「はい。ありがとうございます。」


移動式ドーム スバの大きい入口を歩いて出る。


少し日が沈みかかかってる。


青空は少しオレンジ色を帯びている。


施設の白い壁や窓がオレンジ色の光を反射する。


今は凪状態で風も少ない。


気温が大分下がってきてる。


「どっちかしかおらんやろがい!。怒」


バールも、ボーザも、黙っている。


この二人もなかなかの暴れ者。


バールが親分で、ボーザが子分だ。


バールはヒグマと、ボーザはツキノワ熊と人間のハイブリッドだ。


ジェイが近寄って来る。


心配しているのだろう。


ジェイは子供達のリーダーだ。


身長3メートル。


全身茶色の長い毛。


コーカサスシェパードと人のハイブリッド。


穏やかで誠実でとても面倒見が良い。


ジェイが僕に会釈をする。


「ボーザ。お前が言ってたよね?。一番最初に。ハーフタイムの時に。クーの身体は検体として、他の施設に譲渡されたって。」


「言ってねぇよ。」


「いや。ボーザ。嘘つくなよ、お前が言ってたろ。クーの葬式なんかやるわけねえって。」


「いやぁ。言ってねえなぁ。」


「嘘ついてんじゃねえぞ!。この野郎!。」


ジェイがボーザに掴み掛かる。


「やめろ!。やめんか!。」


ニシノさんと僕で止めに入る。


ジェイが本気になったら僕の腕なんか簡単に引きちぎられてしまう。


「バール、てめえ、今日の昼飯の魚、クーの肉だって言っただろ。タイガーに。クーの体はデカいから全員分あるって。早い者勝ちで大トロ食えるって。」


「さぁな。w。興味ねえ。w」


「んだとこの野郎!。怒」


...グオオオオォォォォォォォxーーーーー...


ひっ...汗。


ジェイが吠える。


怖いぃぃ。泣


「お前ら。それホンマけ?。」


ニシノさんは呆然としてる。


バールと、ボーザならやりかねない。


普段からタイガーのことを嫌ってる。


「おい。お前ら!。おい。バール!。ボーザ!。これはホンマか!?。怒」


バールと、ボーザは怯んでる。


「お前らが、クーをそう扱うなら、ワシもお前らをそう扱って良いと言うことよな?。」


ニシノさんが、低く唸るように言う。


暴れてどうしようも無い個体を、ショックカノンで、何体か殺処分したことがあったそうだ。


ニシノさんがやったのかどうかは知らないけど...。


バールと、ボーザの落ち着きが無くなった。


お互い顔をチラチラ見ている。


「分かった。もう戻れ。」


「い..いや。タイガーあいつ偉そうでさ、魚を金輪際、食うなとか、命令してきやがるんだよ。施設で、魚出すなと言いやがったらしくてさ。なぁおばさん。」


「おばさんじゃなくてくみ子さんな?、バール。」


「お前は黙ってろ!コラ!。キョイ!このもやし野郎が!手足引きちぎったろうか?。」


バールが僕を睨みつける。


「んだとこら!バールてめ、誰に口聞いてんだ!。」


ジェイが声を荒げる。


「止ーーめーーろ!汗。」


ハセガワさんが割って入る。


もう研究所に戻ったのかと思ってた。


普通ならただの若者の喧嘩だが、人間とは力の差がありすぎる。


「もういい。帰れ。」


「俺らの中には魚が主食の奴もいるしさ。何でクーが死んだからって、魚食べちゃいけねえの?。タイガーに何でそんな権限があんの?。」


ボーザがやけに饒舌になる。処分されると思ってるのかもしれない。


「今日もよう。ちょっと揶揄ったら、あのガキ全員に昼飯食うなって命令しやがった。バジャンは関係ねえつってバクバク食ってただけで半殺しよ。」


バールもペラペラと話し出す。


人権に保護されていない彼らの可哀想なところではある。


「そうだよ。半殺しはやべえだろ。あのガキ!。キレたら誰も止めらんねえ。それこそ処分対象だろ!。ニシノさんよう?。」


「てめっ!怒。もう一度...」


ジェイがもう限界だ。これ以上は抑えきれない。


「帰れ!...いいから帰れーー!。怒」


...


..


....


「ったくよぉ....。どうかしてるぜ..。チッ...。」


「アホらし...。頭悪いんじゃねえの?。」


バールもボーザも不満を言いながら居住区に帰って言った。


「くみ子さん。タイガーは魚料理出すなって言ってたんですか?。」


「ええ。言いましたよ?。魚が可哀想なんて言ってたら、みんな飢え死にしてしまいますよ。そんなに材料費多く頂いてる訳ではないし。そんなこと言ったら、動物だって可哀想でしょ?。食べさせるものなくなってしまいますよ。私も戻らせてもらいますね。泣きたいのはこっちの方よ!。せっかくみんなのために手間暇かけて作ったのに。」


「くみ子...さん。申し訳なかった。許してくれ。」


「謝る時だけは、さんづけで呼んでくださるんですね。怒」


「ぁあ...。」


ニシノさんは腰を抑えて顔を顰めた。


「胃と肝臓が痛いわ...。」


...ピシッ....ピシッ...ピシッ...


大気がスパークする。


「あかん。磁気嵐が来るかもしらん。ワシらも早よ戻らな...ガハハ。w」


ガハハ...って。汗


スコールが来るかもしれない。


薄いライムグリーンとオレンジのコンクリートを速足で歩いて施設に戻る。


ニシノさんは歩くのが早い。


「所長。あの...タイガーのことですが。」


ハセガワさんが、またタイガーの話...この人もマジでしつこい。


「そろそろ、部分シナプス化や、コーパーソンズ化を考えなくてはなりません...。」


え!?。


シナプス化って...。汗


肉体を殺し、脳や神経を大型人工知能の回路(部品)とすることだよね。


コパーソンズは、下層市民や奴隷で優秀な者を、大型人工知能の1回路(部品)として使用すること。


生きたまま埋め込む場合と、脳だけ摘出して埋め込む場合がある。


あるいは、特定の肉体の代替知能として使用すること。


「そうかもしれんな。」


あれ!?。


笑ってない....。


しかも否定しないのか?。


「タイガーは随分と成長したと思うんですけどね。」


「ここは、中央アトラと、ロームから多額の資金を受けています。所長。」


あ..僕を無視した...。汗


「そうじゃな。」


「ある程度の成果は還元しないといけないのでは無いでしょうか?。」


しつこいな。この人。


ニシノさんも、うざがってるのに。


「確かに。そうかもしれん。」


「ハセガワさん。今日はその話やめませんか?。皆んな疲れてる訳ですし。」


「中央アトラと、ロームですよ?。相手は元老院と、国際金融資本ですよ?。裏切るならそれなりの代償を払わせられますよ?。」


だから何だよ!。どんな代償だよ!。


「....!。」


ニシノさんは立ち止まって、ハセガワさんを見て、また歩き出した。


少し顔が引きつっているように見えた。


こんな日にそんな話、振らなくて良いのに。


「所長!。」


チッ...怒。


「シナプス化とか、コーパーソンズ化とか...。タイガーは物じゃないですから!。」


「お前は黙ってろよ!。お前は自分のやるべきことをきっちりとこなせ。余計な口を出す前に。」


何が言いたい?。この人。怒


「僕が何かできて無いことありましたか?。タイガーは、僕たちと同じく高い知能を持ち、豊かな感情を持つ人間なんですよ?。」


「だから?。」


だから?。怒


「感情豊かな人間であるタイガーを道具や物のようにしか思って無いなら、サイコパスですね。ハセガワさんサイコパスですよ!。」


「じゃあ、そんなにタイガーが大切なら、何でクーの葬式のこと教えてやらなかった?。タイガーが一番気にしてたのはそれだろ。それが今日の全ての原因だろ!。」


「それは、全員で、出来るだけ多くの参加者が揃うまで日程が決められなかったんです。でももう決まりましたんで。」


「だったらそう言えば良いだろ。情報の先出はできるだろ。葬式をやると言って一か月経つのに、音沙汰がないからあいつは不信感を抱いていた。」


「そうですよね。そこまで分かってるなら。タイガーばかりを責められませんよね。今タイガーをコパーソン化するなんて頭おかし過ぎますよ?。」


「お前、反省は無いのか?。笑。呆れる。原因が何かとか関係ない。何か起きた時に制御できなかったことが問題なんだろ?。ザネーサの事例、お前知らないのか。何千人の人が死んだのか。何億人の人が脅威に晒され続けているのか?。」


「ザネーサは関係ないでしょ。タイガーと何の関係があるんですか?。タイガーは制御できましたよね?。今回は。ザネーサが社会に与えてる影響なんて誰がわかるんすか?。そんなド左翼の話興味ないですよ!。」


「人間が人間て認めたもの以外人間じゃないんだよ。例えIQが30だとしても人間なら人間として扱わなければいけない。保護して世話をしなくてはいけない。だが、それ以外のものは違う。我々はこの計画で別に新たな人類を生み出したい訳じゃない。軍事や、別の用途利用するためのプロジェクトだ。人間同士でさえ手に余るのに、そんなものの世話をなぜ焼かなければいけない?。人間にはない強大な力を持つ個体を生み出しているんだ。利用するか、危険性があるなら排除するのが筋だよ。賢い、可哀想って言う個人の気まぐれで、人類を危機に晒したいのか?お前は。」


「生み出してしまったんだから責任があるでしょう。例え手に負えなかったとしても。都度都度考えて正解を出していけば良いんです。」


「そんな甘いこと考えてたら、生み出した種に人間が滅ぼされるぞ。お前責任取れるのか?。じゃ動物は?。牛や馬は?犬は?。魚は?。想定していたより賢いことが分かってきたけど。お前の言う都度考えて正解は出さないの?。」


「それ屁理屈ですよ。動物だってちゃんと保護していけば良いじゃないですか。適切な水準を作って。」


「何が屁理屈なんだよ。この星の人類は、巨大ガエルや、高知能キツネに滅ぼされかけたじゃないか。今だって、ザバナや、ギガサニーに滅ぼされかけてる。何?適切な水準を作るっていつやるの?。」


「そ、それは...。でも、あんた、元老院や国際金融資本に楯突いて報復されるのが怖いんだろ。」


「ふざけるな!。誰がそんなこと言った。そもそも何のためのプロジェクトだと思ってんの?。なら何で参加したの?。何で契約したの。納得したからここにきたんでしょ?。お前、何泣いてんの?。自分から突っかかってきといて。」


「ももうええやろ。それくらいで。二人ともようやってくれとる。感謝しとる。」


「所長。北アトラも、ロームも、必ず報復しにきますよ。契約を反故にしたら。そんな甘い奴らじゃない。金に汚い。必ず兵曹を送り込んで来ますよ。」


「分かっとる...。ハセガワよ。」


「はい。」


「愛情は持ってるだけでは意味はない。愛がないのと同じ。あっても伝えないと化学反応は起きない。愛を与えて初めて人は人らしくなる。与えないことでリスクを無限に生み出すなら、それもあまり賢い選択ではないかもしれない。」


「お言葉ですが、愛で戦争も、犯罪も、リスクも、無くりません。罰。つまり抑止力こそが効果のあるツールです。」


「ワシは両方だと思うな。愛で育て、罰則で抑止するから治安は守られる。新たに生み出す生物たちも、愛と罰つまり抑止力でリスクを最小化するのが良い。」


「もしタイガーが暴走したら?。」


「ここの施設で、殺処分をするのはワシの仕事や。」


...ンンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッツ...


自動ドアが開く。


正面玄関の。


日が暮れてきた。


施設内の明かりが眩しい。


...ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ...


「タイガーがいないいんだけど!。どこ探しても。」


ジェイが慌てて走ってくる。


「どこ行った?。汗」


「どこ探しても見当たらなくて。また勝手に砂漠行っちゃったのかな?。汗」


「何!?汗。」


やばいかもしれない。汗


ニシノさん肝臓のあたりを抑えて顔を顰める。


「タイガーなら、通信塔に登ってますよ。4号棟に。」


ハセガワさんが言う。


なぜ知ってるんだろう?。


南東にあるあの塔は200m以上の高さ。


「はぁぁぁーーーーー。ほな行ってくるわい。」


「僕も行きます。」

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