ララ9
トラフィンは、更に上の形態に移行した。
セメティームの大地は、激しく揺れ、爆風が吹き荒れる。
ガラスは粉々に割れ、電柱や、信号類は倒れ、崩れる民家や、塀もある。
巨大化したモルフィンは、100mを越える大きさになった。
セメティームハイドラの高層ビルよりも高い。
まさに鋼鉄の巨人だ。
...ブバッ...ボバッ...バッチィ...バシバシバシッ...
背中には雷神のように、多角形の放電翼が真っ黄色の電撃を発しながら回転している。
遥か上空には、数キロにも及ぶ、黄色い光を放つナジマの波紋が、突如として現れた。
夜の空を、眩く照らしている。
ララも役人も一瞬で吹き飛ばされ、木造の休憩所に激突した。
街中のあらゆる場所から、どよめきや悲鳴が嵐のように渦巻いている。
トラフィンは、完全に我を忘れている。
「あ、痛ぇ、っっつ。」
役人は、爆風に引き摺られて土だらけになっている。
やっとのことで立ち上がった。
そして、樹木に激突し、ララが血を吐いているのに気づいた。
「お嬢さん!。お嬢さんしっかり!。あ、ああ!。た、大変だ。」
ララは、耳を押さえ立ち上がろうとした。ララの瞳は赤く輝いている。
「だい、じょう...ぶ。」
ララは苦しそうに微笑んだ。
...パッシィーーン...
「ヒモン石!。ヒモン石がっ!...。」
役人の指輪のヒモン石が弾け飛ぶ。
平和の司る3つの守護石の一つヒモン石が。
「い、い...か、な...きゃ...。」
「ダメだ!。お嬢さん!。この傷じゃなおさら!。殺されに行くようなものだ!。」
役人は、ララの前に立ち塞がり肩を掴んだ。
「わた、し...ば、しょ、わか...る。手遅れに...サビオ...大切な弟...。」
役人は、気付いた。
ララの力が見かけに比べ強いことを。
「どうして?。場所なんか分かるものか!。落ち着いて!。落ち着いて!。お嬢さん!。ああああぁ...。凄い力だ...。」
役人は、横に弾き飛ばされ地面を滑った。
ララもまた、我を忘れている。
ララは、素早く壁を登り始めた。
まるで、床に手をついて走るように。
「軍人の私が歯がたたない...。あの美しいお嬢さんはいったい...。」
役人は呟いた。
...ボォゴゴーーーーーーーーーーーーーグオオオーーーーーーーー...
...グオオオオーーーーーーーーゴゴーーーーーーー...
低い巨大な咆哮が響いて来る。
巨大化したトラフィンの声は、もはや人の声には聞こえない。
...ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
...ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
...ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
セメティームハイドラの街に警報音が鳴り響く。
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「いったいどうしたのじゃろうか...。セメティームで警報音が鳴り続けておる。」
スサは言った。
「そうですね。何も無ければ良いですけど...。」
「トラフィン達は大丈夫じゃろうか...。何やら胸騒ぎがする。」
「な、何を言っているんですか...。縁起でも無い。大丈夫ですよ!。トラがついているんです。アンティカですよ?。トラは。笑」
「そうじゃな。それもそうじゃ。笑。ワシとしたことが、妙なことを言い出してしもうたわ。笑」
...ゴーーーーーーーーーーーーーー...
...ゴゴゴーーーーーーーーーーーーーー...
ハルが、自分の住処であるセレッタジーナンとの間の山から大水郭前の大鍛錬場に、猛烈な速度で降りて来る。
ハルは着地すると、セメタムジーナンの方角に吠えた。
...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーー...
...ゴゴゴーーーーーーーーーーーーーー...
...ボボォォォーーーーーーゴゴーゴゴーーーゴゴゴゴーーーーーーーーーーーー...
...ボボボボババボォゴゴーーーゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
大地を揺るがすような音が。
汽笛のように大気を叩き崩す大きな音がとどろいている。
まるで、その音は怪獣の鳴き声のようだ。
子供をさらわれて泣き叫ぶ母親のような、物悲しくそして激しい怒りのこもった咆哮。
「か、か、カルラよ...。と、と、トラフィンの声じゃ...。あぁ...信じられん...。残念じゃ...。やはり...。何か...何かあったのじゃ。」
今にも泣きそうな顔だ。
征服天大剛ともあろうものが...。
「えっ?。...何かって。何かっていったい!?。」
カルラは、立っていられず、地面に倒れこんだ。
...ボォオオオオオオオオォォォォゴゴーゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
トラフィンの咆哮は続く。
...ゴゴーーーーーーーーーーーーーーー...
ハルが主人の声に呼応して咆哮を上げている。
...ボォオオォォゴゴーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
鼓膜が裂けるような大音響...。
...ゴゴーーーーーーーーーーーーーゴゴーーーーーーー...
トラフィンがハルを呼んでいる。
...ゴゴーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーー...
ハルは、トラフィンに呼応して咆哮を上げる。
「ハル!。ハル!。トラフィンは何と言うておるのじゃ。!?。」
...ボォオオオオオオゴゴゴゴゴゴーーーーーーーゴゴーーーーーーーーー...
ガラスが弾け飛ぶ。
ハルの主人がハルを招集している。
ハルにはもはや主人の怒り狂った雄叫びしか、耳に入らない。
イプシロンが回転し始めた。
夜の空に激しく燃え盛る炎のマントラ。
眩い黄色い光を放つ夜の太陽。
上空に数十キロ広がる。
ハルは、崖を駆け下り主人の元へ走る。
「い、いかん...。このままでは、セメティームどころか、ロコウまでもが消滅してしまう!。」
スサは正体門の跡を乗り越えようとした。
「あなた!。待って私も行きます!。」
カルラは言った。
スサはカルラを抱き抱え、正体門の跡を乗り越えた。
そして、ジーナンに沿って走る道を、カルラを抱えながら、森を見渡せる場所まで歩いて行った。
人々のおののく叫び声を風が運んで来る。
スサは、山塔を見降ろした。
遠くで悠然と、森を渡る巨人が見える。まるで、森が草に見える。
巨大な兵曹が。
ジーナンの森の暗闇に黄金の光を放っている。
この穏やかな場所に。
「トラよ...。一体どうしたのじゃ...。おまえがそんなに怒り狂うなんて...。」
スサは、震える手で口を押さえた。
森の深くにトラフィンが入って行く。
こんなに遠いのに、トラフィンがはっきり見える。
トラフィンのその姿は、最後の形態に限りなく近い。
突然いくつもの人に似た真っ黒な何かが立ち上がる。
森林にそぐわない真っ黒な色だ。
暗闇よりも暗い黒...。
「クロカゲじゃ...な、何と...本当にクロカゲが...。」
6本足の真っ黒な怪物が何頭も。
大きさは60m近くある。
スサは震えながら言う。
カルラは、気を失った。
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クロカゲは、ケラムなどの生物でも、各国の生物兵器でもない。
世界で最も古いお伽話アッハームによると...。
クロカゲは、戦闘神ナジマ、最恐神アジャイロ
(アマルの神話では戦闘神と最恐神は逆)と同じく、はるか昔々...。
太古の時代、創造主アマトか、宇宙神ソラトが作り出したものと言い伝えられている。
だが、実際にそれらを見た者はいない。
戦闘神ナジマはアマトが、最恐神アジャイロはソラトが。
それぞれの末裔を滅ぼすために生み出した生命兵器だと。
2神の力が拮抗しているため、今は膠着状態なのだと。
災厄の塊である破壊者、クロカゲは、ソラトが作り出した。
対抗して、アマトは、クロカゲを統べるイモーランという存在を生み出したという。
クロカゲは、イモーランの出現する前に現れ災厄を撒き散らすが、イモーランの再生とともに、イモーランに統率され善益の存在に変わる。
神話の時代、クロカゲは大変強力な存在で、クロカゲに敵う者はおらず、誰もが死を覚悟するしかなかった。
イモーランは普段は黒いアメーバのような生き物で、のっぺらぼうの真っ黒な子供のような形をしている。
イモーランは、古の皇帝を護る三聖獣(イモーラン、ロプトル、ウラヌス)の一つと言われ、神話では、メディア帝国の操る無敵の怪物シモーヌに匹敵する力を持つと言われている。
ちなみに、ロプトルは巨大なハチ、ウラヌスは巨大な海龍だ。
少し前までは、クロカゲは単なる神話上の存在に過ぎなかった。
この所、しばしばクロカゲが現れている。
古の皇帝の復活が本当に近いのかもしれない。
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...ボォーーーーーーゴゴーゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーー...
...ゴゴゴゴーーーーーーーゴゴゴゴーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーー...
トラフィンとハルのやり取りは、ずっと続いている。
クロカゲは体長60m。
闇より黒い6本足ののっぺらぼうの化け物...。
クロカゲの顔が突然横に裂け、牙を剥き出しにトラフィンに飛びかかった。
イプシロンが真っ黄色に眩く光く。
トラフィンが口から閃光を放つ。
夜空を眩く照らす。
...ココーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
....ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
耳をつんざくような爆音が轟く。
クロカゲは粉々に飛び散った。
クロカゲの肉片はその巨体にもかかわらず、宙に舞い地面に叩きつけられていく。
トラフィンやイプシロンの放つ光は、数十キロにわたり森を照らし始めた。
最も近いタンジアバイキール基地から、スクランブルをした、ハイドラ軍の最新型攻撃機メッサーラが3機飛来している。
攻撃艇は、一機で数万規模の敵軍歩兵を制圧する。
別のクロカゲがトラフィンの背後から飛びかかろうとする。
...バスッ...バスッ...バスッバスッ...
メッサーラの内一機がミサイルを発射する。
ミサイルは、クロカゲのゼリー状の身体に封じ込められた。
そして、クロカゲの体内で大爆発を起こしている。
爆発は半透明の黒影の身体の中で吸収されて行く。
...。
...。
....バスゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーン...
クロカゲの身体から一筋の光線が、メッサーラに向かって発せられた。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ドンドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
もう一機を巻き込み大爆発を起こした。
まるで季節はずれの花火だ。
....バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ...
トラフィンの放電翼が夜空に激しくスパークする。
....ゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
トラフィンが口から光の柱をクロカゲに叩きつける。
クロカゲの首が吹き飛ばされる。
クロカゲの一体が空中に残っているメッサーラに向け紫色の液体を放つ。
メッサーラは垂直に落下した。
地面で沸騰して溶け始めた。
脱出した兵士の断末魔が響く。
クロカゲがその巨体を捩り、兵士を咥えた。
クロカゲが他の兵士を見つけ前脚で捕まえた。
トラフィンは背後から、そのクロカゲを捕まえ腕を引きちぎるを
クロカゲの紫色の体液が音と煙を立てている。
もう兵士達は辛うじて逃げる。
トラフィンは、再び閃光を放ち、一瞬で残りのクロカゲを薙ぎ払う。
閃光は威力を増して行く。
大地が激しく揺れる。
一瞬で木々は蒸発する。
途轍もなく大きな鈍い音が大地を揺るがす。
セレッタジーナンの一部が崩落し、大地にささった。
クロカゲよりも寧ろトラフィンの吐く炎が森を焼き尽くして行く...。
「ぉぉぉ...。トラフィンよ...。怒りで己を見失っておる...。何とか、何とかせねば。この山が...。人々が。老いぼれたワシに、あの不動明王を止めることなど出来ぬが...。この命に換えても。」
スサは、悲壮な表情だ。
カルラが気がついた。
森から数十体のクロカゲが立ち上がる。
口だけの顔に牙を剥きトラフィンに向かって行く。
真っ白な剣山のような白い牙を。
トラフィンは、クロカゲを次々に掴み、殴り、引きちぎり、嚙みつき、踏み潰す。
そして、怒りの炎で焼き尽くして行く。
人の作る武器が全く効果が無いクロカゲが、恐怖の存在ではあるはずのクロカゲが、不動明王の前では全く無力だ。
クロカゲはトラフィンから逃げ惑うようになった。
「クロカゲが、逃げ惑っている...。トラフィンに怯えている...。」
トラフィンは、容赦が無い。
クロカゲ捉え焼き尽くし蹂躙して行く。
大地にはメチャクチャに潰れ引き裂かれた、クロカゲの破片や、部位が、山と散乱している。
トラフィンは、最後の小さなクロカゲを見つけ踏みつけた。
クロカゲにも子供の個体がいるようだ。
何回も何回も踏みつける。
クロカゲは跡形も無く潰され、大地のシミになった。
...ボォーーーーーーゴゴーゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーー...
...ゴゴゴゴーーーーーーーゴゴゴゴーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーー...
...ボォーーーーーーゴゴーゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーー...
...ゴゴゴゴーーーーーーーゴゴゴゴーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーー...
トラフィンの泣き叫ぶような、咆哮は止まない。
怒りは益々高まっているようだ。
イプシロンが黄色い放電を繰り返す。
激しく閃光を放ちながらゆっくりと回転し始める。
放電翼も呼応し回転し始める。
夜空に燦然と黄色い炎を輝かせながら。
「い、いかん!。駄目じゃ!。何とかせねば...。何とか...。」
スサが崖を下り始めた。
カルラは立ち上がれない。
スサを止めようとしている。
「あなた!。あなた!。あなたーーーっ!。」
カルラは必死にスサを呼び止めた。
イプシロンは、一段と輝きを増して行く。




