ララ8
「セメタムまで、頼む」
トラフィンは、背中に食材を入れた大きな荷物背負い言った。
ララも大きな荷物を背負っている。
子供たちも自分の身体に見合う大きさの荷物を背負っている。
「ちょっと待ってください。あなたみたいな大きな人はフライヤーになるから!。それに、そんな大きな荷物...。乗れません!。あなたも、その女の人も、その荷物、捨てて来てもらわないと!。」
「ちょっと、捨てるってどういうこと!?。みんな...うむもむ。」
ララがネフィの口をそっとふさいだ。
「いや、ワシらではない。この子達じゃ。」
「はぁ。じゃあ、ここに記載してください。ちょっとフライヤーの手配を...。」
「ん?。何をじゃ?。」
「え?。ここに名前を書いて。あと、フライヤーを...。」
「はっはっは。乗って行くのはこの子達だけじゃ。」
「子供だけでは載せられない規則になってますので。」
「我らは、キドー一族の者じゃ。名前を書いた方が良いか?。書いたことはないが...。」
「はい。規則ですから。あと、15分でコヌタの受付は終わりますから急いでください。」
「うむ。今日は偉く急じゃな。これで良いか?。」
「あと、フライヤーを用意致しますので...。」
「ん?。乗るのはこの子達だけじゃぞ?。」
「ですから、子供だけでは乗れない規則です。」
「それでは、いつものように誰か乗り合い員の方に乗って貰おう。はっはっは。」
「今日は、職員が不足しているので、あいにく同乗はできません。」
「何人か乗り合い員の方は、おられるではないか。」
「いえ、あの者達は違います。勤務時間外です。」
「あれ?。どうして?。子供たちでも乗れるし、私達空いてるわよ?。」
別の女の乗り合い員が言った。
「規則ですから...。」
「じゃ、私が乗るわ。えーっと...。」
「そんな必要はありません。」
「ん?。そちらの女の方にお願いしようと思うが。この子達も用事があるで、我々も急いでおるのじゃ。」
「それでは、一台で良いですね?。」
「いや、少し荷物もあるので、二台で頼む。」
「それは規則にも無いですし、詰めれば三人乗れますので...。」
「ちょっとムバさん!。お客様に失礼よ!。ごめんなさい。キドーの方ですね。この人、先週サブルから来たばかりで...。ムバさん?。それに、そんなに、厳しく考えなくても良いのよ?。ここは、サブルのように都会ではないんだから。」
「そうじゃったか...。慣れるまでは、大変じゃな。じゃが、大切な弟達じや、呉々もよろしく頼むぞ。」
「はい、ごめんなさいね。ねぇー!。サミー?。手伝ってー!。」
「いえ、一台は私が乗ります!。きっちりとやらないと!。」
「その様子じゃ、心配だわ...。」
「受付た者が、最後までやるのが筋ですので!。」
「筋とかじゃなくて、安全に、確実に、快適に、お客様にご利用頂くことが我々の使命でしょ?!。」
「ええ!。そんなこと当たり前ですっ!。」
「来たよ。あ、了解!。おーい。四人乗り二台回して。」
「サミさん!。1つは3人乗りでお願いしますっ!。」
「荷物あるから乗れないわよ。笑。それに、3人乗りが戻って来るの待ってたら、日が暮れちゃうわよ。お客さん急いでるのに。」
「はいーよー。じゃ、先に荷物乗せるよ。一緒に乗るのはお兄ちゃんかい。」
「は、はい!。お願いします。」
「ですからっ!。」
トラフィンは、サビオに目配せをした。
サビオは頷いた。
「はいはいー。乗った、乗った!。じゃ、最初のは、俺が乗り合うぜ!。」
サミというどじょうひげの男が乗った。
ロコウから、戻ってくるコヌタは、乗り合い員が鞭打たなくても、自然と発着場にくる。
そして、細い金属のレールに、シンワートが自分達同志を結びつけた革の縄が繋がっている金属の輪っかを、器用に引っ掛け滑り込んで来る。
あたかも、ロープウェイのように、次々と戻ってきては、人を乗せ飛び立っていく。
シンワートは、獣と松の木を合わせたような強い似た匂いがする。
乗り合い員は箱ぶえを構えて吹く。
...ハリホー...フーフー...
変わった音色だが、これは、シンワートが衝突を避けるためのシンワートのための合図だ。
「早く乗ってください!。きちんと並んでっ!。」
「おぉ...優しくしてくれぬか、まだ幼子じゃから。」
ネフィと、メルテは慌ててコヌタに乗った。
「ムバさん。私が乗ります。」
「そんなのとんでもない!。」
「いいえ。その調子じゃ...。」
「いいえ!。受けた者が最後までさせて頂くのが規則ですから!。」
ムバは、乗り合い員を押しのけてしまった。
「大丈夫じゃろうか?。」
「ごめんなさい。密に連絡取ってしっかりやらせるようにしますから。ホントにごめんなさい。」
レールが反り上がると同時にシンワートの羽の音が激しくなって行く。
...バタバタバタバタ...
...ブウウウーーーーーーーーーーーーーーン...
シンワートの揚力は凄まじく、一気に上空に舞い上がった。
ムバが箱ぶえを構え吹く。
...ピッポコ......ペィーーーーーーーーーー....
「何という、調子外れな...汗。」
「きゃっはっはっはっ。今のなにー?。何なのー?。おならー?。わざと?。ねぇねぇ、おばさん。きゃっはっはっは。もう一回やって!。ーもう一回!。」
メルテの笑声が響く。
「ぷっっっ!。」
ララは必死で堪えようとしたが、どうしようもなく吹き出した。
「わっはっはっはっは!。あのチビっ子怪獣が好きそうな音じゃ。www」
トラフィンは、コヌタ乗り場が壊れるほど大笑いをした。
ララは腹を抱えて笑っている。
「あっはっはっは!。笑うては申し訳ないが、何とも...はっはっはっ。」
ララの肩も震え続けて止まらない。
子供たちの乗ったコヌタは空高く浮上し、早くもロコウの1号目に到達している。
「それでは、ワシらも行くとするか。ララ。」
ララは頷いた。
やっと2人の時間だ。
ララとトラフィンは手を繋ぎ、ロコウの麓に向かって歩き始めた。
年齢の割に背のすらっと伸びたララだが、トラフィンとは大きさに差がある。
トラフィンが形態を元に戻しているとはいえ。
アルマダイを放出する、シーアナンジンにを宿した宿主の肉体は、通常時でも、他の個体に比べ巨大化する。
ジーナンのある山塔の麓までは、反重力板の力で動く登山鉄道、シャトル、そして大トカゲに引かせるトリュックもあるが、2人は敢えて緩やかな外環道を歩くことにした。
ロコウの外環道は、風光明媚だ。
でも、距離が長く時間がかるため、観光客や業者以外あまり通らない。
...ググゥ〜〜...
トラフィンの腹が鳴った。
「おお、そうじゃ...。今日は何も腹に入れておらなかった...。ララは腹は減らぬか?。」
ララは頷き、背中の荷物を後ろ手で叩いた。
「おお、ワシも買ってきたのじゃ。」
2人は、座って食事の出来る場所を探した。
ロコウの外環道は、ケラムとの防護壁のように重厚に出来ている。広いばかりではなく、上に行くほどごついジニリウム鋼で補強されていく。
しかし、補強や高さが厳しさを増すほどに、景色は美しくなって行く。
トラフィン達は、外環道の外側にある場所を見つけた。
岩が丁度椅子のようになっている。
そこから見下ろす山々の緑や、タンジアの海は宝石のように美しい。
涼しい風がそよぐその場所に2人は座った。
トラフィンは、背中の大きな荷物を前に持ってきて置いた。
リューイに負けず劣らず大きな荷物だ。
トラフィンは怪力だ。
ララも背中に二つ背負っている荷物の一つを降ろした。
ララは、また首を傾げ耳を塞ぐような仕草をした。
ララは、大きなマーツと、小さなマーツを出した。ウワは小麦で作られたパンのようなものだ。
そして、出店で買った、ウワをジャワ杉の入れ物から出した。
ウワは香辛料の効いたスープだ。
ララは、アメスピの果実を出した。
トラフィンは、バイスメルンのハム、干したレッドアイの燻製、レッドアイの卵の塩漬けを出した。
2人は良く食べた。
トラフィンは、ララは語っている。
「...そうしたらデフィン兄様が、水牛をけしかけて......モル兄様は、それ以前に訓示書を隠してしまおうと、おっしゃられて...。全部の水牛ごと隠すのも凄いことじゃが、訓示書を隠すというのもまた豪快な...はっはっはっはっは!。」
ララも笑っている。
楽しそうだ。
「兎に角、首長殿は慌てられてな。デフィン。ワシの訓示書はどこじゃ?と...こちらでございますと...。」
ララは、お腹を抱えて笑った。
ララは、食事を食べられないほど笑っている。
「...首長殿がお隠しになっていた、いやらしい本をお渡しになられて...。」
ララは、トラフィンに水筒に入った飲み物を注いでいる。
トラフィンは手を差し出し、ララは綺麗な白い手を繋いだ。
「...それでも、メルテは、全く動じ無かった。...」
ララは、トラフィンの話しで、身をよじって笑っている。
笑のツボが合うのだ。2人は小一時間話しをしている。
とは、言ってもトラフィンが一人で話していただけだが。
ララは、立ち上がり、トラフィンの頬にキスをした。
今時、健全な交際だ...。
それほどお互いの存在が奇跡なのかもしれない。
ララがロコウの山頂の方を指差しそろそろという合図をした。
「それでは、そろそろ行こうかの?。」
二人は残り物を綺麗にしまい、ゆっくりとたちあがった。
また、2人は手を繋ぎゆっくりと歩き出した。
「このような安らかな幸せがずっと続けば良いな。」
ララは頷いた。
ジャイナ杉の巨木の木陰に外環道は差し掛かった。
「こんにちはー!。おや、随分と大きな荷物。勇ましい兄さんですなー。ごきげんよう。」
「あっら綺麗なお嬢さん!。お幸せに。それでは。」
観光客かもしれないその老夫婦はそう挨拶するとすれ違っていった。
「どうもどうも。ご健脚ですなぁ。はっはっは。」
トラフィンも陽気に挨拶をする。
10分歩き、2人はジャイナ杉の木陰から出た。
しばらくすると、今度は中年の夫婦が向かってきた。
「こんにちはー。大きなお荷物ですね。お兄さんも大きいが...。」
「大丈夫だと思いますけど、最近は物騒なので、もし山塔に向かわれるのでしたら、森には入らない方が良いですよ。」
「ほぅどうしてです?。」
「いえ、最近では、バングリズリーが腸を食われて焼け死んでいるのが見つかったそうです。あのバングリズリーが群れで。」
「ほほぅ...。」
「私たちはさっき、またクロカゲが出たのではないかと、話していたところです。」
「クロカゲが...。」
「あ、先を急ぎますので...。ユナタイに行くんです。間に合うかしら...。」
「大丈夫ですよ。夜中までやっております。」
「え?。本当?。あなた。良かったわね!。ありがとう。お兄さん。」
「いえいえ。笑」
「お嬢さんもね。」
「やだあなた。もぅ。」
そう言うとすれ違っていった。
2人は海や、畑、タンジアの町を見下ろしながら、なだらかな外環を登っていく。
そして、2合目辺りからは、登山鉄道と呼ばれる方のシャトルに乗った。
ヒドゥイーンの登山鉄道は大きく力強い。
タント族やイリーナ族、トラフィンのようなダンヌ族の体格の大きな種族がいるためだ。
そして、山塔は急過ぎる。
アフロダイモーターの技術がハクアからもたらされ、ハイドラの山々にも、鉄道が普及するようになった。
その結果、ハイドラの山々にはヒドゥイーン16種族すべてが住むことが出来るようになった。
始発である2合目の駅で、係の者がレバーを力一杯引くと、駅全体が揺れ銀色の巨大列車は浮き上がる。
そして、音もなくゆっくりと進み始める。
外環道よりも急な螺旋を描き比較的短距離を登る。
登山鉄道のシャトルは、スルスルと空を滑るように弧を描き上昇する。
シャトルは、2時間かけセメタム(23番目の)ジーナンのセメティームハイドラまで続く。
セメティームハイドラは、ハイドラ最大の山岳都市だ。
シャトルは、飛行機よりもゆっくりと進む。
車窓から見える雲の上の幻想的な景色は、エイジンの天国と称される。
アルマタイトを豊富に含む山塔達が、二つの太陽光を浴びて反射し、様々な色の光を放つ。
国交が断絶する10年前は、アマルや、アトラ、その他周辺諸国から年間数百万の観光客が、このエイジンの天国に訪れた。
窓の右手の山に少しずつ建物が見え始め、建物の数は増え、高層化し始める。
それに従い、シャトルは更に加速し始める。
やがて、シャトルと同じ位の太さの、水色の鉄の柵が見えて来た。
それを越えると、突然右の山塔の崖は開け、下には広大な平野が拓けていた。
柵を越えシャトルが緩やかに降下し始めた。
二つの太陽の明るく長閑な日差しの中に、霧の立ち込める山の中の平野。
遂に、新旧の建築物が調和して立ち並ぶ、美しい都市が現れる。
ハイドラ最大の山岳都市、セメティームハイドラ...。
道行く人々や、車が小さく見える。
数多くのフライヤーが規則正しく飛んでいる。
幾つかのシャトルは、他の路線のシャトルの発車を待ち、一時停車している。
人間の文明は偉大だ。
こんな山岳地に...。
5分待ち、シャトルはまた動き始める。
シャトルのドームが下り始め、街は拡大鏡で見るように大きく広がって行く。
駅のホームがだんだん大きくなり近づいて来る。
シャトルは、上と下のジーナンへの入口に止まった後、地面と水平に進む。
セメティームハイドラの中心の駅に向かっている。
トラフィンとララは、上のジーナンへ進む駅で降りた。
...ドゥーーーーーーン...
停車したシャトルは大きく揺れる。
ララはトラフィンにつかまった。
トラフィンの乗っている車輌は、体格の大きなヒドゥイーンばかりだ。
トラフィンは中でも群を抜いて大きい。
〔セメティームハイドラ。セクトル口。セメティームハイドラ。セクトル口...お降りになる方は...〕
...ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
車内アナウンスが流れ、ウイング形のドアが開いて行く。
ララは時折耳を抑えている。
「大丈夫か?。」
トラフィンは、ララの荷物を持とうとしたが、ララは、トラフィンの手をそっと押し返した。
2人はゆっくりとホームを降り、多くの人々とともにセクトルジーナンに通じる外環道の入り口に向かう。
「お、お待ちください!。あ、あ、あなた様はアンティカ様ですよね!?。」
突然、若い、髭を生やした男が息を切らして全力で走ってきた。
聡明そうな顔をしていて、かなりしっかりと鍛えられた体格をしている。
男は紺の衣装に、赤い帯をしている。
ロコウ山塔下大ジーナンの役人だ。
男は長い距離を走って来たらしく、その服は、汗でびしょ濡れだ。
危険生物が生息する、ロコウなどの山の管理をしている。
軍人であり、法律家でもあるエリート中のエリートだ。
「お助け下さい!。男の子が森に入りました...。セメタムとセクトルジーナン間にある森に...。」
ララは、びっくりして口を手に当てた。
「な、なんじゃと!?。よりによってこの時期にセメタムとセクトルの間の山に入るとは...。」
「何でも、妹と弟を探しに行ったとか...。とにかく、クロカゲの噂もある今、一刻の猶予もありません。」
ララは、目を見開きトラフィンを見た。
「な、何!?。そ、その者達の名前は!?。」
「名前は...分かりませぬ...ただ、幼子2人は無事です。」
「な、なぜ...。」
「ムバというコヌタの乗組員の制止を振り切って子供が勝手に行ったと...。」
「ムバ!?。まさか...。なぜ?。サビオに何が?!。直ぐに向かわねばならん!。ララよ、ここで待っていてくれ!。」
「アンティカ様!その子をご存知なのですか!?。」
「わた、し...。」
突然ララが、声を出した。ララが歌以外で声を出すのは初めてだ。
「な、何と。」
トラフィンが声を上げた。
「わ、私の名前。私は、私はララ。」
「ララよ!。話しが出来るのか?。」
トラフィンは、驚きを隠せない様子だ。
ララの額や、首すじから汗が流れ落ちる。
ララは必死だ。
「わ、私助け...たい。...わたし。...弟...。」
ララは絞り出すように声を出した。ララは苦しそうだ。
「な、な、なんですと!?。弟君ですと!?。」
役人の声は上ずった。
「お、お嬢さんには、無理です。お気持ちは本当に分かりますが...。」
「わ...わ...た...し、場、所、分か...る」
「ララよ。おまえまで危険な目に合わせる訳にはいかぬ!。すまぬ。ここで待っていてくれ!。」
トラフィンは叫けぶと森の方角へ走った。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
走るトラフィンは破裂音とともに巨大化し始めた。
...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
セメティームハイドラの大地が激しく揺れている。




