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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
41/364

ララ4

突然、別の方角から、男が大声をあげて走って来る。


妙にシナが入っている。


走り方の割に激走して来る。


「おーい!師匠ーーーっ!。師匠のオヤジーーーっ!。」


ララは、びっくりして目を見開いている。


カルラは、ララの方を向き笑いながら言った。


「あなたを助けてくれたお医者さん。」


スサは、迷惑そうな顔をして振り返った。


「なんじゃ、キヨタ。大声を出して!。ララが怖がっとるじゃろが!。」


3人を見て、男は一瞬気まずそうな顔をしたが、すぐに話し始めた。


「大変よー!。今度は牛の内臓が!。」


「内臓がどうしたのじゃ?。ワシはお前の師匠ではないぞ。」


「あら、ララちゃん?。元気になったわね?。良かった。笑」


ララは、キヨタをチラッと見て、カルラの後ろに隠れた。


「男のくせにくねくねしおって。空気を読まんか!。」


「また古臭いことを...。そんなことより、爺さん知らないのかい?。」


「なんだ、やっぱり爺さんか。何を知らないと言うのじゃ?。」


「こ、今度は、放牧していた牛が1000頭、はらわたを食われて...。」


「腑じゃと?。何を言っとるのじゃ?。」


「牛が1000頭近く腑を食われ黒焦げになって...って爺さん、何でそんなに落ち着いてるのよ?。大変なことなのよ!。」


「牛が?。何かの間違いじゃろ?。」


「もぉ!。疎いんだからこの爺さんは...。女将さん、この鈍感ジジイ何とかしてよ。」


「なんじゃと?。ジジイじゃと?。」


「ほほほ。笑。キヨタさんと家の主人、足して半分にしたら丁度良いかもですねぇ。ほほほほほ。笑」


「どういう意味ですか!?。」


「い、いぇ、汗。ほほほ。」


「最近は、浮島が沈んだり、地震が頻繁にあったり、一昨日はヒドゥィーンウルフが内臓を食べられてたのよ!。数百はいたそうな...。まさか、何も知らないとか...汗。」


「ヒドゥイーンンウルフじゃと?。またガセネタではあるまいな。」


「何がガセネタよ!。この鈍感ジジイ!。ガセだったことなんか一度も無かったじゃないの!。」


「誰が鈍感ジジイだ!。誰が!。年配者に敬意を払えと言っておるだろうが!。」


「だからさっき師匠って呼んであげたんじゃない!。」


「何じゃ、おまえのそのクネクネぶりは。これがタンジア 1の名医とは、信じられんわ。」


「何よ!。なら二度と夜中に飛び込んで来ないでよ?。情っさけない顔して...何よ!。このよぼよぼ征天大剛!。」


「な、何じゃと!?。よぼよぼ?。じゃと?。このオカマ医者!。クネクネ医者め!。」


「ほほほ...。笑。また始まった...笑。何で喧嘩するのにひっつきたがるのかしら...変な人達...ねぇララ?。」


「んん!。」


「うー...。」


スサとキヨタは睨み合った。


「ララはどうした!?。」


大きな太い声がする。


!?。


振り向くと、巨大な魚のような生き物が、正門から顔をのぞかせている。


ば、化け物...。


20m四方の門からはみ出すほどの大きさだ。


「おおおおおおおおーー!。」


スサは飛び上がって驚いた。


征天大剛が...。汗。


「ひぃーーっ!。ば、化け物っ!。...うっ...。」


キヨタは、貧血を起こし倒れた。


「あらあら...。」


カルラは腰を抜かした。


ララは咄嗟にカルラとキヨタを庇う。


2人を気遣いながら化け物の方を見ている。


「な、なんだ貴様は!。もののけめ!。人の言葉なんぞ話しおって!。さては、ケラムの新種じゃな?。」


スサは構えた。


ララは2人を気遣いながら辺りを見回している。


武器を探している。


咄嗟に城まで走って行く。


全力疾走だ。


「ま、待たれよ!。師匠どの!。ワシじゃ!。」


「もののけの弟子などとった覚えはないわ!。」


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


..,ガラガラガラガラ...


...ガシャ...ガシャ...ガシャ...ガシャ...


...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


化け物は、起き上がった。


天に向かって。


正大門は下から突き上げられ、崩れ始める。


「おのれ!。本性を現しおったな!。」


スサの気は漲り、キドーの奥義、大水の構えだ。


征天大剛から発せられる気は流石に凄まじいものがある。


「待たれよ!。師匠どの!。いや親父殿!。」


「なにぃ!?。もののけに親父などと。」


「オヤジっ!。ええ加減にせい!。ワシじゃ、親父どの!。トラフィンじゃ!。」


...ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ...


...ドドーーーーーーーーーーーーーーーン...


瓦は全て落ちてしまった。


もののけは、更に起き上がった。


ララは、何か布地の沢山着いた永い棒を城から持って来た。


それを担いだまま、カルラとキヨタを何とか抱き起こそうとしてる。


「ララ!。危険じゃぞ。さ、下がりなさい!。」


スサが叫ぶ。


ララの金属の棒...物干し竿?。だ。


洗濯物が沢山干されている。


まるで鯉のぼりのように。


カラフルな派手な布地...。


ララは勇敢だ。


周りが見えていない。


物干し竿を振りかぶって、スサの前に出た。


「ララ...危険じゃぞぅ...。さ、下りなさい...。」


スサがララに言う。


何か気の抜けた声だ。


《あら!...ララ...!。ララや...。ふ、ふ、ふんどし...汗。そ、それは褌ですよ!。みんなの。それが無いとみんな明日..履くものが無くなります。みっともないから下げて頂戴!。ちょっと...。ララちゃん?...》


カルラが押し殺した声で囁く。


《...この際、関係ないじゃないの...!。恥ずかしがってる場合じゃないのよ?。焼かれて内臓喰われてもいいの?。...》


キヨタがカルラにキレる。


ララは、物干し竿を振りかぶったまま、真っ赤になった。


まるで梅干しみたいに。


...ドーーーーーーーーン...


...ズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


正大門の10m近い正顔石が地面に落ち、地面が揺れる。


下から、トラフィンが現れる。


トラフィンは、もののけを持ち上げていたが、もののけの腹が柔らかいため、めり込んで見えなかったのだ。


「お、おや?。と、トラフィンか?。」


「トラ...かい?。い、一体何を持ってきたんだい?。」


キヨタも、カルラも、ララも地面にへたり込んだ。


「だからそう言っておるではないか。喋る魚がどこにおる?。オヤジ殿もオフクロ殿も...。全く。」


「何と...。」


「そ、そんな大きな魚を持っていたら、だれでも腰を抜かしますよ。全く...。」


「はて...。正体門が何やら涼しげじゃ...。さては、夏仕様であるな?。」


「今、おまえが壊してしまったのじゃ...。」


「ん?。ワシが?。」


「そうだよ。トラ。あんたがその化け物で崩しちまったんだよ。」


カルラは、限界を超えると口が悪くなる。


喋り方が急に品が無くなる...。


「はあ。なるほど...ワシが...。なるほどなるほど.......。ん?。って、えーーーーーーーーーーー!。ワシが壊したと?。」


「そうだよ。気づかなかったのかい?。全く。凄い大きな音がしたろ。」


「うむ。これの腹のせいで何も聞こえなかったようじゃ。」


「全く何と言うことを...。数千年引き継がれてきた、正体門が...。ギドーの魂が...。」


「ほら、トラ。父様に謝りなさい。可哀想に...。こんなに意気消沈してしまって。」


「すまぬ。オヤジ殿。すまぬ。ワシとしたことが...。」


「可哀想に。女みたいな座り方になってしまってるじゃないの。」


スサはショックのあまり、力なくオネエ座りをしている。


「全くおまえは...。それで、その化け物は一体なんじゃ...。」


「あ、そうじゃ。これは、レッドアイの主、リューイじゃ。倒して来たぞ!。親父どの!。見よ!。はーっはっはっはっ!。」


スサもカルラも頭を抱えている。


トラフィンはまたレッドアイを頭に乗せたまま、笑っている。


トラはそれを見せようとして、そのまま横に回転したため、トラフィンの怪力で巨大魚がまともに正体門にぶつかった。


大きな音を立て、完全に倒れた。


...ドウン...


...ドドドド...


...ドンドンドンドン...


砂煙が上がり、地面が揺れる。


崩れた大きな石が次々と大地を揺らす。


門下生が誰も居ないのが、幸いだ。


「お、おやおや...まあ...。」


流石のカルラも、あまりの事に言葉にならない。


「なんという...。」


スサは口を開いたまま茫然と佇んだ。


数千年の歴史を誇るキドー総本山の顔、正大門が、支柱だけを残しここで終わった。


スサはがっくりと地に膝を降ろし倒れこんだ。


「も、ももの、もののけ...もののけがも、も門を、く、崩したぁぁーー!。」


キヨタは奇声をあげ走り去った。


ララは、腰に手を当てトラフィンを睨んでいる。


「おぉ。ララ。ここにおったか?。汗。はっはっはっ...。」


トラフィンが笑って反り返ったので、リューイは更に正体門の支柱を倒した。


正体門は跡形も無くなった。


「...あ...あ...ぁ....。」


スサは、口をあんぐりと開けたまま呆然としている。


スサもカルラも、急激に老けた感じだ。


ララは、怒って、トラフィンに身振りで伝えてている。


「ララは何をそんなに怒っておるのじゃ?。はっはっ...汗。」


ララはカルラが立ち上がるのを助けている。


「ありがと...。」


レッドアイの主リューイの体長は裕に40mを越えている。


「お、おまえは本当に捕まえてしまったのね...。」


「伝説が...。トラ...お、おまえ、な、何てことを。」


「これで、バイキールは雨季でも漁ができるようになった。バイキールの漁師達はどこにも行かなくて良い。」


「首長達が何と言うか...。」


「何人のヒドゥイーンが食われたと思ってる?。何千人が生贄にされたと思うのだ?。父上。」


「それは、そうだが...。」


「最近、魚が取れないのも、浮島が沈むのも、全てこやつのせいだ。親父殿。良く考えてもみよ。バイキールを我が物顔にただ暴れた愚かな主が、人魚族の女神などである訳がない。」


「し、しかし、何故突然...。首長達の許し無く。そのように...。」


「ワシは族長や酋長のことは聞く。利己主義な政治屋の顔色など気にするつもりは無い。ワシは迷信などに騙されない。アンティカとして秩序を護らねばならぬ。ララはこの愚かな生き物に食われかけたのだ。」


トラフィンは、リューイを地面に降ろした。


...ズズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


大きな音とともに、地面が揺さぶられ、振動でスサも、大水郭にむかうカルラも宙に浮いた。


スサは呆然と巨大魚リューイを見上げた。苔や、貝、海藻がこびりつき、その鱗は厚くとてつもなく大きい。


「...し、しかし、バイキールの悪魔がこれほどまでに巨大な生き物だったとは...。このロコウの山も崩れるほどじゃ。トラよ!。良くもこんなものを運んで登ってきたのう?。」


「両手も眼も塞がってしまうでな、さすがに大変じゃった。」


「古の書にあるナジマ様の故郷には、鯨という名の巨大な獣が海におるそうじゃが...。」


「ほほぅ。巨大な獣が?。見てみたいものじゃ。」


「しかし、どうするのじゃ...この巨大な魚を...。」


「ん?。そこまでは考えておらなんだ。はっはっは。親父どの。捌いてタンジアの民全てに振る舞うのはどうじゃ?。笑。大物が獲れたのぅ。親父どの。はっはっはっは!。」


トラフィンの朗らかな笑い声と対象的に、スサは崩れた正大門を見て消沈している。


「皆もおらんのに、どうやって捌くのじゃ...。」


カルラは、ララに肩を借りて大水郭へ帰っている。


振り返りさけんだ。


「トラー。捌くなら山塔を降りて、裏ミョウセンの水で、洗わなくてはダメですよ。表は、タンジアの人たちの生活用水ですから!。そんなことをしたらお水が血まみれになってしまいます。」


「...そこまでバカではないですぞ。ワシも。はっはっはっは!。」


「分かったもんじゃない...。全く。いろいろ良く考えて欲しいものじゃ、いろいろと... 。」


スサは、深くため息をついた。


「そうか、それでは親父どの、どいておくれ。こやつをバイキールの漁師衆に見せてくる。1番辛い思いをしてきたのは、漁師衆じゃ。これで安心するじゃろう。そして、ワシがこやつをバイキールの底に返そう。もうこやつは悪さはできぬのだから。」


「確かに、死んでしまった今は、哀れじゃ。」


「今度は、硬い背を持ち降りようぞ。それ!。」


トラフィンは、リューイの背中側から手を入れた。


山の様な巨大魚リューイは、ゆっくりと、もちあがったが...。


...ドドーーーーーーーーン...


一旦持ち上がったリューイは、滑り地面に落ちた。


地響きがして、大地が揺れ、キドー一族の象徴である、大水郭城が埃を振り落としながらゆっくりと揺れている。


「あぁーー!。」


遠くでカルラの叫び声が聞こえる。


あまりの振動に、スサは縮み上がった。


「こ、こら、トラフィン!。気をつけんか。!。大水郭も壊す気か!。」


あまり怒ることのないスサは、ついに声を上げ、トラフィンを睨みつけた。


しかし、そこには、それまでの陽気で呑気なトラフィンは居なかった。


「親父どの...。リューイのこの背を見よ。」


トラフィンの顔は別人のように険しかった。


「どうした!?なんだと言うのじゃ。」


「この背の深き傷を」


「何と...かように深く、大きくえぐるとは。これは一体なんじゃ?この巨大な深き噛み跡。巨大で獰猛なこのリューイが。」


スサの顔からも、余裕が無くなった。


「こやつは、何者かに追われ怯え逃げたのだ。さもなくば、背にこのような深い傷はできぬ。用心深いこやつが、ワシの影のある西バイキールに来るとは。余程のことだったのじゃ。」


「この傷は新しい。また、バイキールにケラムの化け物が、紛れこんだのかもしれぬ。」


トラフィンは、リューイの改めて傷を見た。トラフィンの顔は更に、険しくなった。


「親父殿。これを見よ。焼けただれておる。」


「こ、これは...ザバナが水に戻ったか...。」


「親父よ。そのようには、生易しいことではないようじゃ。」


「ザバナ一以上の危機が、今、この、タンジアにあるというのか?。」


トラフィンはカリビアを見下ろしながらゆっくりと頷いた。

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