謀略4
強大な軍事国家がひしめくエイジン大陸、ローデシア大陸の国々の大半は、生物兵器である軍事兵曹を保有している。
二つの大陸を制圧することは、すなわち34の大陸全てを制覇することに等しい。
国土総面積13821万㎢、人口約232億人。
世界最大の帝国アマルは、初代神帝ラーが約42000年前に建国した。
以来、国家理念アラゾーナを着実に世界に広めている。
アマルの理念アラゾーナ。
それは、優れたアマル人が、34の大陸全てを制覇すること。
気高いアマル民族が、全世界に秩序と平和をもたらす。
優れたアマルの文化、習慣、言葉、理念を、愚民達に教育するというものだ。
最初はエイジンの弱小国家にすぎなかったアマルは、40000年の時を経て、実に4667の国家145億の人々を滅し、今や世界最大の帝国となった。
神帝の国アマルは、今も益々勢力を強め、巨大化し続けている。
誰にもこの帝国の侵攻を止めることはできず、かつて神帝は、正に、世界の全てを掌握しようとしていた。
ところが。
今から1300年前、アマルが滅ぼした亡国ハクアの末裔達は、独立をかけ大帝国アマルに戦いを挑んだ。
その末裔達とは、神帝の下部だった13人の神官達。
彼らは未だに生きていると言う者もいる。
全世界が注目する中予測に反し、神官達は圧倒的に優位に戦いを進めた。
亡国ハクアの技術を利用し兵曹に近い生物兵器をその時すでに生み出していた。
神官達は生物兵器を無数に解き放ち地理的要所を次々と占有して行った。
そして、僅か3年で大帝国アマルとの独立戦争を終結させた。
彼等は自分達の国をアトラつまり天上の国と名付けた。
アトラは380万㎢と国土面積はアマルの3%にも満たない。
42000年の歴史を持つ大帝国アマルにとって前代未聞のこの歴史的敗北は、空前絶後の打撃となった。
アマルは世界制覇の野望を諦めざるを得なくなった。
そのまま1万数千年の時が流れた。
アマルの人々はラーの再臨を待ち焦がれた。
そして、時は来た。
第1276代神帝カーは即位した。
カーは眠れる獅子アマルに再び力を呼び寄せた。
神帝カーの神通力は、恐怖の宰相アブドーラとその18使徒を地獄から召還し、祖父の名を冠した兵曹 スカルヤク•マー エルマー•ザフィーラを蘇らせた。
カーのその圧倒的な妖力と指導力は、アマルに再び最大の隆盛期をもたらした。
アマルは、ベクセン帝国を併合しハイドラ、バグー、トルメキア、デューンそしてアトラなど、周辺諸国への侵略を開始した。
ついに、アマルがこの二つの大陸を制覇する時が来た。
しかし、最高の隆盛期を迎えたのは、アマルだけでは無かった。
砂の国バグーでは、ついに古の言い伝えの黄金の砂獣ダーイエが現れた。
そして、それに呼応し伝説の砂獣使いバーメルンと同じ場所に同じ痣を持つ赤ん坊が、バグーの各地で見つかった。
更に、砂獣ヤーはダーイエの出現とともに数を100倍に増やした。
太古より砂獣ヤーは砂の国バグーやバグーの民バグダディスの守護獣だ。
アマル隆盛の危機に際し、バグーの神ハプテズマの力が働いたのだと、バグダディス達は言っている。
そして...。
境界の国ハイドラでは、ハイドゥクの後継者アンティカが五人同時に現れた。
それぞれのアンティカは、既に今のハイドゥクを上回ると言う。
そして、アマルが最も恐れるアトラは、ついにアスカ計画を成功させた。
アトラは100年前、最初の最終兵曹アダムゼロによって、ベイエリアの広大な領土と人々を失った。
しかし、アダムゼロの対極星ジェニファーから、ザネーサーとアダムという最強の軍事兵曹を生み出した。
この二体のエネルギー規模は、アトラの、国家エネルギー規模の実に120000倍を超える。
そして、アトラはアスカの技術がある限り、無限に最終兵曹を生み出すことができる。
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軍事国家アトラですら、対ケラム防衛に、最も注意を払っている。
万が一ケラムの獣が雪崩こめば、アトラでも国家の存亡は危うい。
そして、信じられないことに、それらは突然現れた。
ネオヤマト、ネオジンム、テスラバスナ、タルカント、マバナカタールなどアトラの中心都市に集中して。
針の目ほどの隙もない、アトラのスーパーシナプスフレーム群の監視をすり抜けて。
かつて、モンタギューという巨大な牛蛙の群れは、広大な古代シャイアン帝国を117日で、人民もろとも食い尽し、砂漠にした。
記録上、最初にマナという概念が生まれたのは、モンタギューという巨大な牛ガエルの女王からだ。
モンタギューは37大陸の内、ローデシア大陸近海にのみ生息していた。
モンタギューのマナは、65000年前、旧世代のスーパーコンピューター「オブライエン」によって認定された。
オブライエンは古代シャイアン帝国で作られたスーパーコンピューターだ。
最初で最後の意識を持つ人工知能。
オブライエンは、886年の間、市民を恐怖で支配した。
オブライエンの恐怖統治以降、人々は人工知能に対して、自由意識を持たせないように細心の注意を払った。
モンタギューは普通の牛蛙と形は似ているが、性質が全く異なる。
知能が非常に高く、肉食で獰猛。
また、繁殖能力が高い。
スズメバチのように、女王を中心としていくつも群を形成する。
体長は雄の個体で2〜50m。マナの中で最大級のものは、300m近い体長があったという。
全ての個体は、熱ためる蓄熱器官と、空気を1/1000以上に圧縮する気嚢を持っている。
ガソリン以上に発火性の高い体油とともに700度以上の圧縮した空気を一気に吐き出す。
あたかも火炎放射のように。
モンタギューは、元々小型の海竜ビョードルなどを捕食して生きていた。
しかし、貪欲で数の多いモンタギューは、ビョードルを食い尽くし、絶滅に追いやった。
そして、第二古生代においてアリューシャン海域の全ての生物を食い尽くし、新たなるエサを求めエイジン大陸に上陸した。
モンタギューはその後、更に何重にも進化をした。
陸上の巨大イカ ギガスクイードを捕食し絶滅に追いやった。
ギガスクイードとも交尾をしまたその子孫をも捕食した。
成体になったばかりのモンタギューの大きさは2m程度で人間とも生殖行為を行ったという。
ケラムの生物は遺伝的にかけ離れた生物との間にも子孫を残せたと、前アマルナー(古代アマル帝国記)に記録されている。
今から僅か500年前。
近代国家ブリートは、ザバナの大群の侵入と爆発的繁殖により僅か50日でその4000年の歴史に幕を下ろした。
ザバナはミルゲリア生態系の覇者。
人間の住む場所はケラムの生物にとっては、まさに楽天地だ。
進化に最適な食事、緩やかな食物連鎖、天敵が無く、穏やかな気候、卵や幼体を隠すために適切な建物。
アトラはこの危機に瀕しクシイバ 達に助けを求めた。
アトラの絶対的な守護者であるはずのクシイバは、アトラにとって信頼できる存在ではない。
敢えてその危険な存在を呼び寄せるほど、アトラはひっ迫していた。
案の定、クシイバのザネーサーは1400万という空前絶後の大軍を率いて、首都ネオヤマトに侵攻した。
ザネーサは僅か8時間でケラムの生物を殲滅し、遂に元老院にネオヤマトへの駐留を承認させた。
ネオヤマトはこの時を以って、完全に軍事兵曹ザネーサーの支配下に落ちた。
元老院ですらクシイバに抗うことはできない。
ジェニファーはマバナカタール戦でザネーサーとの戦いで多くを失ったため、ネオヤマトを諦めた。
その代わり、北軍を率いて、第二首都テスラバスナへ侵攻した。
ジェニファーは、マバナカタールとテスラバスナ二つの首都を手中に収めることとなった。
第三首都 ネオジンムには、アトラ中央軍を率いたユーライが向かった。
ネオジンムはアダムが手中に収めかけていた都市。
軍事兵曹ユーライは、人間の年齢では僅か15歳と、老兵ジェニファーの100分の1の年齢だ。
砂の国バグー連邦共和国は、これを機にアトラに宣戦布告をした。
アトラのクシイバに次ぐ軍事兵曹ハイカーとウルスラは400万の軍隊を率いバグーとの国境の州タルカンドへ向かった。
ハイカーとウルスラは、ケラムの生き物と、バグーの最終兵曹ゾット、そして砂の覇者砂獣ヤーと対峙しなくてはならなかった。
圧倒的な戦闘力で、バグーを退けたハイカーとウルスラ。
しかし、この二体の軍事兵曹だけは、第四首都タルカンドラに居座ることは無かった。
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ネオジンムにも、ギガサニー、ザバナ、トリオールなど最も危険な種の群れが、同時に現れた。
過去に現れたものとは性質や行動特性、何もかもが強化され凶暴化している。
サイレンの音が鳴り響き、多くの建築物は地下に沈んだ。
主要施設には、防護壁が立ち上がり、無数の砲台が立ち上がる。
一等市民、二等市民達は、建築物や避難壕、地下に逃れた。
陸車、飛行車(エルカー、スピーダー、フライヤー)飛行列車も地下に姿を隠した。
そして、各区画の地下から数百万体の治安維持アンドロイド部隊が現れた。
ネオジンムのステータスは最も深刻なフェーズに移行する。
もはや、ネオジンムは、ケラムと同じ危険な場所になってしまった。
予告無く閉じられた、ビルの装甲やシェルターは、非情にもこの都市で最も多い下層市民達を、危険な世界に置き去りにした。
逃げ遅れた者は悲惨だ。
サバンナ以上に、必死に捕食者から逃げ延びなくてはならない。
ケラムの生き物は、生まれた時と、死ぬ時点での遺伝子が異なるといわれている。
南ケラムの覇者ギガサニーは、生まれた時と、死ぬ時点での遺伝情報が7%違う。
その変化の方向性、スピードと個体差、そして、その知識や知能、学習能力は、アトラ最大の軍事シナプスフレーム スサノオの分析を大いに裏切った。
スサノオの見通しは、厳しいものだ。
危険生物の殲滅のため、この都市の機能の8割、人命の7割の喪失が避けられないとの試算結果。
通常、お互いが滅ぼし合うはずの種が、同調することなどあり得ない。
スサノオは、その発生原因を、他国侵略行為の中の「謀略」と位置付けた。




