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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四節 恙虫
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惜しまれる別れ

 羅護は何かを言いたそうに顔を伏せる。

 少しの間その状態を維持していたが、やがて決心したように顔を上げた。

 私をしっかりと二つの目で見据える。


「話して下さい。真実を」


「真実?」


「おじさんが、グレネーダーを裏切った訳を。なぜ、おじさんはあなたに抹消されなくちゃいけなかったのか。教えてください」


「悪いけどそれは……」


「写真……見ました。意味は、わかりますよね?」


 私は思わず自分を殴り殺したくなった。

 やはり写真を落としたんだ。

 しかも羅護知られているということは彼女が拾っていることを意味する。


「絶対に誰にも持っていることを悟られないで」


「大丈夫です。ここに居るのは信頼できそうな人だけでしょう? このばっさばさ? は違いますけど」


「それでもよ。壁に耳あり障子に目あり。どこで誰がこの会話を聞いてるか、遠視で見てるか分からない。私が今居る状況はそういう場所だよ」


「覚悟はできてます。真実を……教えてください」


 真実。何を持って真実なのだろうか?

 確かに隊長が裏切った真実ならある。

 けど、結果的に隊長が死んだのは私のわがままを押し通した犠牲に他ならない。


「結局、あなたは何を持って真実だと納得したいの? 隊長を殺したのは私。真奈香を生き返すために隊長に頼りに行って、敵対しているから無理だと言われ、我を通した結果殺してしまっただけ」


「違うでしょっ! そんな、そんな悲しいこといわないでよッ。おじさんが裏切りなんてしなければあなたがそんな事する必要無かったんでしょ!」


「もしもの話はもう、意味がない。どの道のっぺっぽうの暴走で真奈香が死ぬのは変わらなかった。でも、そうね。あの時あそこに居たのが貧乏神の係長でなく隊長だったなら……今も真奈香は生きててくれたかな」


「だったら……だったら私は……」


「どうするの? 真実を知って、私と逃走を始める? それとも真実が知りたいだけ? 真実がどうであれ今の居場所から追われることに変わりは無い。あなたはそこにいなさい。人生が詰むには速過ぎるでしょう?」


「それはあなただって……」


 どうも、羅護は私を恨んではいないらしい。

 隊長を殺した相手なのに、彼女は私をどうにか助けたいとすら思っているように思える。

 でも、私が助かる事は無い。

 ただ、道連れに妖研究所を潰してやるくらいしかなく、そんな死出の旅路に彼女を巻き込む必要なんてないんだ。


「『あ』。本当に、一人で行くの? 私を連れても……行かないの?」


「稲穂……あなたを連れて行くわけにはいかない。あなたにはまだ家族がいるでしょ」


「そんなの。お姉ちゃんの世界にお爺ちゃんも連れて行けば一緒に居られるっ。私は『あ』と一緒に居たい。ずっと一緒が良いっ」


 まるで、最愛の姉と生き別れになるような、そんな泣きそうな顔をしていた。

 初めにあった稲穂とは雲泥の差だな。

 まるで本当の妹みたいに我がままに私の後ろ髪を引く。


「ダメ。黴にもきっと天敵がいるように、紫鏡にも天敵は存在する。無敵な存在も場所もないんだよ稲穂。だから、あなたはこっちに来ちゃダメ」


「でも、でも『あ』が居なくなったら私はっ」


「大丈夫。あなたの居場所はちゃんと存在してるよ。だから稲穂。その居場所をしっかりと守って。戦闘面ではきっとあなたが一番強いから。小林さんたちを助けてあげて。大丈夫。稲穂ならできるよ」


 稲穂が泣きそうだ。

 そんな稲穂の横から、佳夕奈が私に近づいてきた。


「正直な話、私は有伽お姉様とあまり面識はなかったです。でも……いろいろと学ぶものがありました。短い間でしたけど、あなたに会えてよかったって思います」


「私もよ。佳夕奈。処理班のこと、頼むよ。がんばってね」


「はい。でも……でもやっぱり有伽お姉様とこんな別れになるなんて私、辛すぎます。絶対、絶対に生き続けてくださいっ!」


 そう言って、三人が同時に泣きだした。

 これは予想外。貰い泣きこそしなかったけどちょっと胸が熱くなった。

 感情は殆ど動かなくなったと思ったけど、少しはまだ残っていたらしい。


「こりゃぁ……何が起こってやがぷぎゃっ」


 場を乱すように登場した【恙虫】が【夜行さん】に蹴られるのが視界の隅を掠めたが、ただの景色として認識から外す事にした。

 あまり別れを惜しんでいるわけにもいかないらしい。

 しかし、私の動き、どうも読まれてる気がしなくもないな。


「稲穂、どうも私の動き読まれてるみたいだけど、理由分かる?」


「さぁ? 私達の配置は小林さん……ううん。待って。たしかすでに予想逃走ルートとかいうのがあったはず。本部からの指令書に書かれてた」


 ……つまり、私がどこに向いどう行動し、最終的にどこに辿りつくか、既に筒抜けになっている?

 まさか……常塚さんが?

 いや、でもそれはおかしい。生きろといった彼女がこんな事をするとも思えない。

 アレが演技だったとでも言うのか私?

 それこそ信じたくはないが……だが、このまま飛行場に向うのは危険だろうか?

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