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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 七人同行
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餓鬼の闘い

 それはまさに、餓えた野獣だった。

 物凄い速度で近づいてきたかと思うと大きく口を開いて喉元に飛びかかる。

 何とか躱せたものの、ついでとばかりに振われた爪がヒルコの身体を少し薙いだ。


 空中でくるりと回転して再び地面に着地した黛さん。

 その手元にヒルコの欠片が付いているのを確認して舐め取り始めた。

 食事している間、彼女は少し理性を取り戻したらしい。


「悪いけど、この状態の時理性ないから……死んでも恨まないで」


「いいんですか? 私を喰らえば黴で死にますよ?」


「いいえ。口に入れてしまえば全て食事よ。平らげてあげる」


「悪食すぎでしょうよ……」


 黴は餓鬼に喰われるのか、ちょっと興味はあるが、そんなことにならないようにしたい。

 黴を無効化させる相手が身近にいたことにちょっと驚きを隠せない。

 妖能力者、どれも一長一短の差があるな。


 再び唸りを発して四足で駆け抜ける黛先輩。

 血走った目で涎だらだら迫り来られると本気で死の危険を感じる。

 放置していれば確実に喰われるのが理解できるのか、体内の黴もざわめいている。


『有伽飛んで!』


 突然ヒルコの叫び。

 とっさの判断で跳び上がった私の背後から前田さんが突撃して来た。

 しまった、この子がいたの忘れてた。


 掌を私に向けての突進。

 ただ触れるだけのつもりだろう。

 だが、その触れるだけが危険なのだ。

 彼女の能力である震々は触れたモノを震わせる。


 震え方によっては相手を破壊する事すら可能な危険な能力なのだ。

 冗談でも彼女の一撃を喰らう訳にはいかない。

 けど、マジッすか。餓えた餓鬼相手にしながら前田さんを避けろと。さすがグレネーダー、この二人が組むだけで格段に攻略しにくくなっている。


 着地する瞬間、黛さんが飛びかかってきた。

 咄嗟に草薙を取り出し歯を受ける。

 ちょっ!? 草薙に噛みつかないでっ!?


 慌てて振り落とす。

 さすが餓鬼だ。草薙に歯型がつい……。

 いや、七支刀だったのが六支刀になってしまった。


 バリバリと音を立てて餓鬼が食事を始める。

 それで、私は餓鬼の脅威を改めて認識した。

 餓えた彼女は何でも食べる。口にしたモノはどんなものでも食べられる。

 それが食物でも毒物でも鉱物でさえ。


 武器で受ければ齧られる。生身で受ければ貪られる。

 彼女の攻撃は全て迎撃、もしくは避けなければ何かを喰らわれてしまう。

 この戦い、もう草薙も稲穂のナイフも使えない。

 下手に使えば喰われてしまう。

 あの二つはまだまだ私にとって必要な道具なのだ。


『有伽!』


 わかってる!

 草薙ぎをしまった私の背後から再び近づいていた前田さん。

 予想以上にちょこまか動く彼女は背が小さいので時々見失ってしまう。

 これがまた非常に厄介だ。


 彼女に意識を向けてると本能と食欲に突き動かされる餓鬼の一撃を避けられないし、かといって餓鬼一人に集中すれば死角から前田さんの一撃を喰らってしまう。

 それでも、死ねない私は防戦一方に避け続けるしかない。


 けど、このままじゃ確実にどちらかの攻撃を受けることになる。

 一度でも受ければもう死ぬのが確定するだろうな。

 どうする? こういう時、取れる方法は……!!


 前方から突撃して来る黛さん。

 後方からは前田さん。

 ならば私は……真上に舌を思い切り吐き出した。


 塀の向こう側から突き出た木の枝に私の舌が絡みつく。

 ぎゅん。っと身体を引き上げる。

 「わひゃぁ」と悲鳴が聞こえた気がしたが気にせず上昇。

 突然消えた私に飛びかかった二人は互いに額をぶつけ合った。

 そして、餓鬼の視界に新たな獲物が映り込む。


「あたた……ご、ごごごごめんなさ黛さ……ひ、ひゃあああああああああ!?」


 餌と認識された前田さんに大口開いて噛みつこうとする黛さん。

 ちょ、見境なしか!?

 そこへ飛んで行くタテクリカエシ。

 一瞬早く黛さんをひっくり返す。おお、ナイスだ騨雄。


「も、もう無理ぃ……」


 なんだ? 枝が……喋った?

 なぜか私がぶら下がっている枝がぷるぷると震え始めている。

 そう言えばこの枝だけ不自然に突出してるな。


「ふんぎぃぃ……あ」


 突如、枝が折れた。

 いや、枝に擬態した何かが枝から剥がれ落ちた。

 原因は重量オーバー。

 私がぶら下がっているのだから当然か。


 そして、枝が少女へと変化する。

 共々落ちるのは前田さんと黛さんの真上だった。

 二人を下敷きにして私達二人は落下。


 即座に私は転がって立ち上がると、三人から距離を取る。

 誰だこいつ? 見覚えは……ない。

 枝に擬態する様な奴だ。おそらくどこかの斥候だ。


「あいたたた……あ、ヤバい」


 落下の衝撃で尻をさすっていた彼女は、私達にバレたことに気付いて慌てて壁に向うと枝に擬態する。

 いや、壁に枝生えてるから。不自然な枝になってバレバレだから……これは、暗殺班の線はなさそうだ。行動が致命的過ぎる。

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