表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 七人同行
473/485

逆転した闘い

「よぉ。そんな急いでどこ行くんだ先輩」


 一人走っていた私に、声が掛かった。

 おや? と足を止めると、横合いの道から現れる三人の男女。

 見知った顔に、ついに来たのかと正対する。


「あら騨雄。グレネーダーになった気分はどう?」


「悪くはねェ。が、一番最初の相手があんたってのが納得いかねェな。俺には生きろっつっといてテメェが犯罪者になってんじゃねェぞ高梨有伽ァッ!」


 突然、そいつは走り出したかと思うと私に思い切り拳を振ってきた。

 別に避けれたしヒルコがガードしてくれていたけど、私はその拳を敢えて受け入れ吹き飛んだ。

 殴り飛ばされ壁に叩きつけられる。


「なんでだッ。常塚支部長に聞いたぞ先輩ッ。俺を初めから助けるために動いてたって! 俺はあんたに命助けられたのに、あんたを助けられないってどういうことだっ。恩を売るだけ売って消える気かよッ。俺はあんたに何を返せばいいんだよっ」


 なぜ、泣きそうな顔をしているのだろうか?

 あんたは助かってラッキー程度に思ってくれればと思っただけだ。

 あとは私が抜けた穴を埋める相手に丁度いいと、こちらの都合で生かしたのだ。

 感謝されるいわれこそない。


 私は立ち上がると共に周囲を見回す。

 今回出会ったのは琴村騨雄、黛真由、前田愛の三人だ。

 戦闘力でいえば前田さんには気を付けたい。

 あの人はまさに生体兵器だしね。


「私はもう遅いからね。助かる見込みは無いとわかってたし。だから、助けられる命を助けた。それだけよ。感謝は必要ない」


「それでも、それでも感謝するに決まってんだろっ。だからッ。だからもう一度俺と戦え先輩ッ。俺は。一対一サシであんたをぶちのめす。ぶちのめしたら、俺があんたを守ってやるッ」


「あはは。黛さん見ました。今のって告白じゃないですか? ついに私も彼氏出来るかもですね」


 軽口を返して武器を全て仕舞う。

 タテクリカエシ。その力は脅威だけど、彼が闘いたいのは殺し合いではなく相手を制す試合だ。

 なら武器は必要ない。


「折角手に入れた安全地帯を捨てる気?」


「あんたと一緒だろ!」


「なら、私の先輩だった隊長と同じ台詞を言うよ騨雄。現状を理解しているか琴村騨雄。お前はグレネーダーの処理係。そして私は、そのグレネーダーに仇成す存在。あなたは犯罪者を匿うの? あなたの罪滅ぼしはグレネーダーで悪意を断つこと。妖能力に振りまわされ暴走する人たちを救う事、断じて私を守ることじゃない」


「うるせぇ! だったら俺を倒しやがれ!」


 言ってることが無茶苦茶なのも、口論で私に敵わないのも分かっているのだろう。

 ただがむしゃらに、騨雄は私を倒し自分の力で私を救いたいと思ってくれている。

 隊長は、こんな気持ちを味わったのだろうか?


 自分が救った存在と戦う。

 彼を救ってあげたいと思い、その為に彼を倒す必要がある。

 ならば、例えその戦いに意味は無くとも、やらねばならない。


「あなたを連れては行かない。業を背負うのは私だけでいい」


「業なら既に背負ってんだよッ!」


 言葉と共に殴りかかって来る騨雄。

 女性相手に容赦ない。

 今の私は普通の少女と変わらない。

 武器も持たず黴もヒルコの援護も無い。


 強いて言えば垢嘗の能力を持つだけの存在だ。

 それでも、今まで培った経験が、騨雄の引き絞った拳より先に踏み込みアッパーカットで彼の顎を打ち抜く。


「ッなろっ」


 アッパーを喰らいつつも拳を打ち込んで来る騨雄。

 その攻撃を、小林さんのシャドーボクシングを見ていた私はなぞるように身体を動かしスウェーで避ける。

 素人にしては随分と上手くいった動きだった。側頭部を掠めて行ったがダメージにはなっていない。

 渾身の一撃を躱され驚く騨雄にボディブローを叩きこむ。


「なグっ」


「ごめんね騨雄。あんたの気持ち嬉しいけど……私達は出会うのが遅すぎたよ」


 沈む騨雄に優しく語りかけ、彼をゆっくりと地面に横たえる。

 戦闘が終わったと黛さんが近づいてきた。


「素でも強くなったんじゃない?」


「かもしれませんね。自分でもよく躱せたと思います」


 私は隊長と戦ったし、他にも凶悪な妖使いたちと対面した。

 その人たちの闘いを直に見て、多少なりその動きを自身に取り入れているのだろうか?

 自分自身が強くなったと言う感覚は無い。でも、今のは自分の思い描く理想の動きが出来た気がする。


「でも、それだけじゃ生き残れはしない。私と前田さん。ここから先に進みたいなら倒して行きなさい」


 そう言って、黛さんが初めて食べるのを止めた。

 何をする気だ? そう思った瞬間だった。

 まるで肉食獣を思わせる音が鳴った。


 目の前の獲物を前にして強大な音を響かせる。餓鬼の腹の音。

 食事を止めたせいで急激な飢餓状態へと陥った黛さんの身体が見る間に痩せ始める。

 だが、逆に瞳はぎらぎらと輝き、私の背筋をゾクゾクと危機感が這いずりまわる。


 口元から涎が溢れだし、こぼれる。

 口元からは肉、肉とうわごとのように漏れ出した。

 黛さんの瞳は完全に私を獲物として認識を始めている。


 静かに、四つん這いになる黛さん。

 まさに肉食獣を思わせる唸りを発し、私向けて走り出した。

 餓鬼……恐いよっ!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ