天井下と九尾之狐
私が【七人同行】と戦い始めた時、すぐ近くで土筆もまた闘いを始めようとしていた。
九尾之狐を牽制するように私から引き離した土筆は、不敵な笑みを浮かべて九尾と対峙していた。
……確か、玉藻だっけ? あいつの名前。暗殺班第一班の指揮官的存在だっけか。
九つの属性を操るかなり強力な妖使いだと聞いたけど。
大丈夫なのか土筆?
こんな場所で死なれても困るぞ。折角仲間に引き入れたのに簡単には死なないでほしいモノだ。
「さて、何か申し開きはあるかしら? 正直今すぐにでもぶち殺したい所だけど、馴染みの誼だし、言い訳位は聞いてあげてもいいわよ。泣いて謝り赦しを請うなら今のうちよ?」
「あら。あなたにしては随分と抑えてますのね。玉藻のことですし、激昂して問答無用に大技使ってくるかと思いましたのに。やはり【猫又】に敗北したのが余程堪えたようですわね。敵に対して力押しをしなくなったのはあの後からでしょう」
「……奴は、今関係ないだろ」
ビキリ。と米神に青筋が浮かんだ。
どうやら玉藻に【猫又】とやらの話は禁句らしい。
土筆はソレを踏まえて敢えて挑発に使ったようだ。
玉藻の言葉使いが荒くなったのを目敏く見付け、土筆は笑う。
それを見た玉藻の青筋が一層隆起したが、まだ爆発までは至らない。
余程、彼女にとって土筆は殺しにくい存在なのだろう。
まぁ、土筆はその事に気付いていないようではあるけれど。
彼女にとっては見捨てた存在の一人でしかないのだ。
玉藻がどれ程自分を押し殺して相手を説得しようとしても、既に聞く耳を持たれていないのだから仕方ない。
まぁ、説得するにしてもあんな上から目線で敵対的なツンデレを見せられても……ねぇ? ふざけんなとしか言いようないよ玉藻さん。
「それに、言い訳と言いましても……ああ、そうですわ。確かわたくしの次の任務である高梨有伽を殺す。これしかわたくしの生き残る道は無い。でしたかしら? なので今、任務遂行中と言っておきますわ。何せ今の実力では勝つなど不可能。そして敵対者はわたくし以外にもいるのですから、そうなるとわたくしは自分が殺せるようになるまで、他の誰かに殺されない様獲物を護衛しなければなりませんの」
大した理由である。
殺す気が無い獲物を自分以外に殺させるのを阻止している。
敵対の言い訳としては立派だが、ただの屁理屈であることに変わりは無い。
そもそも既に土筆にその気はないのだから。
だって彼女はもう……ああ、怖気してきた。自分でやっておきながらやっぱ失敗だった気がする。
「と、いうわけで、ご主人様をわたくしが殺すまで、他の敵はわたくしが排除することにいたしましたのよ」
「……ご主人様……ねぇ。つまり、テメェはもう終わっちまったと思っていいんだな天原土筆ぃッ!!」
と、玉藻の周囲に無数の火の玉が出現した。
狐火という奴だそうだ。
それが時間差を置いて土筆目掛けて飛んで行く。
土筆はスカートを思い切り両手でまくると太ももに取りつけていたガンベルトから二丁拳銃を取り出し狐火をワンショットキルで消滅させて行く。
物理攻撃では消せないはずだが、あの銃に秘密があるようだ。
妖対策は幾つもしてありますのよ。とは土筆の言葉で、彼女の武器には別の妖使いによる刻印というか、まぁ能力が付加されているらしいのだ。
鬼切丸という昔いた妖使いに刻印して貰い妖に対して有効になるよう武器を改造したらしいのだ。
そのおかげで打ち出される弾には妖を倒す能力が付加されて打ち出されるのである。
妖能力で作りだされた狐火を屠るなどわけないのだ。
その奥の手の一つを見せつけられ、九尾之狐は思わず舌打ちする。
苛つきがどんどん募り始めている。
雷撃、水弾、土弾と土筆向って無数の属性が飛び出すが、その全てを二丁拳銃で撃ち消す土筆。
ただの銃器マニアだなどと飛んでも無い。
奴は九尾之狐相手に立派に戦える存在だったのだ。
これは、結構な拾いモノではなかろうか?
目に見えない風弾。毒の霧、金属矢。
そんな攻撃すらも華麗に交わして銃弾を撒き散らす土筆。
次第昂揚して来たのか口元が笑みに歪んで笑い声が響きだす。
そこまで来るとちょっと怖い。
完全なハッピートリガー状態である。
そして対する玉藻も完全にブチ切れ状態に移行していた。
無数の属性が息つく暇も無く土筆に襲い掛かる。
その悉くを銃弾で消しさり、華麗に交わし、やがて土筆は一つの家に辿りつく。
ニタリと笑い、天井裏へと姿を消した。
スナイパーがついに地の利を得たのである。
激昂状態だった玉藻もそれに気付いて立ち止まり、周囲の警戒を始める。
少し離れた天井に出現した土筆が天井裏からマシンガンを取り出し乱射。
そこかッ。とばかりに狐火の連弾が襲いかかった。




