空飛ぶ石塔
何か飛んできた。
いや、何かと言われても遠めになんか石っぽいモノが飛んでるな程度に見えるだけだ。
あ、そろそろ目視で姿が見えるように……石塔?
五重塔みたいな作りの石が空を飛んでいる。
真っ直ぐに私に向って来ているので敵だとは思うのだが……もしかしてUFOの正体はアレだったりするのだろうか?
『ねぇねぇ、アレ、なんだろうね?』
「さぁ? 少なくとも歓迎出来る存在ではなさそうね。見なさい、あいつの後ろ、アレは【輪入道】という妖能力を持つ敵よ」
そいつのことは土筆から既に聞いていた。
見ただけで魂を失うとか、知り合いの足を奪われるとか。
「此所勝母の里」という紙を玄関先に貼っておけば近づいて来ないらしい。
まぁ、本当に見ただけで魂を失うなら私は既に死んでいるのだろうが、アレは放置でいいだろう。
なぜなら……
私がそいつを認識した次の瞬間、輪入道はその中心を小さな銃弾に射抜かれその命を終えていたのだから。
「いい仕事するねぇ。さすが元暗殺班」
思わずニタリと笑みを浮かべる。
『ワタシは有伽が悪魔に見えるよ』
失敬な。どこが悪魔なんですかね?
まぁ、別にどう呼ばれようと気にはしないけどさ。
……周囲から見ると悪魔に見えるんだろうか?
石塔だけが空を飛んでこちらにやって来る。
いや、違うな。石に誰かしがみついている。
私達の元にやって来ると、石から誰かが降りて来た。
「よぉう。お前さんかい高梨有伽って奴は」
「あんたは?」
「妖研究所暗殺班第一班、【石塔飛行】だ。いいだろ。この石使えば空も飛べるんだぜ!」
「そう。良かったわね。真奈香は生身で空走ってたけど」
自慢したいのか胸を張ってきたのは40代くらいのおじさんだった。
魚屋の衣装を身に纏った人の良さそうなおじさんなのに暗殺班なのだそうだ。
「俺は元々魚河岸鮮魚店平山の跡取り息子でよぉ。こんな能力目覚めたせいで暗殺班にスカウトされたんだ。まぁ遠隔操作出来るし金払いがいいんで入ったんだがな。嬢ちゃんみたいな未来ある子を殺さなきゃならねぇってぇのは辛いもんがあんな」
「じゃあ止める?」
「まさか。これでも仕事熱心なんだ」
「そう。残念ね。せっかくの鮮魚店は後取り居なくなるんじゃない平山さん」
「そりゃあ安心しな。俺が死んでも息子が後継いで……ってなんで俺の名前を!? エスパーかあんた!?」
調子狂う人だ。というか、気付いてなかったのか? 自分の店名名字入ってるだろうに。
「というか、死ぬつもりはねぇぞ!」
「安心して、私、妖研究所関連の人間で敵対者は確実に殺す予定だから」
今のところ例外は土筆だけである。
以降も増やす気は……ああ、四次元婆の男と美津子さんだっけ? あれは放置でもイイと思う。
さすがに平山さんも私の殺意に気付いた様で生唾飲み込み冷や汗を流す。
それでも、なぜか楽しそうな顔をしていた。
「そうでなくちゃなぁ。まだ死ぬ気はねぇっていう良い目だ。久々に生きのいい獲物だぜ嬢ちゃん」
「チッ、そんなナリして戦闘狂か」
私が草薙を引き抜くと、平山さんは包丁を二振り取りだした。
両手に持って対峙する。
エプロン姿にゴム長靴という場にそぐわない姿だが、立ち昇る殺気はプロのそれである。
『有伽、気を付けて、石塔が飛んでる!』
「行くぜ嬢ちゃん!」
初めに動いたのは平山さんだった。
包丁を逆手に疾駆する。
それと同時に石塔が私に向って空中を移動し始めた。
これは……ヤバいかもしれない。
右の一撃から回転しての左の一撃。
さらに軌道を変えて右、返すように左に連撃が切り替わる。
さらに回転して左の一閃からの頭上からの石塔突撃。
草薙一振りでは対応しきるので精一杯だ。
石塔まで攻撃に加わって来るともう避けるのも至難の技である。
あの重量物は近くあるだけでも面倒だ。
石塔を破壊してやりたいが、現状できるとすれば紫鏡の能力でちまちま削るくらいか。
時間はかかりそうだがそれでやるしかないか?
ヒルコもそれに気付いた様でナイフを自分から取り出し石塔に振っていた。
石塔攻略はヒルコに任せよう。
私はとにかくこの猛攻を捌く事だけに意識集中だ。
というか、魚捌く包丁だよねそれ?
人に向けていいもんじゃないだろ!
「ははは、どうした嬢ちゃん。俺ぁこれでも昔軍部経験があってなぁ!」
「あんたの昔話なんざ興味ないっ。さっさと死んでしまえ!」
「そう言ってくれんな。折角の一期一会だ。俺の人生を知りながら散って行きな!」
「ふざけんな。暑苦しいんだよ! 魚屋なら魚捌いてろよ」
自動迎撃があるのでなんとか草薙で対応できているが、余裕は全くない。
こういう時、一般人でしかない自分の基本スペックが悔やまれる。
隠れた力でもあってくれればまだ救いはあるのに。
パシュン。
くぐもった様な、空気の抜けた様な気が抜ける音が一度響いた。
サイレンサー付きの一撃が、平山さんの即頭部を突きぬける。
ヘッドショットを決められた平山さんは、自分が殺されたことにも気付いて無かっただろう。
音も無くその場に倒れ込むと、宙に浮いていた石塔も制御を失い落下。
アスファルトを割り砕きながらバラバラになっていた。
「序列はだいぶ下なのかしら。わたくし、こちらの方は初めて拝見致しましたわ」
ゴシックロリータ服を着た少女が軒下から現れる。
どうやら天井を伝って私の元へ戻ってきたようだ。
名前: 平山 克己
妖研究所暗殺班第一班に所属する40代のおじさん。
魚河岸鮮魚店平山の跡取り息子。
妻子持ち。そして戦闘狂。
特性: 元陸軍所属の戦闘狂
妖名: 石塔飛行
【欲】: 背後から覆いかぶさる
能力: 【石塔飛行】
燈籠や石塔など石で出来た長物を浮かせることが出来る。
石塔の形状によっては自分も一緒に浮かびあがれる。
【同族感知】
妖使い同士を認識する感覚器。
個人によって範囲は異なる。




