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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 チュパカブラ
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開かれた扉

 ついに開かれた(笑)

 鮮血と吹きだす首のない遺体が力なく倒れる。

 それを見た土筆は思わず息を飲んだ。

 本来なら、簡単な作業だったのだ。


 生きる目的を失った屍の様な女が寝ている間に殺す。

 相手は気付くことなく死ぬ。

 抵抗もされないし、死の恐怖に怯える事も無い。


 土筆と有伽が知り合ってしまった過去を覚えてしまっていたがために土筆が取った選択肢だった。

 だが、それは【チュパカブラ】の暴走で失敗した。

 有伽の部屋の天井に出現し、彼女を殺そうとした土筆だったが、そこには有伽の姿がなかった。


 なぜ? と思い首を捻った瞬間、ドアを叩き潰す音がした。

 何が!? と思い天井を移動しながら部屋から出ると、【チュパカブラ】が丁度居間にいた有伽の父と鉢合わせた所だったのだ。


 結果、止める暇も無く凶刃が振われた。

 爪の一撃を受け、腹を裂かれた父親を、【チュパカブラ】は投げ飛ばし居間の隅に叩きつける。

 そして、その血を吸い始めた。


 そこから先は口論だ。

 自分だけで良かったはずなのに、暗殺班はフォロー要員に【チュパカブラ】を寄越したのである。

 そして、本来殺す必要すらなかった有伽の父親が犠牲になっていた。


 コレも不幸之手紙の差し金か。

 思わず嘆いた土筆は、更なる不幸が襲いかかるのを、その時は悪寒としてしか受け取っていなかった。

 そして今、その不幸が現実として目の前に居る。

 自分から死のうとしていた存在を、わざわざ憎悪を向けさせて引き戻してしまったのである。




 私は怯える土筆を見下ろす。

 血塗れたナイフから鮮血が滴る。

 アレが、自分にも振われるのだろうかと喉をならしつつも視線を背けられない土筆。

 彼女も今、追いこまれているのだ。

 少なくとも、ここから反撃して私を殺そうという気力が無くなっているくらいには。


 視線を父さんに向ける。

 既にその瞳からは光が失われていた。

 ……ごめんね父さん。私、父さんに何もしてあげられなかった。

 思い返せば、もっと方法はあったはずなんだ。

 父さんが他人の様に接して来ても、私だけは父さんって呼び続ける。それだけでもよかったはずなんだ。


 なのに私は父さんはもう無理なのだろうと諦めて、親父と呼ぶようになった。

 扱いも雑だった。

 母さんが居なくなって、凄く寂しかっただろうに、私まで無碍に扱うべきじゃなかったんだ。

 親孝行、すればよかった。

 もっと父さんと話せばよかった。


 でも、もう無理なのだ。

 この腐った世の中にはもう救いがないのだから。

 だから、始めよう。

 私の復讐を始めよう。


 世界の理不尽で私の様に居場所を奪われる人たちのために。

 妖研究所を、叩き潰す。

 その復讐を、始めよう。


「……土筆、二つだけ選択肢を上げる」


「な、なんですの……?」


「このまま暗殺班として私の命を狙って死ぬのか、それとも、扉を開くか」


「え? と、扉を……ど、どういう? あなたの仲間になるとかじゃ、ないんですの?」


「ええ。だって、後ろから撃たれる危険を放置するバカはいないでしょう。なら確実に、私に心酔するくらい堕ちて貰わないと……ねぇ」


「ちょ、ちょっと……ちょっとお待ちになって! あ、あなた一体わたくしに何をす……」


「とりあえず、場所を私の部屋に移動しとこうか、父さんには見せられないし」


 稲穂のナイフをしまった私は舌をだす。

 長く伸びたそれは逃げようと後退る土筆の足を絡め取る。


「ひぃっ!?」


「大丈夫、恐いのは最初だけ。後は多分快楽しかないから。あ、でも先に言っとくけど、私はノーマルなんで」


「待って、扉を開くって、まさか、嫌、嫌ですわっ。それだけはっそれだけはぁっ」


 舌の筋力で土筆を引き擦り自分の部屋へと向う。

 父さん、埋葬するから、ちょっとだけ、待っててね。

 何かを察した土筆が必死に逃れようと無駄に暴れる。


 カーペットに捕まり、ちゃぶ台にしがみつき、居間の入り口の柱に爪を立てる。

 悲鳴を上げ、暴れ、それでも少しづつ私の部屋へと連れ込まれて行った。

 廊下に爪を立てて手を虚空に伸ばす。

 涙目で叫ぶ少女が部屋に引き擦り込まれると、ヒルコによって扉が内側から閉じられた。


「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああ――――……」




 父の埋葬は、自分家の墓に埋葬する事にしたのだけど、さすがに自分で火を付ける訳にも行かず、焼却まで待つ時間はない。

 なので、常塚支部長に電話を掛けることにした。


「夜分遅くすいません。いいですか?」


『あら、高梨さん? ええ。まだ支部だから問題はないわ』


 アンタいつまで仕事してんだ?

 まぁいいや。


「伝えたいことは二つです。やっぱり生きることにしたので、このまま行方眩ませます」


『そう……決断したのね』


「あと、家に父さんの死体があるので、埋葬手続き、お願いします」


『……わかったわ』


 私の言葉に何かを察したらしい常塚さんは、やや、間を開けて了承してくれた。


「それじゃあ、敵として出会わない事を祈っておきま……」


『ちょっと待って! もう少しだけ、家に居てくれない? 最後に一度だけ、私と会ってくれない?』


 最後に一度? まぁいいか。


「いいですよ。家の前で待ってます」


 敵として来るなら、潰すだけだ。

 今の私は、手段は選ばないよ支部長?

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