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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 チュパカブラ
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目覚める獅子

 その惨状を、私は一生忘れはしない。

 忘れられない。忘れてなんかやらない。

 目の前にいたジーパン女の背後に壁に背持たれている父さん。


 その腹が無残に裂かれ、そこに女の管の様に長い舌が入り込んでいる。

 血を……吸っていた。

 そんな女が私を見付けて舌を口内に戻す。


「あ……りか……にげ……」


 まだ、生きていた。でも、もう手遅れだった。

 絶望の中、私の中でくすぶっていた何かに火が灯る。

 ああ、わかる。

 方向性を見失い、恨むべきモノを見失い、ただただ燻ぶりつづけていた、憎しみの灯だ。


「土筆……どういうこと……かな。これは?」


 押し殺した声で、私は尋ねる。

 土筆、教えて? このことに、あなたは関わっているの? その返答次第で、私は約束を破らなくちゃならない。


「わ、わたくしは止めましたのよ! そもそもわたくしの攻撃対象はあなたのみですの! この馬鹿が勝手に暴走しただけでっ」


「おいおい、暴走はひでぇな。そもそもテメェはあたいの保護者か何かかよ。そりゃあよ、つい先日まで班長候補だったアンタならあたいも多少自重したぜ? でもよぉ、アンタもう尻に火がついてんじゃん。そんなのに尻尾振る程バカじゃねぇっつの。あっはぁ」


 何が楽しいのかしらないが、女が笑う。

 土筆が何かに気付いて青い顔で私を見ているが、彼女の方は気付いてないらしい。


「土筆、私ね、もうどうでもいいって、思ってたんだ。真奈香の居ない世界、生きてる必要すらないって。だから、あんたが殺しに来るの、ちょっと待ってた」


「おお、もうすぐ死ぬ用意してるとか、今回の仕事楽じゃね? よかったなぁ天原。首繋がったじゃん。殺した後はあたいに血吸わせてくれよぉ」


「でもさ、やり残したこと、一つ出来たよ。せっかく眠ろうとしてた獅子の尻尾思い切り踏んで起こすようなクソ野郎がいるってわかったし」


 何かを察した土筆が思わず下がる。

 逆に何も察せていない女が前に出て来た。


「何ごちゃごちゃ言ってんのか知らねぇけどさぁ。死ぬならさっさと死ねよ。天原ぁ、殺さないんならこの【チュパカブラ】が殺しとくけどいいの? アンタそしたら確実抹殺対象っしょ」


 チュパカブラ。たしかUMA、未確認生物の一匹だったはずだ。

 動物の血をする半漁人みたいな気持ち悪い容姿の生物だった気がする。

 ただ、その目撃は外国が多い。

 一応、日本でも同様の事件が何件か起こっているらしいのだが、それは別の生物ではなかっただろうか? いや、そんなことはどうでもいい。


 今、私にとって必要な事は……

 そう、この下衆野郎をどうやって殺してやるかだけだ。

 ……ああ、そうだ。アレがいい。アレにしよう。

 自分が犯した愚かな過ちを悔いながら、永遠の煉獄を彷徨え。


「ヒルコ、ナイフ」


 私の言葉に反応し、稲穂から貰ったナイフが右手の甲に現れる。

 左手で引き抜き、駆けた。

 同じ長い舌を持つ妖使い。

 だが、なぜだろう。【チュパカブラ】には同族という感じを全く受けない。ただただ異物。おぞましいモノとしか思えないのだ。


 伸びた爪が私を切り刻もうとする。

 きっと父さんはこれにやられたのだ。

 熊の一撃を思わせる強烈なスイング。

 だが、その一撃を私はナイフの腹で受け止める。


「バッカじゃねぇの? そんなちっこいナイフ一つであたいの斬撃が止められるわけ……」


 何か異変を感じたらしい。

 【チュパカブラ】が腕を戻す。

 その腕の指先から先が消失していた。


「……は?」


 まるで初めからそこに存在していなかったかのように、存在自体がかき消されている。

 私は紫色・・に煌めくナイフを静かに構える。


「て、テメェ、何しやがった!?」


「黙れクソ野郎。その首切り落としてやるから大人しく待ってろ」


 私の攻撃が分からなさ過ぎて困惑する【チュパカブラ】。

 それでも攻撃されるからには反撃しなければならないと、振われたナイフを逆の爪で受け止める。

 が、その瞬間爪がナイフに吸い込まれるように消える。

 接触した部分がまるで食べられたかのように消失した。

 そして遮るモノの無くなったナイフが彼女の腕を二つに裂く。


「いっでえぇぇぇぇぇっ!? なんで? なんでこうなんだよ!? なんだそのナイフ? ありえねぇだろぉっ!?」


 恐怖を覚えた【チュパカブラ】が後退る。

 ゆっくりと近づく私は逆の腕に草薙ぎを構える。


「ま、待て、待てよ! アンタわかってんのか! あたい殺しても結局アンタが殺されんのはかわんねぇだろ!」


「知るか。ただ、決めたんだ。あんたのせいで私はまだ死なないことを決めた。妖研究所、暗殺班、邪魔する奴全部。これ以上悲しみが広がらないように全部潰す。半ばで死んでも仕方ない。元より私に後はない。でもね。真奈香の手向けに、隊長の手向けに、そして……父さんの手向けに……お前ら全員地獄に送ってやるッ」


 草薙で【チュパカブラ】の心臓を適確に貫く。

 グブリと血を吐く【チュパカブラ】の首を紫のナイフで切り裂いた。

 そのままナイフに首だけをねじ込む。


「そこで見てろ。お前が起こした結末を」


 紫鏡に吸い込まれた【チュパカブラ】。死ぬ直前に首だけで煉獄に囚われた彼女は、決して死ぬ事はない。

 ただただ首だけで、紫しかない煉獄を永遠に彷徨うだけの存在だ。

 さぁ次は……覚悟は出来た? 天原土筆。

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