新人研修三日目7
支部に戻ってきた私達は、もう安全だと言う事でここなと別れることになった。
妖使いではない彼女は支部に入ることはできない。
なので支部入り口前でサヨナラだ。
明日も騨雄に会えるのだから問題はないのだろう。
騨雄の家族や協力してくれたクラスメイトに報告に行くと、若干羽が生えたような軽い足取りで掛け去って行ってしまった。
このまま恋愛に発展するんだろうか? 少し気になるが私はその先を知ることが出来ないのでどうにもならない。
「じゃあ、まずはいつもの会議室に行きなさい。私は上層部への報告を行ってくるから」
「了解です」
報告に向う常塚さんと別れた私達は会議室へと歩きだす。
「おや? 羅護君、随分浮かない顔だが、どうした?」
目敏く一番最後を歩く羅護に気付いた小林さんが尋ねる。
それではっと我に返った羅護は顔をぶんぶんと左右に振っていた。
「な、なんでもありません。はい。なんもなしです」
……なにかありますよと言ってるのと同じ態度だった。
小林さんはやや怪訝な顔をしたが、とりあえず会議室へ向う事にしたらしい。
未だ夢現の騨雄は自分がなぜここにいるのかまだ理解が、いや、納得がいってないみたいだ。
会議室に着いた私達はいつものように座席に座る。
騨雄用の椅子を用意しようかと思った小林さんだったが、私の隣にある稲穂用の座席に彼を促す事にしたらしい。
まぁ、最近全然使ってなかったし、有効利用すべきだよね。
「では、改めてグレネーダーにようこそ琴村騨雄君」
「あ、ああ……なんか良くわからねぇけど……俺は生きていていいっつーことに……なんのか?」
「ああ。その代わりにグレネーダーとして活動して貰う事になる。一先ずは僕たちと共に処理班で活動して貰うけど、荷が重いと思うなら別の部署への移動も受け付けている。その場合は支部長か僕、あるいは副係長の真由に告げてくれ」
「もぐむ」
「いや、ああ。あーっと、その、結局、あの戦いはなんだったんだ? 俺は結果すらわかってねぇんだけど」
「あれは、グレネーダーの入隊試験よ。副係長以上の人物二人以上に見られている状態で彼らの出す条件をクリアすること。騨雄に下されていた合格内容は私を倒す事。倒したでしょ、一度だけ」
私が応えてやると、自分と私の闘いを思い返す騨雄。
確かに私を一度倒していた。
「まぁ、確かに倒してたけどよ。その後に完全にノックアウトされたのは何でだ?」
「あんたが変な気を起こしてグレネーダーに裏切り行為働かないように楔。自分より強い相手が近くにいるんだから裏切る気にもならなくなるでしょ?」
「あー。まぁ裏切り行為すりゃそいつにやられんのは目に見えてるから余程出し抜くことに自信が無けりゃ抑止効果にはなるか」
「ついでに倒すっていっても人物性とか見られてるから合格するのは良識をもった人物だけだけど」
「俺に良識があると? ……ねぇよそんなもん」
少し照れていた。
「でも、凄かったですよね高梨先輩の闘い」
話しを切りかえる様に魁人が口にする。
それにうなづく佳夕奈。
そうだろうか? まぁいろんな妖能力使うからビックリ箱的な存在にはなってるかもね。
「有伽お姉様凄く強くて素敵でした」
だから佳夕奈、そんなきらきらした目で見つめてくるな。
お前の気持ちに応える気はないから。
「まぁ、高梨は特別おかしい存在だしな」
「どこが?」
「寄生されて治療もせず受け入れてんじゃねぇかよ。しかも内にも外にも」
「有伽は懐が深いのよ!」
と、翼の言葉に反応したのはヒルコだった。
突然私の身体から聞こえた初めて聞く声に騨雄以下新人が驚き私に視線を向ける。
「そういえば、彼らには紹介していなかったな。高梨君、良かったら彼女にも自己紹介させてやってくれないかな?」
「本人さえ良ければ」
私の言葉に反応するように私から剥がれて行くヒルコ。
私の背後に立つように姿を現した粘体生物に、皆の視線が集まった。
「有伽の身体に寄生というカ、共生してる【蛭子神】のヒルコです。ヨロシク」
「な、な、なん、共生? 寄生?」
魁人の反応が凄まじい。
「お、お前、ズルじゃねぇか! 俺もしかして二対一で戦ってたのかよ! おかしいと思ったんだ。最後の一撃顎に喰らった攻撃、どうやって拳が顎に来たんだって、こいつか!!」
騨雄は騨雄で反応するところがずれている気がする。
「高梨君は元々【垢嘗】の妖使いなんだけど、【黴】に寄生されて【蛭子神】を匿い、【八俣大蛇】から草薙を貰い、斑目君から彼女の姉の能力がついたナイフを貰っている。確かに彼女の言う通り、垢嘗というよりは無数の妖能力を併せ持つ【妖】と言った方が良いかもしれないね」
「さすが有伽お姉様です」
「もぐむ」
「かかか佳夕奈さんが稲穂さん化しししししていいいいますぅぅぅ」
とにかく、私はどうでもいいからさ、騨雄に説明をしないといけないんじゃないの?




