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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 チュパカブラ
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新人研修三日目6~羅護主観後編~

 研修三日目は合同になるらしい。

 件の高梨有伽の発案だそうだ。

 支部長まで連れ出して琴村騨雄を独りで相手するのだという。

 意味が分からない。


 不満感を募らせながらも私は黙って皆に付いて行った。

 そして、琴村騨雄を見付ける。

 高梨有伽の言葉の通り、彼は約束の場所へ来ていたのだ。

 私達よりも先に、たった一人自分が殺されると知りながらその場所へ。


 彼の思考回路も良く分からない。

 なぜ逃げなかったのだろうか?

 悪行を行ったのに、抹消されるのに、むしろ指定した己が殺されると言う場所になぜ自分から足を向けたのか。


 高梨さんと琴村騨雄。

 私には理解不能の思考回路を持つ二人が闘いを始めた。

 その不思議な戦闘も、私には理解不能だった。


 突然高梨さんの腕から現れる刀。確か七支刀とかいう存在だ。

 あんな大きな物一体どこにあったんだろう? 確かに隠れると言えば隠せるのだけど、そう言えば一回りほど腕が細くなっている様な……


 というか、あの人、確か垢嘗の妖使いじゃなかったっけ? 黴に寄生されたみたいのは聞いたけど、垢嘗がどうやったらあんな剣を自由に取り出せるようになるんだろうか?

 二人は名乗りを上げて構え始める。


 最初に動いたのは騨雄だ。鉄パイプを振って高梨さんへと飛びかかる。

 これを難なく避ける高梨さん。その動きは洗練された剣士のように無駄が無い。

 その剣舞を見るだけで思わず魅入ってしまいそうな立ち振舞いだった。


 タテクリカエシの能力らしい半透明の手杵が襲い掛かる。

 当る瞬間高梨さんは飛び上がって後方へ宙返り。そこへ手杵が当り、唐突に高梨さんの身体がくるりと上下逆になる。

 頭が下を向いていたので上下が変わると元に戻る。

 相手の特性を逆手に取った回避法だった。


 視界の変化にさえ気を付ければ、これは凄い。

 私はこんな回避法思い付かなかった。今の手杵をどうにか躱しきろうと躍起になって倒されていただろう。

 確かに、この人の闘いはこれから行う処理班の仕事に十分参考になるものだ。


 弱点発見だと軽口をたたく高梨さんに、騨雄は連撃を見舞う。

 手杵の二連突撃。

 しかし、二連撃が来ると分かっていれば十分対処できる。

 動かなければいいのだ。

 フェイントが混じるならまだしも騨雄はそこまで上手く手杵を扱えていないらしい。


 なので、結局視界が目まぐるしく移動しただけで元の位置に戻された高梨さんは鉄パイプを受け止めていた。

 あの視界が上下する中で適確に攻撃を受け続ける高梨さんの技量、あの人剣術の天才か?


 それでもさすがに戦闘を行いながら、単体の手杵を避けるのは難しかった。

 高梨さんがひっくり返される。

 頭が地面に付くその刹那、高梨さんから飛び出す長い舌が鉄パイプに絡みつく。

 鉄パイプを持っていた騨雄が高梨さんの体重が加わり前のめりに倒れ出す。


 代わりに舌の筋力で飛び上がった高梨さんは騨雄を蹴倒して地面に着地、まさに圧倒する闘いだった。

 ここまで虚仮にされるとさすがに騨雄も相手に倒されるためだと加減など出来ない。

 本気になった彼は高梨さんに何の妖使いだと叫ぶ。


 どうも、騨雄は高梨さんに殺されると言う事実が気に入らないらしい。

 他の人ならともかくお前にだけは殺されたくないと、生に足掻き、動きが乱雑になっていく。

 七支刀を真正面から受けた鉄パイプが切断された。


 それで焦ったのだろう。初めて四つの手杵を連続で動かしたものの、相手を元の位置に戻しただけの失策だった。

 焦った彼は切っ先鋭い鉄パイプを高梨さんに突き出す。

 完全に殺す一撃だった。もう、相手の安全性を考える余裕すら彼には無いらしい。死なないために、高梨さんに殺されないために必死に足掻く。


 だけど、そんな単調な突きが通じるはずもない。

 七支刀に弾き飛ばされる。

 騨雄は焦る……こともなくそのままさらに踏み込む。

 まるで今のが弾かれることをわかっていた様にスムーズに高梨さんの懐に入り込んだ。

 拳が高梨さんの胸を撃つ。その刹那。


 高梨さんはぐるんとひっくり返されていた。

 相手に触れるだけでもひっくり返せるのか。これは予想外だったようで、高梨さんは少し驚いた顔で地面に倒された。

 けど、さすがに騨雄も予想してなかったらしい。


「……やべぇ、やっちまった」


 吹き飛びアスファルトを二転三転、頭から落ちて凄いことになっている。

 あれ……高梨さん死んだんじゃ……

 と思ったのは一瞬だった。


 ゆらり、高梨さんが立ち上がる。

 その身体にアスファルトによる擦り傷など全くない。

 無傷の高梨さんが立ち上がっていた。


 でも、それはありえないはずだ。

 彼女は垢嘗、あのダメージを殺せる能力なんてないはずなのだから。

 その想いは、騨雄も一緒だった。


「化け物め……」


 思わず舌打ちする。

 そこからは、さっきまでとは打って変わった戦闘になった。

 高梨さんが本気なったようだ。


 騨雄の背後にあった支柱、いや街灯というべきだろうか?

 それに舌を巻き付け物凄い速度で騨雄に突撃、お返しとばかりに自分が殴られた胸に向けて肘を打ち込む。

 まさに一撃だった。


 速度が加わった強烈な一撃で騨雄は完全に沈んでいた。

 なのにさらに追撃が加わる。

 肘を受け前のめりになった騨雄の顎をありえない拳が撃ち抜いていたのだ。

 騨雄の迎撃するための腕を避けた腕と肘打ちに使った腕、そして顎を打ち抜く第三の腕。


 理解不能の攻撃に、見ていた私達も狐に抓まれた気分で、そのまま事態は勝手に進行して行った。

 いつの間にか騨雄が私達の仲間になることが決定していたのである。

 高梨さんは、初めからそのつもりだったのだ。

 私と同じように、副指揮官以上の存在二人が存在する場所で試験を行い認められることで入隊できる入隊試験で騨雄を引き込む。


 高梨さんは自分の入隊時の願いを使ってなかったらしいので、今回使えた裏技らしいんだけど、彼女は死ぬはずだった一人の男を救ったのである。

 救って見せたのだ。私達の目の前で。処理班は殺すだけの場所ではないのだと、証明してみせたのである。


 全員が立ち去り支部へと戻り始める中、私は一人、その場に残った。

 あれが、高梨有伽。

 おじさんがよく言っていた新人の女。

 好奇心旺盛で、快活で、次代のリーダーになりうる存在。


 すごいな。私にもできるのだろうか、ああやって人を助けることが?

 そしてそんな人でさえ、親友を失い、尊敬するおじさんを殺さなければならない状況に陥るのだと、同情心が芽生える。

 そんな私の足元に、かさりと、風に吹かれて一枚の写真が当った。


 どうやらさっきの戦いで落としたのだろう。騨雄か高梨さんの持ちものみたいだから返しておこ……う?

 私は拾い上げた写真を何の気なしに見る。

 そこに映っていたのは一人の少女だった。

 絶望に歪む、少女の最後だった。

 その見覚えのある少女の顔に、私はおじさんがなぜ叛逆を決意したのか、知ってしまった……

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