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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 チュパカブラ
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新人研修三日目4

「それじゃあ……そろそろ遊ぶの止めとこうか」


「ふざけんな。今まで遊びだとか言うつもりか!」


「ええ。こんなもの児戯みたいなものでしょ。……死なない様せいぜい足掻きなさい」


 私はヒルコに草薙ぎをしまわせる。

 今回相手を傷付ける草薙は邪魔だ。同じ意味で黴と稲穂のナイフは使えない。

 今回使うのはヒルコと……垢舐めだ。


 シャッと私の口から吐き出される長い舌。

 余りの速度に付いていけなかったらしい騨雄が焦った顔をするが、舌は近くの支柱に巻きつくだけで騨雄を狙った物ではなかった。

 本命は、コッチだ。


 舌で引っぱり私の身体が高速で騨雄に迫り来る。

 普通に駆けただけでは出せない速度に慌てる騨雄。

 思わず拳を打ち出すが、私の頬を少し霞めるだけだ。

 その腕を弾いて肘を騨雄の胸元に打ち込む。


 速度に乗った一撃で騨雄から呻きと唾が吐き散らされた。

 うん、この技、私の格闘用に考えてたけど使えなくはないな。

 さらにヒルコが騨雄の顎に拳を打ち込む。


 騨雄には訳が分からなかっただろう。

 私の腕は騨雄の腕を逸らすのと打ち込んだ肘とでふさがっていたはずなのだ。

 なのに三本目の腕があったかのように顎に衝撃が来てそのまま身体が倒れて行く。


 大地に突っ伏した騨雄はしばらく動けなかった。

 自分がどうやって倒されたかすらわからなかったらしい。

 そんな騨雄に、私は草薙ぎを引き抜き喉元に切っ先を突きつける。


「さて、どうする?」


「……ちくしょう。やるならさっさと殺せ。テメェに殺されンのが納得いかねぇが、実力差が在り過ぎる……」


「逆らう気力もなくしたと?」


「……そうだよ。悪いか」


 もうどうにでもしてくれと、諦めた顔で大空を見上げる騨雄。

 そんな騨雄に突きつけていた草薙ぎをしまい、私も空を見上げた。

 どこまでも青い大空は、とても雄大で、こんな争いなどしても意味は無いと雄弁に語っているようだった。


「いい空だね。できるなら、もっと眺めていたいって、思わない?」


「それができりゃぁな。テメェが殺すんだろうが。何のつもりだ?」


「どうかな、常塚さん?」


 気が付けば、縁ここなが常塚さんに署名を渡して成り行きを見守っていた。

 闘いの間にやってきたようだ。いいタイミングである。


「そうね。嘆願書もあるし、あなたの報告書から言っても問題はないらしいわ。それに、琴村騨雄はあなたをちゃんと倒した・・・ものね。合格よ」


「……あ?」


 理解のいっていない騨雄が上半身を起こして常塚さんを見る。

 そして私を見上げる。

 その時の私は、どんな顔をしていたのだろう。

 多分悪戯が成功した子供の様な顔をしていたんだと思う。


「な、なんだその顔はッ」


「琴村騨雄、あなたに二つの道を用意したわ。一つは私達に抵抗してこのまま殺される道。もう一つは……抹殺対応種処理係に入隊すること」


「……は? 入隊……あ゛ぁ!?」


「だ、騨雄君、皆が、騨雄君が生きてくれる事を願ってるんだよっ」


 ここなが騨雄に駆け寄って来る。

 私に突っかかろうとしていた騨雄はここなに駆け寄られたことで目を白黒させて呆然としていた。

 してやったり。


 若い二人に任せて私達は少し遠くで集まる。

 新人ばかりか黛さんたちもこの結末は理解していなかったのか戸惑いを浮かべている。

 一応小林さんには伝えといたし、大丈夫だよね?

 まぁ、黛さんと稲穂はなるほど、と納得しているみたいだけど。


「高梨、どういうこった!? あいつ、え? 仲間に入れるのか?」


「あああああの、それはいいですけどどどど。あののの人、さ、殺人を……」


「そ、そうっすよ。相手は殺人者なんでしょう? それに確かお偉いさんから殺すよう言われてるんじゃ?」


「その辺りは交渉次第ね。でも、それだけの価値があると私は見てる。小林君はどう?」


「まぁ、支部長が許可してるなら問題は無いと思いますよ。それに、高梨君が助けたいと思って行動したんだろう? なら、僕は問題にしませんよ。真由たちは?」


「無問題」


「だ、だだだいいいじょううううぶででででです」


 元々のメンバーである前田さんを含めて上位陣が騨雄を受け入れることに賛成している以上、新人から嫌がる人はいなかった。

 やや戸惑いながらも騨雄に付いて私と一緒に会った魁人と佳夕奈は賛成、羅護はよくわかりませんが、問題無いならいいんじゃないですか。とのことだ。


「待てよ、いや、待ってくださいよ。幾らなんでも無理っしょ。殺人っすよ殺人。そんなことしてる奴入れられるわけが……」


「翼、納得できないかもしれないけど、一応言うね。稲穂は実の姉の首を切ってるよ。それに皆、多かれ少なかれここで殺人をしているでしょう? 過失致死なだけだし、問題はないでしょう。それよりもこの仕事で罪を償って貰った方が社会貢献になってイイと思うけど?」


「かもしれねェけど、でも……あー、もう好きにしてくれ。俺は知らねぇっ」


 騨雄に付いて反対する方法を考えていたようだけど、結局何も思いつかずに匙を投げたようだった。やっぱり翼ちゃんは翼ちゃんだな。

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