新人研修三日目2
佳夕奈がだいぶ危険だった。百合の扉を開き始めていたのだ。
なんとか踏みとどまっているようだが、もう数日一緒に居ればヤバかったかもしれない。
第二の真奈香が出現する所だった。ダメな方の真奈香が……
弟が物凄く引いているのに気付き、慌てるように高梨先輩と言い直したが、多分もう遅いと思う。
佳夕奈の報告は、まぁ大したものではない。
騨雄が事件を起こした背景と彼の死に対する危機感の無さ、というか、諦め感が際立つ内容だった。
「じゃあ、次は高梨く……」
「できれば、私は最後に回していただけませんか?」
「そうかい? じゃあ斑目……君は今日も無理そうなので羅護君よろしく」
「はい。黛先輩と前田先輩と一緒に琴村騨雄の家周辺を見張ってました。正直、もう見張りは飽きたと言うのが感想です。皆さん本当に欲望に忠実ですね。黛先輩は食事ばかりだし、前田先輩はずっと震えてるし。途中からは私も町内パトロールさせてもらいました。そこで琴村騨雄らしき人物を見かけはしましたが、丁度ゲームセンターで太鼓を打ち鳴らしていたので思わず唖然と見送ってしまいました。その後高梨先輩たちが現れたのでお任せしてパトロールに戻りました」
羅護の欲はパトロールらしい。
周辺を見回って安全であるかどうかを確認さえすれば事足りる素敵な欲望だ。
垢を舐め取る私に比べれば十分過ぎるほどに。
「ふむ。その琴村騨雄に出会ったことは真由に報告は?」
「しています」
「なら問題は無い。次は、まぁ僕から話そうか」
一瞬私に視線を向けたけど、小林さんは自分が先に報告をすることにしたようだ。
「多分、高梨君のこれからする報告に似かよるかもしれないけど、本日は全員一緒に行動して貰うことになる。なんと支部長も一緒だ。何が起こるかは、高梨君次第だな」
と、視線で私に促してくる。
「琴村騨雄と対戦します。まぁ、相手が来るかわかりませんが、十中八九やって来るでしょう。なので新人のみなさんは私の闘う姿を見ておいてください。まぁ、反面教師として精一杯やらせていただきます」
「反面教師云々はともかく、そういうわけで、皆には悪いが最後の研修が合同になる」
皆異論は無いらしい。
羅護がじっと私を見ていたが、反論はしないようだ。
ふむ。まぁ隊長のことに付いてあれこれ言われないのは助かったと見るべきか。
羅護とは殆ど話すことなくここを追われそうだ。
話を纏め、支部長が来るのを待ってから、私達は支部を出る。
案内するように私と魁人が先頭を歩く。
私の横には魁人と、逆隣りに羅護が付いて来ていた。
ちなみに抱きかかえた稲穂は普通に恍惚とした表情で痙攣を繰り返しているが、これはもう放置することにした。
他の皆が凄く気恥かしそうというか、他人のフリをしたそうにしているけど、どうでもいいので気にしない。
現場へと辿り着く。
そこには、最初に見た時の様に、感慨深げに地面を見つめる琴村騨雄。
やはり先に来てたか。
「……なんだ。随分な団体だな」
「見学者は多い方がいいでしょ。それにあなたを殺すのは私なんだし、問題ある?」
「……いや、ねぇよ」
覚悟を決めたらしい。鋭い視線でこちらに振り向く。
私は稲穂をおろして常塚さんに渡すと、代表するように前へと歩み出た。
「さて、あなたは私を倒せる? 琴村騨雄」
「死んでも恨むなよ」
「もとより死ねるようなら手を上げて喜ぶけどね」
騨雄が拳を握り戦闘体勢に入った。
けれど私は自然体だ。
構えなど必要無い。
余裕か? と騨雄は怪訝な顔をする。
その周囲に出現するタテクリカエシ。
あれに触れた瞬間私は倒されるらしい。
最初に花をもたせるべきだろうか。
いや、手加減は無用だろう。
ヒルコを見る。いつでも準備万端だと言うように肌に刺激を伝えて来た。
「そういえば鉄パイプもってたよね?」
「ああ? 持ってるけどなんだよ?」
「先に引き抜いておきなさい。剣は卑怯とか言われても困るし」
「剣って、それと鉄パイプでも十分過ぎる差があんだろが。好きに使えよ卑怯とか言わねぇし」
「じゃあ遠慮なく」
ヒルコに指令を送ると私の左手の甲に出現する柄。
右手でそれを引き抜くと、七支刀が露わになった。
さすがにこれには驚きを隠せない騨雄。
いや、彼だけでなく見学していた三人の新人が喉を鳴らしていた。
彼らは聞いていたのだ。私の妖能力が【垢嘗】だということを。
この草薙ぎを使うなどとは聞いてなかった。
ぬらりと光る七支刀を斜に構え、私は告げる。
「高梨有伽。妖名は……【妖】」
「名乗るのかよ。まぁいい。琴村騨雄、【タテクリカエシ】だ。テメェをぶっ倒して最強を証明してから死んでやるぜ」
死ぬのは確定らしい。まぁいいけど。
さぁ、試験を始めましょうか。死ぬ危険もある死験を。




