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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 タテクリカエシ
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新人研修二日目4

「指名手配中なのに大した余裕ね」


「げっ。またテメェらか。っつかあのガキはどうした? まさか昨日負けたせいでお役御免かよ」


「まさか? 今新人研修中。新人は既存の人と三日間一緒に回って仕事を見て覚えるの。今日は私達の担当がこの子の番なだけ」


「あーそうですかい」


 興味なさそうに呟く騨雄。

 もうゲームする気も失せたらしく私達に背を向けて歩きだす。

 どこへ行くのか知らないが、彼はこの周辺をぶらついているらしい。


 家に帰っていない所を見るにネットカフェか漫画喫茶にでも寝泊まりしてるんだろう。

 今日は別に彼をどうにかする訳も無いし、見逃しでいいだろう。

 と、思ったのだが、


「あ、あのっ、騨雄君!」


「あ?」


 佳夕奈が思わず声を掛けていた。

 振り向いた騨雄は怪訝な顔で佳夕奈を見る。


「お、応援してます! 死なないでくださいっ!」


「はぁ? テメェらが死なそうとしてんだろうが? わけわかんねぇ女だな」


「……一応、折角だからもう一度言うけど、明日、待ってるよ」


「知るか。見逃された以上、俺がどこへ行くかは俺の自由だ」


 私の言葉にそれだけ応え、騨雄は去って行った。

 しかし、本当に危機意識全くないなアイツ。

 本当に死にたいと思っているのか……死にたくないと思っていればあんな余裕はまずないか。


「あら?」


 非常に珍しい存在を見付けてしまった。

 何でまたあいつがこんな場所で見つかってしまうのやら。

 いや、無視しても良かったんだけど、向こうが気付いてしまった。

 今日は知り合いに良く合う日らしい。


「おいーっす。たっかなーしちゃーん!」


「あら、止音君の金魚の糞な……稲穂、あの人の名前何だっけ?」


「え? 知らない」


「ちょぉっ、やっぱ俺の扱い酷くね? 和樹、和樹っすよぉ!!」


 その和樹さんという名前の生物は可愛い女の子にナンパしまくっていなさった。

 正直話しかけたくも無い存在だったりするのだけど、こんなのでも一応知り合いなので相手しない訳にはいかない。


「で、何の用? もうあんた達の誘いに乗る気も無いし、私はもうすぐ死ぬ訳だけど」


「またまたぁ、あんたは死なねぇよ。絶対持ち直す。死にたい死にたい言いながらも生き残っちまう存在さ。止音の奴がそういう性格だからと言ってやがんだ。あんたは殺そうとしたって死にゃしねぇさ」


「世迷い事を」


 溜息を吐いて空を見上げる。

 真奈香の居ないこの世界、私が生きて何になる?

 さっさと殺しに来てくれ妖研究所。

 土筆、あんた私を殺すっつってんのに何故まだ来ない?

 私の首はすぐ手に入るよ?


「それよりさ、合コンしねぇ? 今合コンに来てくれる女の子現地調達してんの。必要なのは三人。お、丁度じゃん」


「他当りな。私ら誘おうなんざン千万年早い」


 ぺっと吐き捨て歩きだす。

 稲穂も同時に歩きだした所を見るに、彼女も同じ気持ちだったようだ。

 佳夕奈が遅れはしたが、戸惑いながらも私に追い付くように走り出す。


「ま、待ってくれよ。つか高梨ちゃんよ、何時の間にボクから私になったんだ?」


「偽る意味すら、なくなったのよ」


 人に嫌われたくない。皆とわいわい騒ぎたい。

 それが自分をボクと呼ぶ理由だった。

 今はもう、その必要を見いだせない。


 だから、必要がないのだ。

 ボクである必要など、もうない。

 私は私と自分を呼んで、自分自身を偽らないようになっていた。

 いつからかは、知らない。

 自然と口から出る一人称が私になっていたのだ。

 意識してボクという気にもならないのでそのままにしている。


「俺としちゃそっちのが女の子っぽくて可愛いけどね!」


「あんたに好かれたくてやってるわけじゃないから。ああ、これツンデレじゃないから感違いしなくていいよ」


「ツレなすぎだろ!?」


 和樹を放置して私達は支部への帰路に付く。書類整理でもしとこうかと思ったんだけど、ふと思い立ったので佳夕奈に止音君の電話番号を教えておいた。

 佳夕奈がなぜ自分に教えたのかと聞いて来たが、彼女の性格からして私の様に踏み込み過ぎる可能性があるので予防策を打っておいた方が良さそうなのだ。


 騨雄に感情移入してくれるのはいいのだが、さすがに目に余る。

 あれでは騨雄を助けるために叛逆者になってしまっても仕方ないと思える程の思い入れ様なのだ。

 今回は別に問題無いが、これから先同じようなことが無いとも限らず、歯止め役がいないこともある。

 だからどうしても困ったり迷ったりしたら電話するように伝えておいた。


 止音君なら困った女性相手に無碍にすることもないだろう。たぶん。

 いや、前回ばかりは多少頭に来たが、結局アレは私の自業自得なので仕方ない。

 さて、後やることは……何も無いか。帰ろう

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