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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 タテクリカエシ
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新人研修二日目3

 結果を言えば、騨雄は一人、やってきた。

 ただのクラスメイトを助ける為だけに、彼は罠が張られた場所へとのこのこやってきたのだ。

 呼びだされた理由を聞かされ、男の一人に連れられて。


 ナイフ片手に楽しげにここなの顔にナイフを向ける男と、そこへ案内して来た男が騨雄を見る。

 肩を怒らせ怒りに満ちた騨雄は言った。

 関係ない奴を巻き込むんじゃねェッ!! と。

 その怒声に、思わず気押される二人は、取り繕うように不敵な笑みを見せたそうだ。


「そ、その威勢がいいのぁすげぇがな。テメェ状況わかってんのかよ!」


「今度こそ屈服させてやンぜ騨雄。前々からテメェは邪魔なんだ。お前の女傷付けられたくなかったら……」


「アホか。そいつはただのクラスメイトだっつの」


「うるせェ! そんな嘘ついてももう遅ェンだよ!! テメェ、そこ動くな! 一歩でも動いたらこの女ブッ殺すからな!」


「動かねェよ。動かねェが……テメェら覚悟しろよ?」


 殴り合いが始まった。

 いや、それは人質を取られた騨雄にとっては殴る事すら出来ず、サンドバックになるしかなかったそうなのだが。

 そしてしばらく。ついに騨雄が耐えきれなくなり地面に沈んだ。


 男たちは二人掛かりでようやく倒した騨雄を見下ろし下卑た薄笑いを浮かべていた。

 彼らも自分が何をしたかを理解して、これで勝ってもあまり意味は無いと気付いたのかもしれないが、それでも騨雄を倒せたという事実に高揚感を感じずには居られなかった。


 だが、その薄笑いが、騨雄の琴線に触れた。

 薄れ始めた意識の中、見下すように笑う二人の男。

 その背後には怯える少女。


 自分が無抵抗でやられて、本当に彼女は助かるのか?

 この下卑た行いをする二人が、彼女を無事に解放するという保証がどこにある?

 誰も助けを期待できないなら、自分がやるしか……ないだろう?


 薄れゆく意識の中で、騨雄はタテクリカエシの能力を発動させた。

 ここなの目の前で、二人の男が突然ひっくり返る。

 ゴチッと頭蓋をアスファルトに打ち付けた二人は、そのまま動かなくなった。


 突然の出来事に、ここなはその場を動けなかった。

 でも、はっと我に返る。

 慌てて救急車と警察を呼んで騨雄を病院に運んだのだが、そこで二人が死亡したということを聞かされたのだと言う。




 そんな話を聞いて、佳夕奈が無駄に泣いていた。

 騨雄さん漢過ぎとか、無茶苦茶感情移入していらっしゃる。

 どうもこういう話に弱いようだ。


「あの……騨雄君、どうなっちゃうんですか? 私が捕まりさえしなければ……」


「そんなことはないわ。あなたが捕まったのは仕方ないこと。でも、そんな下衆を倒すことで彼が抹消されることになるのは、不本意よね?」


「お、お願いします。騨雄君を、騨雄君を抹消しないでくださいっ!」


「……なら、あなたも行動しなさい。路上で人々の名前を貰って嘆願書を作るの。明日には提出できるようにして、明日、現場に来なさい。そこで常塚支部長に直接渡すといいわ」


「そ、それじゃあ……」


「可能性は低いでしょう。でも、ゼロじゃない。急ぎなさい。あなたの動き次第では、きっと動きだす」


 私の言葉を聞いて、彼女は急いで部屋に戻って行った。


「あ、あの、わ、私も、私も手伝っていいですか!?」


 感化されてしまった佳夕奈が告げるが、ダメだ。彼女は手伝ってはいけない。


「あなたはダメ。騨雄を殺さなきゃいけない側なんだから。自分が叛逆を示してはいけないでしょ。私達が出来る事は被害者をまだ必要としている人たちが居て、帰って来てほしいと行動をしている事実を上層部に見せつけること。そして、殺人ではなく過失致死。妖能力を使うのはやむを得ない状況だったと言う認識と、殺意の無し、世間の声を聞かせること。煽ることはできても協力はしてはいけない。グレーゾーンを見極めなさい」


「……はい」


 私の言葉にしゅんと萎れる佳夕奈。

 そんな彼女の肩に一度だけ手を置いて立ち去る。

 きっとここなは今、必死にネットで嘆願書の作り方を調べているだろう。

 明日までにどれだけ署名活動ができるかわからないが、やれるだけやるといい。きっと、何とかなると思う。彼はまだ、引き返せる場所にいる。


「行くよ佳夕奈」


「へ? あ、はい。でも、どこに?」


 私は行き先を告げずに歩きだす。

 というか、行き場所なんて決めちゃいなかった。

 だってもう、やることないし。


 仕方ないのでとりあえずいつもの場所に向う事にした。

 のだが、その途中で予想外の人物に出会ってしまったりする。

 ゲームセンターの太鼓を叩く琴村騨雄を見付けてしまった私だった。

 あの馬鹿何してんの?


 驚く私達に、清々しい汗を垂らしながら叩き終えた騨雄は額の汗を流して息を付く。

 そして気付いた私達の姿に、大げさに飛び退く騨雄がいた。

 あんた、指名手配の意味わかってる?

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