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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 タテクリカエシ
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新人研修一日目7

 ファミレスでの会合を終えた私は、一人残って常塚さんを待つ。

 憤慨していた魁人も私が同じ現象を起こしていたことを知ると少しだけ怒りが無くなったのか落ちついてくれた。

 一応、死神ラーメンも薦めて見たけど結局警戒されて遠慮されてしまった。

 魁人には嫌われたかもしれないな。まぁいいけど。


 常塚さんが「お待たせ」と戻ってきたのは約六時間後だった。

 確かに随分待たされた気がする。

 まぁ、どうでもいい。時間は有限だが私にとってはカウントダウンまでの暇な時間だ。


「それで? 何の用?」


「ここではちょっと。人目のない場所に」


「では……行きましょうか」


 と、私達は移動を始める。

 やってきたのは私達の学校だった。

 深夜になってしまったせいか人はいないし校門が閉まっている。


 常塚さんはスマホでどこかに連絡を入れると、校門と鉄門を乗り越え内部へと侵入してしまう。

 私に付いてくるよう促されたのでヒルコと共同で柵を乗り越え校庭に侵入した。

 二人して校庭を歩き校舎の中へ。


 階段を上り屋上へと向う。

 目的地はそこらしい。

 屋上へ出ると満天の星空が瞬いていた。


「ここでのこと、まだ半年なのに凄く遠くの出来ごとに感じるわ」


 この屋上で、私と常塚さんは闘った。

 私がグレネーダーに入る切っ掛けともなった場所だ。

 結局私は不合格になって試験受けて入ったけどね。


「確かに、懐かしいですね。とても……」


 ここにいて戦いを観戦していた隊長も、一緒に戦った真奈香ももう居ない。

 出会ってたった半年。隊長たちとの時間は私の一生の中でも、濃密過ぎる時間だったと思う。

 大空を見上げる。

 無数に煌めく星の一つ一つが、今まで出会った人々の顔を思い起こさせる。


「本当に、たった半年、いろんなことがありました……」


 自然、涙が溢れる。

 もう、会えない人たちと、もう味わう事の出来ない幸せな時間と。

 確かに辛い事も多かった。悲しい事も多かった。

 でも、その中でも、幸せだと思える事は沢山あったのだ。


「……用事、先に聞くわ」


「私、そういえば入隊時の願い使ってなかったなと思いまして。今さらですけど頼んでも良いですか?」


「そういえば保留にしていたわね。何かしら?」


「琴村騨雄……彼を入隊させます」


 予想外の言葉だったのだろう。常塚さんは目を見開いてしばらく唖然としていた。


「……正気? 彼は殺人者よ。斑目さんの様には行かないわ」


「これ、資料室にあった資料と証言をもとに私が作成した報告書です。多分、通ります」


「でも……」


「二日後、彼と戦う約束をしました。私と真奈香が受けたアレを、お願いします」


「……自棄になった。訳ではなさそうね」


 資料に目を通した常塚さんは私に視線を向ける。

 しばらく瞑目すると、観念したように目を開いた。


「いいわ。上にその方向で報告してみるわ」


 琴村騨雄は死に場所を求めているように見えて、実はまだ生きたいと足掻いている。

 居場所を求めているのだ。自分が生きていると思える自分が居る事を許される場所を。

 でも、それが叶わないのなら、死ぬしかないんだと、自分を納得させようとしている。


 彼は根っからの殺人者ではない。

 少なくとも、殺す覚悟をした人間ではない。

 それはすなわち、過失致死。殺す気が無くても相手が死んでしまったことによる罪だ。

 罪は罪だが覚悟をもっていないのならば、まだ救いはある。

 償うべき場所を提供し、贖罪を行う機会を用意すれば、後は逃げ出すことなく勝手に行動するだろう。


「さて、高梨さん。こちらからも、質問があるんだけど」


「なんですか?」


「柳ちゃんが離反した理由。知ってるんでしょう?」


「……はい」


「教えてくれないかしら?」


「無理です。これを知れば、常塚さんも抹消されます」


 常塚さんは、その意味を理解できずに怪訝な顔をする。


「理由を知るだけで?」


「言えるとすれば……隊長が裏切ったんじゃない。妖研究所が、裏切った。それだけです」


 思わず、私は胸元に掛けていたロケットを握る。

 結局、隊長の痕跡はこのロケットと写真だけだった。


 細本流亜に他の妖を取りつけている改造写真。

 ヒルコはソレを見た瞬間に、何が行われている所かを私に告げて来た。

 自分も、同じ事をされたのだそうだ。


 そしてこの写真こそが、隊長が叛逆を決意した理由にして、護送係の二人が抹消された理由。

 どこで監視されているか分からない今、常塚さんにこれを見せる訳にはいかない。

 でも、できることなら見せてあげたいとは思う。隊長の幼馴染で、ずっと、今までずっと一緒に過ごしてきたのだから。

 彼女だけには、真相を伝えてしまいたい。


「私は、隊長が離反する切っ掛けになった写真を貰いました。でも、これは他人に見せられません」


「それは、なぜ? そこまで危険なものなの?」


「これを撮った護送係の二人は、消されました」


 その言葉で、思い当ったらしい。


「鮎川さんたちは、ソレのせいで死んだのね」


「そのようです。隊長が頼んだのは……細本流亜の現状を見て来てほしい。それだけだそうです」


 常塚さんは、もう見せてほしいと言わなかった。

 ただ、何かを考えるように押し黙り、大空を見上げる。

 私も何も言わなかった。

 二人揃って星空に視線を向ける。


 手を伸ばせば、無数の星が、輝きが、そして奇跡が掴み取れそうな、そんな空だった。

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