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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 タテクリカエシ
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新人研修一日目4

「あら。いいところに戻ってきたわね」


 私達が支部に戻ると、丁度常塚さんと出くわした。

 どうやらこれからバイトに出かけようとしていたらしい。


「なにか?」


 抑揚のない声で聞くと、常塚さんが神妙な顔になる。


「坂出さんの件、結果は新人研修終了と同時に告げられるそうよ」


「そうですか」


「恐く……ないの? 叛逆者になるかもしれないのよ? あなたも柳ちゃんみたいに……」


「恐い? 真奈香も隊長も居なくなった世界で、何を恐れる必要があるんです? 私にとっての恐怖は既に、もう体験してしまいましたよ」


 私の言葉を聞いていた常塚さんが凄く悲しそうな眼をしていた。

 なぜそんな顔をするのかは分からなかったけど、どうでもよかったので気にしない。


「お願い高梨さん。自分を、大事にして」


「……大事にしてるから、まだ死んでないんですよ。これからも多分、自分から死ぬ事はないでしょうね」


 努めて自嘲気味に笑う。

 結局、私には真奈香の後を追う事なんて出来なかった。

 自分で自分を殺すなんて、できなかったのだ。

 それでいい? そうなのだろうか?


 自殺する勇気すらないだけじゃないのか? そうヒルコに聞いてみた事もある。

 ヒルコは言った。自殺をするのは勇気じゃないよ。と。生きる方が勇気が居るんだと。

 今の私にはもう、どっちが勇気がいる事なのかよくわからない。

 でも、自殺しようとして出来ないのも勇気が無いということじゃないんだろうか?

 結局諦めて、惰性で生きている私としては、もうこの終わった世界を終わらせるにはさっさと犯罪者にされて始末されてしまうのが良い気がする。


 他人任せなのが辛いところだが、もう諦めているのでどうでもいい。

 とりあえず、猶予期間のこの時期を、他人が同じ道を歩まないようにしてやるくらいしかする事が無い。

 こんな辛い未来は、私だけで十分だ。


「常塚さん。一つお願いがあるので、後で聞いて貰えませんか?」


「お願い? まぁいいけど。バイト終了後でいいかしら?」


「はい。二人きりでお願いします。あと、資料室使いますけどいいですよね?」


「構わないわ。どうせあなたは資料室の主扱いだし、余り向こうをイジメないでね」


 失敬な。あいつらは私を勝手に恐がってるだけなのに。


「それじゃ、先に行って待ってるわ」


「はい。言っておきますが、いつものはやりませんから。これ、フラグじゃないですよ」


「さすがに無理矢理今のあなたを戦場に立たす気はないから安心しなさい」


 呆れた顔の常塚さんがバイトに行ってしまう。

 やや足早なのは時間が無いからだろう。引きとめて悪かったかもしれない。


「あ、あの……資料室ってこれから何をするんすか?」


「言ったでしょ。まずは相手を知ると。これから琴村騨雄が起こした事件を調べる。まずは資料。なくても警察から話は聞けるから。後は被害者との関係や、あの日何が起こったかを自分の足で調べるの。別に参考にする必要もないし、実施する必要もないけど、私はいつもそうやってるから。今回だけは我慢して付いて来て」


「はぁ……」


 魁人は困った顔をしながら後ろを付いてくる。

 ちなみに稲穂は帰って来る途中で病院に収納しておいた。

 精密検査を受けさせるよう看護師さんに伝えたが、起きたら即行私達の元へ来るだろう。


 頭の怪我が大丈夫かどうかだけはしっかり確認しておいてほしいものだ。

 稲穂まで先に死なれるとホントやるせないし。

 まぁ。彼女なら殺しても死ななそうな気はするけど。


「あれ? こっちって警察所の方じゃ?」


「ええ。資料室は共同で使っているの。どうせ何度か向うだろうし、初日に場所を覚えておいた方がいいでしょ?」


「そりゃそうですけど。まぁいいか。どうせ必要になる時知らないよりは」


 私と魁人は資料室へと辿り着く。

 扉を開いた瞬間だった。

 無数の視線が一斉に私達に向けられる。


 歴戦の男たちの視線を浴びて、魁人はさすがに肝を冷やしたらしく硬直していた。

 が、男たちはやってきたのが私と気付くと、慌てたように視線を逸らして冷や汗を垂らしていた。

 そこまで恐いかおのれ等。


「じゃあ、魁人は資料を探してくれる?」


「え? あ、は、はいっ!」


 私の言葉で我に返った魁人は慌てて部屋に飛び込むと、資料棚を探し始める。

 口調が妙に礼儀正しくなっていた気がするのだけど、気のせいだろうか?

 まぁいい。

 私は手短に居た警察の人に近寄ると、ポンっと肩に手を置く。


 びくんっと大仰に身体を震わせた大男は、建てつけの悪いドアのようにギギギと首を回転させる。

 私が背後にいると分かるとさらに冷や汗と脂汗を盛大に流し始めた。

 なんでしょうか? と声を出そうとするが出てこない。

 なぜかそのまま過呼吸に陥って気絶してしまった。

 話を聞こうとしただけなのだけど、仕方ない、次だ。


 男が気絶したので別の警察の人の元へ向う。

 その男は何故か小刻みに震え来るな、来ないでくれと小声で呟き続けている。

 その男の肩に、ぽんっと手が置かれた。


「あ、ああ……ぎゃあああああああああああああっ!?」


 なぜか悲鳴を上げた厳つい男はそのまま泡を吹いて気絶してしまった。

 解せん。なぜ気絶する?

 こらそこ、殺されるとか訳のわからない事を言うな。


 ギロリと一睨みすると、それだけでそいつも気絶しやがった。

 真奈香が調教しただけでなぜこうなっているのか本当に謎だ。

 仕方ない。一人に聞こうとしてダメなら全員に聞くしかない。


「琴村騨雄に付いて知っている人、彼について教えてくれる?」


 その言葉を聞いた瞬間、明らかにほっと安堵の息が無数に漏れた。

 そして互いに顔を見合う男たち。

 お前行け、いや、お前が行けよ。というアイコンタクトが交わされあう。

 どうやら大体の奴が知っているようだ。


「知ってるならさっさと言ってくれない? こっちも時間が惜しいんだけど?」


 少し苛ついた口調で告げると、慌てたように皆が私の傍へ走り寄る。

 そしてなぜか一列になり一人一人が直立不動で報告を始めた。

 一人報告を終えるごとに脇に避けて軍隊の様に整列して敬礼体勢で直立不動になる。

 ……なんだこれ?

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