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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 タテクリカエシ
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死体の無い葬式

 その日、しめやかな葬儀が行われていた。

 霧雨の降る曇った空は、私の心象をよく表しているようだ。

 俯く私の前には、数多くの人々が一様に黒い礼服に身を包み、受付をして参列に向う。


 今日は、上下真奈香、白滝柳宮、両名の合同葬儀である。

 同じ日に死んだ二人を別々の日に送り出すのも、別々の場所で行うのもどうかという話になり、彼らの務めていた妖専用特別対策殲滅課の総指揮官、常塚秋里が人頭に立って葬儀を執り行ったらしい。


 私も、二人の知り合いだ。

 親しい程の……知り合いだった。

 不意に、左手が何かに包まれる。


 視線を向けると、私より小さな女の子が手を繋いでいた。

 私の視線に気づくと、何を言うでもなく、ただ、握る手に少し力を入れてきた。

 斑目稲穂。それが彼女の名前だ。


「稲穂……」


「私は、死なないよ。ずっと『あ』の傍にいるから」


 真奈香は私の親友だ。それはただの親友じゃない。無くてはならない存在だった。

 私の両親でも、恋人でも、上司でも部下でも、誰も代わりなんてできはしない大切な……それなのに私は、私は……真奈香に庇われた。

 私のせいで死んだのだ。


 そして、白滝……隊長は、私の上司に当る人物だった。

 数日前、隊長は組織に裏切り行為を働いたとされて抹殺対応種に指定された。

 だから……私が殺した。

 私は……最高の友人と上司を、殺したのだ。




 そして、この葬式に、真奈香の遺体も隊長の遺体もない。

 病院に向った私は、そこで真奈香の死と死体が妖研究所に移送されたことを、家仏さんに告げられた。

 そしてその移送車が中途の道で破壊されて捨てられていたのだとも。


 遺体がどこに行ったのかすらわからないらしい。

 正直ふざけんなと思った。

 でも、道具として研究されるくらいなら、行方不明になってくれた方が幾分マシだ。


 妖研究所に一泡吹かせられたので少し満足だ。

 きっと三嘉凪さんか止音君が手を打ったのだろう。何をする気かは知らないけど。

 そして隊長の遺体は……見つかりすらしなかった。


 【黴】を受けたのだからこればかりは仕方ない。

 上層部も今回の件を受け、私に危険はないと判断したようだ。

 確かに隊長の能力で過去を変えたことは気付かれたようだが、その目的は親友である真奈香を助けることであると調べが付き、さらに死ぬ予定だった家仏さんを救ったことがプラスになったらしい。

 草壁さんと家仏さんの取り無しで私への反逆罪適応は見送る形となった。

 隊長を、殺したことも……プラスになった。大切に慕っていた相手すら任務のために殺せるのなら問題はないのだと。……ふざけんな。


 ただ、問題はある。

 あの時、逆上した私は坂出那澤を【黴】で殺してしまったらしいのだ。

 【麻桶の毛】の証言によって明らかになり、今はその検証を行っている。

 彼女は私を犯罪者にしたいらしい。色々な場所に精力的に働きかけている。

 おそらく、そう遠からず私の反逆罪が立証されるだろう。

 ……と、生気の無い瞳で常塚支部長に告げられた。


 今は、準備期間なのだ。

 これから始まる終わりの無い逃走劇への準備期間。

 私が死なないために残された少しだけの平穏になる。

 ……もう、どうでもいいんだけどね。


 稲穂が私に付いて行くとか言っていたけど、断った。

 彼女まで反逆罪にされる必要はないのだし、どうせ、すぐに私は殺されるんだろうし。

 道連れはいないほうがいい。気が楽だ。

 隊長の最後を思い出す。

 もう、疲れたと、本当に疲れた顔をしていた隊長。

 私も、多分もう、疲れたんだと思う。


 ヒルコには殺される前に出て行って貰おうと思ったのだけど、もう少し一緒に居てくれるらしい。

 なんか、ごめんねヒルコ。

 こんなことになっちゃってさ。


「高梨さん。少しいい?」


 やってきたのは黛真由と小林草次。

 黛さんはポテトチップの袋に手を入れ一心に食べつつ、そんな黛さんが濡れないように小林さんが相合傘をしている。彼の肩が濡れているのは言わない方がいいのだろう。


「なんですか、黛さん?」


「私が変な事言ったせいで、その……ごめんね?」


「黛さんのせいじゃないですよ。もともとこうなる運命だったんです。私、運悪いですし」


 困ったように苦笑して、泣き濡れる遺族に視線を送る。

 真奈香のご両親には掛ける言葉も見つからず、私は逃げるようにここにいた。

 顔を合わす気になれなかったのだ。


 隊長の遺族は来ていない。

 指名手配がされていたためだろう。関わり合いになって変なことになるくらいなら来ない方が良い。そう思ったようだ。

 ただ、一人だけ。

 私と同じように雨に穿たれる少女が一人、常塚さん曰く、姪らしい。

 そんな少女が呆然と、隊長の遺影を見上げていた。


「なんでかな……やり直せるって、思ったのに、なんでこうなったんだろ……」


 こうなるってわかっていたならば、隊長に会おうなんて思わなかったのに。

 後悔は取り返しがつかなくなってからしか出来はしない。

 あの時ああすれば、ここでこうすれば。

 そう思っても、既に何もかもが終わった後だ。


 もしももう一度、やり直せる機会を作れたならば、私は悪魔に魂を売ってでもそれに縋りつくだろう。

 たとえそれが、妖研究所が私を嵌めるための罠だったとしてもだ。

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