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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四節 麻桶の毛
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壊れた結末

「っあぁッ!」


 気合いを入れた剣閃で声が漏れる。

 これを手の甲だけで弾く隊長。

 蹴りが返しとばかりに降って来る。


 剣が自動で迎撃。

 剣に振りまわされるように一回転しながら隊長に剣を突き入れる。

 紙一重で左に回避する隊長。


 前蹴りが飛んできた瞬間、ヒルコが足を操り私は飛び上がる。

 中空でくるりと回転し隊長の背後に着地。

 間髪いれずに横薙ぎ一閃。

 今度は隊長が飛び上がりこれを避ける。


「ヒルコ!」


 隊長が空から踵落としで降って来る。

 これに対応しようと身体を無理矢理操り受けに入る七支刀。

 蹴りを受け止めた瞬間、私はヒルコに指示を飛ばす。

 名前を呼ぶだけで何をするべきか理解したヒルコが私の腕から剥離する。

 第三の腕となった粘体には、稲穂のナイフが握られていた。


「っ!?」


 隊長の革手袋が浅く裂かれる。

 慌てて過去改変を行ったようだが、残念。このナイフで傷が付けば隊長にとっては面白くない結果が待っている。

 なぜならば、このナイフは紫色。


 紫鏡の世界に繋がるナイフなのである。

 切られればその肉片も皮も衣類も全て別世界へほうり込まれ、回復が出来なくなるのだ。

 今回は革手袋だけだったので問題は無かったが、彼はすぐに気付いたようだ。


 七支刀でもヒルコでもないもっとも厄介な武器。

 それがこの紫色のナイフだということに。

 そうなると、このヒルコに隠された暗器に意識を向けなければならなくなる。


 攻撃する時も防御する時も、素手の隊長はナイフで斬られる危険を常に意識せざるを得なくなるのだ。

 今までより意識を余計に裂かねばならず、私がフェイントやヒルコの攻撃を加えれば、致命的な隙を作らざるをえなくなる。

 そこが狙い目だ。


 別に本気で稲穂のナイフで隊長に危害を加える気はない。

 タダの牽制。アレは隊長の注意を引くためだけのものだ。

 けれど、真剣勝負である以上、私が当てる気がなくても当る可能性はあるのだ。


「っせ!」


 真下からの切り上げ。

 舌打ちしながら右に避ける隊長。そこへすかさず襲い掛かるヒルコ。

 稲穂のナイフを見付けた隊長は慌ててバックステップ。

 そこへ踏み込み上段から襲いかかる私。


 バックステップしたばかりだったからだろう。

 隊長は苦悶を滲ませ左腕を真上に掲げた。

 七支刀が隊長の左腕に食い込む。

 私の攻撃では切断には至らない。

 でも入った。隊長に一撃がついに入ってしまった。


 鋭い蹴りが飛んでくる。

 フォローを行いたいだろう七支刀は彼の腕に入り込んだままだったため、蹴りは私の腹部に突き入れられる。

 呻く私だったがダメージは皆無だ。ヒルコがダメージを吸収してくれたらしい。


 隊長から離れた私。

 七支刀が腕から離れたからだろう、隊長の身体が一瞬ブレる。

 次の瞬間には彼の左腕から切り傷が消えていた。


「大したものだ。本当に……知らない間に強くなったな有伽。身近にいたのにこの急成長には気付かなかったぞ」


「全て借りモノの力です隊長。私自身はただの垢舐め。なんの実力も無いちっぽけな妖使いです」


「だが、そんなお前だからこそ無数の妖たちが力を貸しているのだろう。まさに妖に好かれし者。妖少女と言ったところか」


「さすがに安直すぎません? まぁ……ただの垢舐めだというよりはいいかもですね」


「だが。やはりお前をこちらの道に引き込む訳にはいかんな。引き返して貰うぞ高梨有伽。こちらへは来るな。死に向うには早すぎる」


「いつかは死ぬのが人間です。真奈香だって私と同い年ですから。だから。隊長。本当に私の事を思うなら、行かせてください」


 隊長は答えず、息を整える。

 何かを決意したように、先程までとは雰囲気が変わった。

 全力で来る気みたいだ。


「断る。お前を行かせはせん。業を背負うのは大人だけで十分だ」


「業なら既に背負っていますっ」


 両者同時に地を蹴った。

 私の一撃が初手だ。斜め下からの切り上げ。

 半歩踏み込み片側に身を寄せた隊長がその剣を追うように足を振り上げ爪先が剣を弾き飛ばす。


 が、飛んだ剣をヒルコが掴むと上空からの一撃。

 隊長はこれを右腕で受け止める。

 さらにがら空きの私に左拳が襲い掛かった。


 でも大丈夫、ヒルコのガードが私を……!?

 私の顔に拳が当るその刹那、ぐわりと開かれる隊長の左手。

 驚く私に掌が押し当てられた。


 ゾクリと背筋が硬直する。

 マズいと思った私は咄嗟に稲穂のナイフを突き出していた。

 私の過去を改変して無防備にするつもりだった隊長は、きっと無意識だったのだろう。

 迫りくるナイフを身体に染みついた動作そのままに私の腕を返し、私自身に突き刺していた。


 しまったと焦った顔をする隊長。

 でも大丈夫、紫鏡は私の身体を向こう側に入れる事は無い。なぜなら私の肉片を入れた時点で向こうに【黴】が蔓延するからだ。

 さすがの紫鏡も自爆をする気は無いらしい。


 だが、別の問題が発生した。

 私の腹から飛び散る【黴】が……隊長に飛び散っていた。

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