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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 貧乏神
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嵌められた

 結果を言えば、成功だった。

 しかし、変な感覚だ。

 ビルの壁に吸いつくようにひっつく自分の掌を見る。

 できるなら両足も着きたいところだけど靴が邪魔だ。

 さすがにここで脱ぐ訳にもいかない。


 なので生身の接着面を多くするため、やはりゴキブリのようにべたりと壁にひっつくひつようがあるようだ。

 この際は仕方ない。仕方ないけど、ああクソ。どうにでもなれっ!

 今は体裁よりも追い付くことだ。


 ビルを這い上り一番近くの蜘蛛糸にヒルコに引き上げて貰う。

 よし、まだあのくらいの距離なら追い付ける。

 行くぞ!


 再び蜘蛛の糸を辿っての追走劇。

 止音君が度々こちらを振り向いてくるが、小笠原はひたすらに走る。追い付かれるとかは考えずただ逃げるだけを考えているよう……違うな。必死に足元を確認している。どうやらそちらに意識を全力で裂いているだけのような。


 私は何度か踏み外しそうになるものの、なんとか体勢を整え徐々に三人に近づいて行く。

 そろそろだ。もうすぐ、もうすぐ射程内に入る。

 舌の射程内に……入った!

 いっけぇぇぇぇぇ!!


 私は口から舌を吐きだす。

 普通の舌ではありえない程に伸ばされた舌が小笠原に抱えられていた静香の足に絡みついた。

 ぐっと引っぱると向こうもバランスを崩しそうになって立ち止まる。

 小笠原が初めて私に気付いたとでもいうように舌打ちする。


 私は静香を引っぱるが、さすが剛腕。私の舌力じゃ小笠原には敵わない。

 なので、自分から向う事にする。

 私の引っぱりに対抗して小笠原が引っぱった瞬間、私は引っぱられるままに彼らの元へと舌を巻き取り接近する。

 気分はボタンを押された掃除機の電源コードだ。


 離れた距離を一気に詰め去り、私は小笠原に突撃する。

 さすがにこの足場が悪い場所に頭突きで突撃されては、さしもの小笠原といえどもバランスを崩すようだ。

 驚き慌てながら蜘蛛糸からの落下を危惧して青い顔で倒れ込む小笠原。

 糸に引っ掛かった巨体が落下することはなかったが、肝が冷えたのは確かだろう。

 こいつのことだからこのくらいの高みから落下したところで無傷の様な気もしないでもないけど。最初に出現した時も高所から降って来てたし……あ。そっか。それで地盤沈下で落とし穴に嵌ったせいで落下に対する恐怖でもできちゃったかな?


「参ったな。まさかもう追い付かれるとは。さすがだね高梨さん」


「ふぅ。こっちも命がけだってば。さぁ、隊長の居場所、教えてもらうよ!」


「……ごめん。こっちは、外れなんだ」


 ……は?

 私の目の前で、カメラのフレームの様に私を観察する静香。

 まさか……


 徐々に静香の姿が私に変わる。

 ……やられた。

 もう一つのほうだったらしい。


「じゃあ、俺達はこの辺で」


 呆然とする私を尻目に、止音君たちが逃げていく。

 もう、私に彼らを追う気力は無かった。

 完全にしてやられてしまった。

 黛さんが何とかしてくれるのを待つしかできそうにない。


 私は近くのビルに降りるとそこから下の街道へと戻る。

 折角隊長の元へ繋がる道だったのに。

 多分これ以降は止音君も居場所を教えてくれないだろう。


 街道を歩きながら溜息を吐く。

 ヒルコが元気づけようとしてくれるが、もう、どうやって隊長を探せばいいのか、手が見当たらない。

 そんな私だったけど、不意に、感覚器に触れた。

 妖能力を感知する感覚器に、複数の妖反応が一塊りになった何かが居るのが触れたのだ。


 驚き顔を上げれば、前方からゆっくりと歩いてくる一人の少女。

 まるで死を連想させるような不気味な紫の髪を靡かせ、セーラー服を風に揺らす少女がそこにいた。

 川辺……鈴?


 だんだん、だんだん近づいてくる。

 恐怖? 意外? 驚き? なんだかよくわからないけれど、私は呑まれたように動けずにいた。

 そんな私に一歩、また一歩と確実に近づいてくる。


 ついには目の前に。

 殺される!? 思った瞬間、彼女はすぐ隣を通りすぎる。

 全身が心臓になったかのような強い拍動を行いながら、彼女が傍を通るのをただただ呆然と許容していた。


 本来なら、彼女は見つけ次第抹消しなければならない存在だ。

 でも、動けない。動く気にすらならなかった。

 こんな場所で出会うはずがなかったのだから、固まって当然だ。

 そんな彼女は、横を通り過ぎる瞬間、私に囁く。


「国原市、駅前。待ち合わせ場所はそこよ」


 その言葉にはっと我に返る。

 川辺鈴が不敵に笑う。

 が、そのまま何をするでもなく歩き去って行ってしまった。


 私が動けたのは、彼女が手の届かぬ程に後ろに通り過ぎて行った後だった。

 私など、いつでも殺せるとでも言うように、背中を見せて去って行く。

 今のは、一体……

 いや、まさか、教えて……くれた?

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