犯罪者との会談
……え? マジで?
私はその建物を見上げて唖然としながらも口を開く。
すぐ横には私のパートナー役として一緒に着いて来させられた黛さん。
物凄い勢いで飛び出し別れた手前、一緒に行動とかかなり恥ずかしいんですけど。
まぁそれはいい。
坂出係長に連れられ三人でやってきたのは、なんと路地裏の一角に聳え立つ立派な、立派な……ラブホテルでございます。
なぜに?
ちょっと坂出さん、まさか私達引き連れて此処に入る気か?
さすがに絵的に色々問題があるぞ。
「報告ではこちらの横にあるビルの屋上から出入りしているらしい。行くぞ。戦闘になるかもしれん。気を張っておけ」
「はい」
よかった。この三人でラブホに入るのかと焦った。
隣のビルに登るのか。
私は思わず黛さんを見る。
「何? 私はあなたのハーレムに入る気はないけど?」
「いや、入るも何もそんなモノ存在してませんから……」
何も言っていないのに的外れな回答しないでください。
というか、その噂どこから聞いた……ってたぶん小林さん経由ですよね。
どんな話をしてるんだ小林さん。
私達はビルを登る。
屋上へと辿り着くと、ラブホテルの一室の窓が丁度このビルの屋上すぐ上に位置する場所に存在していた。
私達が来る事を事前に察知していたのだろうか? 紫色の髪を持つドリルヘアの少女が窓から身を乗り出してこちらに笑顔で手を振っている。
ちょ、ラブホで発見出雲美果……って、あんたなんて場所に潜伏してますか!?
しかも私達見て手を振ってるし!?
相手もバレテる事は知ってるってことか。
どうなってんのこの犯罪者ども!?
愕然とする私を放置して、出雲美果がよっと身を乗り出してビルの屋上へと着地する。
坂出係長と黛さんが前に出て自己紹介を始めだした。
だから、それでいいのかあんたたち!?
なんかいろいろ間違ってますよ坂出係長!?
「はっはっは。いきなり敵がやってきたと思ったら話を聞きたいだけとか抜かして驚いたが、そうかそうか。君が来たのか高梨君」
無駄に元気な声がラブホテルの一室から轟く。
出雲美果に続くようにその巨体を窓から突き出し、屋上へと降りて来る巨漢の男。
三嘉凪良太……親玉が出て来たし。
「すまないが、話し合いの記録は取らせてもらう」
「おや、本当にそれだけでいいのかい? 我々を殲滅させることもできるだろう?」
「支部長は殺しても死なないから無理。無駄な事は止めるべき」
相変わらずタイヤキを食べつつ喋る黛さん。
その言葉を聞いて三嘉凪さんが目を丸くする。
「お、おおぅ。驚いた。ついに出所かね黛君」
「御蔭さまで、復帰しました」
軽くお辞儀をしながらバケットを取り出し食べ始める。
「なるほどなるほど、さすがに今奴に抜けられれば処理班の戦力がガタ落ちだものな。それで穴埋めに君か。余程切羽詰まっているらしいなそっちも」
「そんなことより話。さっさと終えるべき」
黛さんが淡々と促す。
私はようやく我を取り戻し出雲美果に向って近づいた。
多分、既に相手の有効範囲に入ってる。
私達三人、やろうと思えば出雲美果は一瞬で殺せるはずだ。
「ええと。犯罪者と楽しく談笑なんてことをする訳にはいかないので、私の話は全て出雲美果に似た女の子へ向けて放たれたモノとさせていただきます」
「あはは。形式ばるね有伽お姉ちゃん。そう言う訳らしいから三嘉凪さん、話しかけてはダメよ」
「まぁいいさ。丁度そろそろ潜伏場所を変えようかと思っていたところだしな。この話し合いを終えて君を安全に脱出させられたら私達は地下に籠るとしようか」
「えー。下水生活とか臭い付くの嫌なんですけど」
「そういう問題かね……」
出雲美果の言葉に呆れる三嘉凪さん。
私達が待っていると気付いた様で、軽く咳をして一歩下がった。
「で、なにかしら?」
「あ、えっと、一応最初の確認ですけど、たいちょ……元隊長の白滝柳宮の居場所、知りませんか?」
「白滝さん……ねぇ」
不意に、出雲美果は三嘉凪さんに一度視線を向ける。
しかしすぐに逸らして私に視線を向けた。
「簡単に言うと、わたしは知らないよ。わたしは……ね」
その意味ありげな言葉に、私だけでなく坂出係長も気付いたようだ。
「つまり、他のメンバーである誰かが知っている。そういうことか」
「うふふ。どうでしょう? もしかしたら一緒に行動してたりするかもですね」
小悪魔的な笑みを浮かべて微笑む出雲美果。
どうやらヒントも何も教える気は無いらしい。
でも、確証は得られたと見ていいかもしれない。
隊長は、彼らとのコンタクトを成功させたのだ。
けど、私達は出雲美果とは話せるけど、犯罪者としてマークされている三嘉凪さんと話す事は出来ない。
幾ら情報提供とはいえ、犯罪者に援助を仰ぐと言うことは、それもまた犯罪であるという事にもつながる。
まぁ、この会合自体犯罪者を放置してると言われても仕方ないんだけどさ、一応、出雲美果は犯罪者になってないのでギリギリグレーゾーンかな?
坂出係長も三嘉凪さんに視線を向けている。
多分、彼は知っている。隊長が今、どこにいるか。そして何をしようとしているか。
でも、彼に聞くことはできない。




