疑う者
とはいうものの、隊長の居場所は依然不明だったりする。
さて、行くべき道は決まった。
方法も見つけた。
後必要なのは一つだけ。
そして、見つける方法も、知っている。
借りを作るのはちょっと癪だけど、きっと、彼なら……
教えてくれるかどうかじゃない。どうなろうとも吐いてもらう。
拒否は絶対に許さない。どうせこの世界を一度リセットさせるんだ。
だから、手段はもう、選ばない。必ず真奈香を取り戻す!
電話をかけようとしていると、背後に人の気配を感じた。
「何をしている、高梨?」
「あれ? どうしました坂出係長?」
電話を仕舞って聞いてみる。
素の表情で疑問符を浮かべていたせいか、坂出さんは気のせいかと呟き寄ってくる。
「依然白滝の居場所が分からない。君が今、連絡を取ろうとしているのかと思ってな」
「ああ、そういう訳ですか」
普通に言ってくるかそういうこと……まぁいいけど。
「ある知り合いに連絡入れようかと思ったんです。借りを作るのは癪ですけど、隊ちょ……白滝柳宮を見つける方法を持ってますので。白滝柳宮には一度連絡を取ってみましたけど通話には出ませんでした。丁度叛逆を知ってすぐですね証拠は……まぁ翼にでも聞いてください」
「それは聞いている。捜査協力の方だったか、疑ってすまないな」
疑う。か。いや、私の行動を見続けて見れば不審者丸出しなのはわかる。
塞ぎこんでいたと思ったら急に携帯弄りだしてどこかに電話をしようとしているのだから。
しかも黛さんほっぽって廊下の一角でだ。
「気にしてませんよ。で、そっちは少しくらい手がかりないですか?」
「残念だが、ない。三嘉凪の潜伏先にも見張りを送ってみたが、いなかったらしい」
三嘉凪さんの潜伏先って……あの人ら放置されてんの?
見つけ次第抹消対象じゃなかったっけ?
「ん? ああ……相手は一応総司令官の弟なのでね。下手につつく訳にもいかないのだ」
……待て。なんか引っかかった。
何かおかしい事がある気がする。
三嘉凪さんの居場所を知っているってことは、そう、内部人員も把握していなければおかしい。
内部の人間には誰がいた?
出雲美果。
グレネーダー本部は、出雲美果が生きていた事を把握している?
……まさか、ね?
さすがに、問いただしてみる気にはなれなかった。
ただ、確信に近い予感だけは、持っていた。
そして、それが翼に伝えられていない理由も、うすうす、理解できた。
薄ら寒い何かを感じる。けど、坂出係長に気付かれないよう気を付けなきゃ。
「あ、そうだ。もしかしたらその人たちが知ってたりしませんか?」
「可能性はあるが……誰が聞けるというんだ」
それはそうだ。
「……えっと、聞いてみましょうか」
「おいおい、抹消対象と関係を持つのは反逆だぞ?」
「あ、いえ、三嘉凪なんとかじゃなくて、その中に一人だけ抹消対象に指定されていないのがいるので」
思わず、言ってからマズったかなと思う。でも、
「……ああ、なるほど」
合点がいった。と坂出係長は顎をさする。
「出雲美果……の偽物だな」
名前を出して思わず周囲を見回す。
私達以外居ないと分かると、咳をして偽物、と付け加えていた。
「確かに、奴は指定はされていない。一度死んだ人物を再度犯罪者にはできんしな」
「どうします?」
彼女に合う方法はないのだけど、なんとかしてみよう。
潜伏先に行けるくらいだから坂出係長経由で呼び出すのもアリかもしれない。
どの道話してくれるかどうかわからないけどね。
「まぁ、許可しよう。素直に吐くとは思えんがな。だが、俺も同行させてもらうぞ。貴様まで裏切り行為を働かれては困るからな」
「信用されてませんね……」
「当り前だ。信頼は裏切りを呼ぶ。ならば先に疑うだけ疑っておいて損はない。近づいてくる者をいちいち信頼していては俺はすでに無一文になっているからな」
ああ、そっか。この人貧乏神だもんね。疑り深くなるのは仕方ないってことか。
ちょっと、理由が理由なので呆れてしまったのは秘密だ。
私を疑う理由がそこから来るって……可哀想に。
きっと今まで能力のせいで沢山の裏切りに会って来たんだろうなぁ。
私もこの人に近寄らない様気をつけよう。
確か接触するだけでも貧乏が感染してしまうとか聞いたし。
お金が無くなるのは死活問題だ。絶対に失う訳にはいかない。
という訳で、私も坂出係長からかなり離れて歩くことにした。
出雲美果に会うと決まると、迷いなく歩きだす坂出係長。
どうやら直接相手の潜伏先に向うらしい。
両方にツッコミ入れさせて貰っていいですか?
それでいいのかグレネーダー。
三嘉凪さんも、バレてますよ潜伏先。
そして、突撃、潜伏中の出雲美果。今、会いに行きますからね。
貧乏神を引き連れて……ね。
貧乏を届けに来たぜ。……なんつって。




