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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 貧乏神
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光明

「真奈香さん、死んだのね」


 不意に黛さんが声を出す。

 その言葉は的確かつ冷酷に私の精神に突き刺さる。

 ただ事実を告げただけの言葉なのに、責められているように感じるのは私の気のせいだろう。


「そう、ですね。ボクの不注意で……犠牲に」


「それで、塞ぎこんでるの?」


「真奈香が居ない世界なんて……もう……どうでもいいです」


「……そう。隊長より弱いのね、あなた」


 何とでも言って下さい、どうせ私なんて……隊長より?

 その言葉は、見逃せるはずもない言葉だ。

 隊長より弱いって、どういうこと? 隊長に真奈香みたいに大切な人がいたとでも?


「どういう、ことですか?」


「隊長の彼女の話、知らない訳じゃないでしょ?」


 そうか。

 隊長は……斑鳩入鹿を自らの手で……そうだ。

 隊長も、大切な人を死なせてしまったのだ。

 それでも、隊長は今も生きている。


 そうか……隊長は、こんな思いをしてからも、しっかりと生きてたんだ。

 はは、そりゃ強いよね。憧れるくらい素敵だよ。

 私には……無理だ。


「方法はあるでしょ?」


 黛さんはどうでもいいと言うように、クレープを食べながら言う。

 しばらく、言われた事が頭に入ってこなかった。

 ようやく何を言われたか分かって、思わず身体を起こす。


「あ、あるんですか? 私に何か、真奈香に何かできるんですか!? 一体何が……」


 席を立ち、迷える羊のようにふらふらと黛さんへと歩み寄る。

 藁にでも縋る想いで黛さんのチョコだらけの右手を握る。

 お願いです、私に出来る事ならなんでもするから。

 だから、真奈香を助ける方法、あるならおしえてくださいっ!


「隊長の妖。釣瓶火は、対象者を一度だけ、もっとも後悔する過去に戻し、やり直す事ができる」


 あ……

 その瞬間、目の前が急に開けた気がした。

 天から光が差し込んでくるような、不思議な感じ。


「隊長の……能力」


 言われてみれば、確かにそうだ。

 隊長の妖は、過去に戻る力を持つ妖。

 今の私にとって、唯一の希望。なぜ、そこに思いがいかなかったのだろう。


「もしかして、もう使ってる?」


「ううん。それはない。うん、いける。いけるよ黛さんっ」


 あまりにも嬉しくて、私は黛さんに抱きついた。

 どうしよう。私ノーマルなのに、今、黛さんなら抱かれても良いかもとか思ってるんですが?

 女神様にしか見えない。小林さんや翼が信頼している理由がよくわかった気がする。


「ありがとっ。ありがとうっ。私、私……」


「でもね、高梨さん。隊長、今敵だから、あの人の力を使うなら、あなたもグレネーダーを敵に回すことになるわ」


 思わず、力が抜けた。

 せっかく見えた光明が閉ざされる。

 そうだった。隊長は今、グレネーダーの反逆者。


 その力を借りるなら、私も反逆者の仲間入りだ。

 きっと、真奈香を助けても、その事実はやり直せないだろう。

 そうしたら、真奈香と共に反逆者にされるかもしれない。

 そんなことは……せっかく出来た居場所を捨てることなんて……


「あなたには、ある?」


「なに……が?」


「世界を敵に回しても、親しい者と殺し合うとしてでも、天に弓を引く決意が」


 問われて、言葉に詰まる。

 いきなり言われて答えられるものじゃなかった。

 けれども、真奈香を生き返すことができるのは、そこまでの覚悟がなくちゃいけないってことだ。


 自分が今いる居場所を捨ててでも、取り戻したいかどうか。

 どうなの私?

 私の人生と真奈香を天秤にかけて、私は……


「決まってる。もう決まってるよ……」


 そうだ。決まっていた。そんなもの、秤にかけるまでも無い。

 だってこの世界に真奈香はもういないのだから。

 その居場所に、私の居場所はないのだから。

 だったらもう、迷う必要など欠片すらない。


 真奈香。私、次は絶対に間違えない。

 もう、真奈香に守られるだけの存在ではいないから。

 必ずあの憎い肉塊から救いだす。絶対に、殺されたりしないから!


「そう? なら、それを行動に移すだけよ」


「うん。ありがと。ありがと黛さんっ」


 私は、名残惜しむように黛さんから離れる。

 今更ながら気付いたけど、黛さんのチョコ塗れの手を握った手で抱きついたから黛さんの服がチョコ塗れだ。

 ……ごめんなさい。


「もし、黛さんが男なら、私、たぶん惚れてました」


「そう。光栄ね」


 鳩サブレを食べながら、黛さんがほほ笑む。

 なるほど、よくわかる。この人は、翼や小林さんが頼りにしたくなる程、面倒見のいい人だ。

 冷めてるように見えて、ちゃんと相手の事を想いやってくれている。

 本当に、私、惚れそうです。いや、ホントにそっちの道には行きませんけど。


「行ってきます」


 その言葉で、黛さんは理解したらしい。


「さようなら高梨さん」


 花あわ雪を食べながら微笑む黛さんに頭を下げて、私は彼女に背を向ける。

 彼女とは敵対関係になるのだろう。

 でも、でも真奈香を救うためになら、いつか、きっと分かり合えると信じよう。

 大丈夫、私はきっとやり直せる。

 真奈香が居てくれるなら、私は私に絶望しない。


 隊長を探す。

 たった一度の奇跡の為に。

 私の人生の全てを賭けて。


 真奈香。待っててね。

 私が、必ず救うから。

 今までずっと救われてばかりだったから。今度は、私が真奈香を……救ってみせる。

 この命を、賭けてでも。

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