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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 貧乏神
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補充要員

 世界が終った。

 真奈香がいなくなっただけで、私を取り巻く何もかもがなくなったようだ。

 もう、どうにでもなればいい。


 隊長が裏切った? だからなに?

 どうでもいいんだ。

 真奈香が居ない世界なんて……


 しかも私のせいで……

 許せない。自分自身が憎い。

 何の対応もできず真奈香に庇われた自分が。


 どうしよう? どうすればいい?

 私は、もう何も出来ないの?

 坂出係長たちと共に作戦会議室に戻った私は、ただただ塞ぎこむしかできなかった。


 同じように家仏さんたちを失くした草壁さんたちも同じなのに、彼らはすぐに次の仕事をするそうだ。

 なぜ気持ちの切り替えがそんなに早いのか全く理解できない。

 だって、私にとって唯一といっていい親友が……消えたのだ。

 いつも通りなんて出来る訳がない。


 しばらくすると他の面々もやってきて、坂出さんから事情を聞いて愕然としていた。

 稲穂が私の隣に座る。

 身体を寄せてくるが、何をするでもなくただ無言で密着するだけだった。


「さすがに、このままでは作業に支障をきたすだろうな」


 坂出さんはため息を吐き全員を見回した。


「やはり、呼んでおいて正解だな」


 呼ぶ?


「呼ぶって、何をっすか?」


「新人だ。さすがに前の係長が居なくなった以上お前達との作戦行動に不安出るだろうからな、適任者を連れて来て係長補佐をさせるつもりだった。が、丁度いいので新人として再度迎え入れる」


 言葉を切って作戦会議室のドアに視線を向ける坂出係長。


「上下の抜けた穴を埋めるため、新人を紹介する。入れ黛」


 坂出さんの言葉で部屋に入って来たのは、私の見知った人物だった。


「久しぶりね、これから皆と一緒に仕事をするわ。黛真由よ」


 チュロッキーを食べながらやって来たのは、【餓鬼】の妖使い、黛真由。

 病院で入院中だったはずなのだが、そんな病弱さなど嘘のようにしっかりとした足取りで私の隣に座った。

 ポケットからチョコボールを取り出し一気に口に流し込む。まるでジュースを飲むようだった。


「皮肉な話だけど、私が受けていた罰が撤回されたわ。草次が副隊長のままだから、あなた達の結束に支障は無いでしょ?」


 どうでもいいというように言ってくる黛さん。

 でも、私にとっては支障だらけだ。

 もう、真奈香がいないのだから。


 それでも、黛さんを知っている小林さんや翼は、少し持ち直したらしい。

 嬉しさが顔に滲んでいた。

 やはりこの人も、かなり信頼されていたんだろう。

 私も、この人が副隊長時代の時に居られたなら、彼らと同じ顔ができただろうか?


「では、引き続きヤツの捜索を行ってくれ。黛は高梨のフォローを頼む」


「了解です、係長」


 巨大ビックカツの攻略に取りかかりながら、黛さんが答える。

 稲穂が不満そうにしていた。

 私も残ると駄々をこねる稲穂だったが、小林さんと翼に引っぱられ泣きながら私から離されていった。


 そして、作戦会議室に、私と黛さんが残される。

 机にうつ伏せる私を前に、黛さんは一度部屋から出て、買い物袋を左右三つづつ、中身に食料が大量に入ったモノを持ってきて、食料を周囲に広げる。

 その後はただひたすら食べ続ける様を見せつけてきた。


 チョコ棒を食べ、レトルトカレーで喉を潤し、炊飯器に入ったご飯をしゃもじで食べ始める。ついでにしゃもじも食べていた。

 それが済むとポップコーンLカップを流し込む。

 さらにツナ缶を開けつつポッキーを齧り、ツナを食べながら次のおでん缶を開けている。

 本当に、食べるか食べる為の行動をしているかしかしていない。

 さすがにこれだけ横で食べられていると、悩んでいるのが馬鹿らしくなる。


「……トイレ中とかでも、食べてるんですか……」


 沈黙というか、暴食に耐えきれず、私は話しかける。

 さすがに自分でも分かる程に弱々しい声だった。

 内容はどうでもいい。なんとなく思った疑問だ。


「トイレなんて行く時間が勿体無いわ。アレは身体の老廃物を吐きだす行為でしょ? 私には必要のないものよ。全て吸収してしまうから。まさに空想上のアイドルみたいなものよね」


「そうですか……」


 …………

 再び沈黙。黛さんの咀嚼音だけが無限に続く。

 ダメだ。やっぱり会話が続かない。

 いつもなら真奈香がフォロー位はしてくれただろうけど、今の私には何とかしようとする気力すらなかった。


 本来なら前々から居たらしい黛さんの復帰を喜ぶべき何だろうけど、無理だよ。

 私は……黛さんを無視して虚空を見つめることにした。

 今はただ、何も考えたくない。


 ごめんね真奈香。私、やっぱり真奈香の居ない世界なんて……耐えきれないよ。

 折角助けてくれたのに、どう生きていけばいいか全然分かんない。

 どうしたらいいの? 助けて真奈香……真奈香ぁ……


 ふと、隣から咀嚼音が途絶えていたことに気付く。

 不自然に思って隣に視線を向けると、黛さんが私を見ていた。

 憐みではない、蔑むでもない。ただ、失望したような目を向けていた。

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