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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 のっぺっぽう
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浸食者 VS 浸食者

「真奈……」


 肉の波に飲まれる寸前、真奈香が何かを言った。

 口元の動きだけが嫌に鮮明に見えた。

 ナニしてるの真奈香? そこ危ないよ?

 笑顔のまま、バイバイ。というように真奈香の姿が消えていく。


 待って……ダメ。それはダメだ。

 現実感が喪失する様な衝撃に、私は思わず手を伸ばす。

 私を助け出したことで逃げ遅れた真奈香が……全てを喰らう肉に……飲まれ……た?


「真奈香――――――――――――ッ!?」


 嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ。

 真奈香が、真奈香が……死ん――――


「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッ」


 それは、本当に自分から放たれた悲鳴だったのだろうか?

 絶望の慟哭が響き渡る。

 一瞬で何もかも分からなくなった。

 自分が今どういう状況かすらわからず、ただただ泣き叫ぶ。


『有伽、肉が来てるッ』


 嘘だ。真奈香が死ぬなんてあり得ない。

 あり得ないあり得ないあり得ないッ。

 言ったんだ。ずっと一緒だって! 大切にするよって!

 なのになんで! ずっと、ずっと守ってくれるって言ったのにっ!!


「高梨ッ! 逃げるぞ! 上下が作ったチャンスを潰す気か!」


 チャンス? 真奈香が作った? 何を、そのせいで真奈香が、真奈香がっ!!


「ああクソッ、お前まで死ぬ気かよッ」


 襟首が掴み取られ、引っ張られる。

 首が閉まる息苦しさで、少し、我に返った。

 もがきながら相手を見ると、翼が私を引きずって走っていた。


「待って! 真奈香が! まだあそこに真奈香がっ!」


「遅ェッ! もう死んでるッ! 現実を見ろ馬鹿野郎ッ!!」


 パシンと音が鳴った。

 頬を叩かれたと気付いた時には、再び手を引いて翼が走り出していた。

 

「あの肉は全てを喰らって増えるんだ。もうすでに肉の一部になっちまってんだよッ。死んだ奴は諦めろ。今は生き残ってあの肉を殺すことだけ考えろッ」


 真奈香が、あんな肉に殺されたっていうの? そんな訳ないじゃない。

 きっと真奈香はあの中で私の助けを待って……待って……

 うぅ。わかってる。わかってるよそんなこと。

 私のせいで真奈香が死んだ事くらい。身代わりになるって、私が生きてる間は有伽ちゃんを死なせはしないって、ずっと言ってたもの。


 ……そうだよね。真奈香。

 せめて、真奈香の伝えたかった事だけは、やらないと……

 真奈香は言っていた。か……び。彼女の最後の言葉はそれだけだ。

 意味などすぐに理解できる。でもソレをすれば、もしかすればあの肉の中で生きているかもしれない真奈香をも殺すことになる。


「ヒルコ、ナイフ……」


 観念するように、私は呟いた。

 右手に、ヒルコがナイフを取り出し握らせる。

 やりたくない。まだ、生きてる可能性だって……でも、でもッ。

 アレを放っておけば……街が、世界が、罪もない人々が……死ぬ。

 それだけは……避けないと。


 そうだ。あいつが……あいつさえいなければッ!!

 憎しみを持って迫る肉壁を睨みつける。

 絶対に、絶対に許さない。


 この妖に意志はない。

 ただ近くにある者を片っ端から肉にするだけの存在だ。

 でも、こいつさえ生まれなければ、いや、そうじゃない。

 こんな奴に怯えて動けなかった私こそが悪い。


 そうだ。真奈香は私が殺したんだ。

 愚かだった私が。

 未だこの処理係の仕事を遊び感覚としか思っていなかった私が必然的に生み出してしまった犠牲だ。


 私は翼の腕を振りほどき肉共の前に躍り出る。

 自分の腕に傷を付ける。

 途端、出番が来たと溢れだす黒きモノ。

 それは絶望であり、希望。そして私の意思を汲み取るモノだ。


「分かってるよね? アレを喰らい尽くして。絶対に……確実に、塵一つ残さずにっ。この世界から消滅させてっ!!」


 それは独りでに地面へ落ち、周囲を巻き込み増殖を始める。

 まるで私の意志が分かっていて任せろとでもいうように、とんでもない速度で全てを喰らい増殖を始める。

 私の前方へと広がり始める暗黒の絨毯。

 それが、肉の波へと浸食を始める。


 浸食者である肉の妖怪のっぺっぽう。

 対するは同じく全てを喰らう浸食者、黴。

 互いに相手を喰らい合う。


 肉が黴を取り込み肉へと変える。

 黴が肉を喰らい黴へと変える。

 黒と肌色が斑に入交り、互いに互いを喰らい合う。

 喰らい喰らわれ、減っては増えて。


 お互い一歩も譲らず喰らい合う。

 この世界で、最も不毛な争いだ。

 その戦いに勝負は付かない。


 私はもう片方の腕にも切り込みを入れる。

 体内に住む黴全てが出て行くかのような感覚がした。

 のっぺっぽうと同じく、放っておけば世界を飲み込む凶悪な妖【黴】。

 私の身体に寄生している彼らは、まるで意思を持つように肉の塊へ向け一直線に増えていく。

 後は、ただ眺めるだけ。

 もしも、あの中に真奈香が生きていたとしても、【黴】のせいで……


 私はその場に崩折れる。涙が溢れ、身体から力が抜けていった。

 両手から【黴】を垂れ流し、目の前の地獄を見つめ続ける。

 私が、殺したんだ……

真奈香を、私が……

 名前:  塚地つかじ陽大ようだい

  何の変哲もない一般人。突如能力に目覚めたタイプ。

  のっぺっぽうを覚醒し、その肉に飲まれて死亡する。

 特性:  ギャル男

 妖名:  のっぺっぽう

 【欲】: 増殖する

 能力:  【肉化】

       触れた有機物を自身の肉化する。

      【不老、超・能力】

       肉を食べると若返りを行い怪力を得ることができる。

       ただし、肉を食べる場合は本体から切り離してからでなければならない。

      【膨張】

       時間が経つ程に自身の肉が膨張して行く。

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人によって範囲は異なる。

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