暴走する妖
因幡さんの言葉はなぜだろう? 前田さんに通じるモノがあるんだけど。
緊張してるからだろうね。
私と真奈香の視線を気にしながら何とか声を出している。
「さて、そろそろいいか? 本題に入ろう」
私達の動きを見ていた坂出係長が切りが良さそうだと判断して口を開く。
坂出係長は言葉を吐き終えると件の人物、塚地陽大に視線を向ける。
知り合いらしい二人と突然出現したグレネーダーの面々に怯えている。
「やあ、初めまして。グレネーダーの坂出というものだ。悪いんだが塚地陽大。君を確保させて貰う」
「か、確保? な、なんでだよ? 俺は妖使いでもなんでもねぇし!?」
ようやくここに自分たちがいる理由を知った彼らは塚地以外が安堵する。
対して、塚地は何故自分が確保されるか意味が分からず憤慨した顔をする。
しかし、ソレも坂出係長の眼光で見つめられるとうっと黙ってしまった。
「【件】という妖使いを知っているかな?」
「あ? あ、ああ。なんか変な予知して即行死ぬ奴だろ?」
件。それは獣が生み出す奇形生物だ。
何故か死に掛けで人の言葉で危機を告げると言う。
確かオスが未来の予知でメスがその予言を回避する方法を告げるんだっけ?
でもどこで生まれるかは分からず、同じ場所で生まれる事もないそうだ。
そんな件の能力を使う妖使いがグレネーダーにはいるらしい。
そして、件は言った。
この塚地が何かを起こすのだと。
「少し前のことだ。お前の容姿、特徴、そして名前。本日間もなく、妖使いとして目覚めると。そしてその妖能力は早めに手を打たなければ日本に壊滅的ダメージを与えると。よって君の妖能力の覚醒、危険度の調査が終わるまでの間、君の身柄を拘束させてもらう。国家安全上、安全が確認されるまで君の人権は無い」
さすがに人権が無いと言われると彼としても寝耳に水だったよで、思わず「はぁっ!?」と声を荒げていた。
まぁ、いきなり現れて君が危険人物になるから安全確保されるまで拘束するとか言われたらイラッと来るよね。
でも、相手は国家権力な上に自分の人権を無視すると言っている。
つまり逆らえば確実に人権無視の拘束、最悪殺されて闇に葬られる。
逆らいたくても、自分の命が掛かっているのなら、さすがに何も出来はしなかった。
ギリッと唇を噛む塚地。
仲間の二人は坂出係長の言葉に自分たちは関係ないと塚地を見捨てるように距離を取る。
それがまた塚地をイラッとさせる。
いや、同情するけどさ、ほら、妖能力発動と同時に安全かどうかをチェックしちゃえば解放されるんだし、ちょっとの辛抱だよ。
なんて思うんだけど、声には出しません。
空気を大切にする良い子ちゃんですから私は。
「あらあら。妖能力発動はもう少しらしいですし、それからどんな能力かを把握して危険が無ければ解放しますから」
「つったって、危険な妖能力だったら俺どうなるんっすか! 安全なんて保障されてないんっしょ!?」
「それでも、我々は君の危険性を確認しなければならんのでね。すまないが全人民の安全性のために最悪君を殺さねばならん。我々としてもそれは出来うる限り避けたい選択だ。その為に君とこうして話しの機会を持たせて貰ったんだ」
「そ、そりゃあ、頭ではわかっけどよ。納得できるってもんじゃねぇよ。いや、強制だっつーのはわかるし、ジタバタするべきじゃねーのはわかってっし? シャレなんねってーか。マジパネェことにさえならなきゃいいんだし、やるよ? やるけどよ……」
納得できない感情をなんとか理性で抑え込み、塚地は大人しくグレネーダーに拘束されることを選択した。
まぁ一般人な訳だし下手に騒いでも意味ないしね。
話をわかってくれるとこちらとしても面倒なくて助かるよ。
と、いうことで、坂出係長始め総務係と護送係が彼を妖研究所に連れて行き精密検査をしようとした矢先の出来事だった。
唐突に、目の前に妖反応が生まれた。
塚地が覚醒したのだ。
兆候は無かった。
唐突に、それは生まれ、唐突に、産声をあげた。
ボコリ。塚地の頭が不自然に膨れ上がった。
「あ? え? あれ? 俺、今、何しようとして? あれ? てかお前ら誰だっけ?」
まるで脳がその機能を停止したかのように意味不明な言葉を話し始める。
「あ、ヤベェ、俺、誰だっけ? てか、何コレ、俺の手、マジパネェ……」
ぶくぶくに膨れ、胎動する腕を見て、塚地が首を捻る。
おもむろに前を向き、泣きそうな顔をして言った。
「な、なぁ、これヤバくね? 全然痛くねぇっつか、感覚ねぇんだけど?」
誰もソレに答えない。
いや、危険を察した坂出係長達が一歩、また一歩と後ずさる。
それはある種ホラーだった。
塚地という人間の肉が盛り上がる。ボコリボコリと膨れ、膨張し、増殖する。
これが……塚地の妖能力? いや、違う。これは暴走だ。
【黴】と同じ、使う者を殺す妖能力だ。
「た、助け、俺の意識が消えるっ。消えちまうよぉっ。なぁ、ぐれ、れねーだ、だぉぉ? だず、げでぇぇぇ……」
ゴクリと誰かの喉が鳴った。
これから起こる絶望が容易に想像できた。
「あが? が、がぁあああああああああああああああ」
そして、パンドラの箱は解き放たれた。
名前: 紅葉葉 万
普段は血色の悪いやせ細った女性。
肉吸いの能力により体内の肉を消費して自身を美人に変化させる。
ミイラ化すると死亡する。
特性: 家仏さんが好き。
妖名: 肉吸い(にくすい)
【欲】: 肉を吸う
能力: 【肉吸い】
他者の肉を吸うことで自分の肉にすることができる。
【身体変化】
体内の肉を消費して理想の自分に変化する。
変身の間体内から徐々に肉が減っていく。
本来は他者を誘惑し肉を吸うための能力。
【提灯を貸して?】
照明器具の電気を落とす事の出来る能力。
ただし、人から譲り受けたモノに限る。
【肉無し死体】
死亡すると体内の肉が分解され骨と皮だけになる。
【同族感知】
妖使い同士を認識する感覚器。
個人によって範囲は異なる。




