事件を追え5
支部へと戻ってきた私達は、丁度戻ってきた小林さんと鉢合わせた。
雑談しながら会議室へと向かう。
話題は私から振った鮎川智佳斗と隊長の関係についてだ。
あのタイミングのいい撤退命令に話が向うと、小林さんも顎に手をやって考え始める。
確かにおかしいと思う。と彼も同意はしてくれたものの、結局それ以上のことはわからない。
そもそも鮎川と隊長が繋がっていたとして、隊長の反乱にどう繋がるのかすらわからない。
何か切っ掛けを……
そういえば、鮎川智佳斗はなんで反逆罪になったんだろう?
「もしかしたら、ラボが関わってるのかもしれないな。志倉君、これに付いて調べても大丈夫そうなのかな?」
「ちょいと聞いてみますわ。待っててください」
と、翼が電話を始める。
どこに掛けたかは知らないけど口調からして上司だろう。
漏れ聞こえる翼の言葉はへりくだっていてなんだかなぁ。
あいつの普段の態度からすると幻滅モノである。
「……小林さん。ちょいとヤバいみたいっすわ」
「やはりか」
「それだけじゃないんすよ。調べるのは禁止されましたけど、高梨が調べるのであれば好きにさせろって。これ、どういう意味っすか」
私が調べるのおっけー? マジどういうこと?
が、ソレを聞いた小林さんが不機嫌そうに唸る。
そして私に真剣な目を向けて来た。
「すまない高梨さん。好奇心が疼くだろうことはわかるが、この件を調べるのは無しだ。たぶん、彼らはこの件を君が調べることで君が同じ反逆者になる事を求めている」
はぁ? 反逆者になることを求めるって、どういうこと!?
驚く私に小林さんは一度翼に視線を向ける。
意味が分かっていなさそうに首を捻っているのを見て少し顔の険を取った。
「君の身体には【黴】がいる。妖研究所としてはこれを手に入れたくてたまらないはずなんだ。だけど君はグレネーダーとして機関に所属しており、いままでは隊長の庇護下に置かれていた」
だけど隊長は叛逆した。
私を守る後ろ盾が無くなった。
つまり、今、彼らにとっては好機なのだ。
そんな折、私が自ら禁忌に触れる部分を調べ始めている。
これは抹消対象に指定して追い詰めるチャンス。ということらしい。
だから小林さんは告げる。
今回は、大人しくして動くなと。
でも小林さん、私、結構巻き込まれ体質なんですけど?
しかし、そうか。私、知らない間に隊長に守られていたんだなぁ。
これから隙を見せてはいけない日々の始まりか。
隊長はこのこと、考えてくれてるんだろうか?
もしも考えてるんなら、私の元へ来る可能性はあるかもしれない。なんて期待してみたり。
まぁ来るなら真奈香の方が優先だろうなぁ。
「式森さんがしばらく行動を共にしていたんだったね。もしかしたら理由を聞いているかもしれないな。僕が一応聞いてみておくよ。多分大した問題にはならないだろうけど。だから翼君は高梨さん達と留守番しておいてくれるかい? 彼女たちが部屋から出ないようにしてほしい」
「おっけーっす」
翼は考える事を止めているようだ。
少し考えれば君の監視を付けたまま式森さんに会いたくないんだという理由が小林さんの言葉に含まれていることに気付けただろうけど、翼は素直に私達の監視に付いた。
そうか。式森さんなら鮎川智佳斗が犯罪者にされた理由を教えられていたかもしれない。
聞けばよかった。
あの人の言葉遣いのせいであまり質問せずに帰ってきたのは早計だったな。
私と真奈香は翼と連れだって会議室へと向う。
会議室内には常塚さんが携帯電話片手に何かを呟いていた。
こちらには気付いていないようだ。
「じゃあ、鮎川さんたちをあなたが保護したわけじゃないのね三嘉凪さ……」
なんか、重大な言葉を聞いた気がするのですが……
常塚さんは私達に気付き慌てて電話を切った。
スマホを慌てて後ろに隠し平静を取り繕う。
「あら、三人揃って戻って来るのが早かったわね。あら? 志倉君は小林君と一緒だったんじゃ?」
「そうなんっすけど、こいつが無茶やらかさねぇように監視しとけって言われまして」
「隊長に付いて鮎川智佳斗と関係ないか調べてたんです。成果を小林さんに報告したらアレが関わってる可能性があるそうで私は動かない方がいいと」
「そう。そこまで辿りつきそうになったのね。それなら仕方ないわね。ここでおとなしくしておきなさい。あ、ついでだから書類整理お願いね」
最近そればっかりではないですか?
私、ちょっと飽きてきましたよ?
書類の束を私達の前に置いた常塚さんはそのまま会議室を出て行った。
むしろ逃げるようだった様に思う。
話相手の事について聞かれるのを避けたかったようだ。
どうも話相手が三嘉凪さんだった気がするんだけど、気のせい?




