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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 加牟波理入道
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事件を追え2

 聞いた話を纏めると、護送係の人にもあまり大したことは分からないらしい。

 発端は護送する物を妖研究所に持っていったことから始まったんだとか。

 容疑者の名前は鮎川智佳斗と立山優奈。


 護送係でも係長と同じ元国原支部の鮎川智佳斗はかなり係長に小間使いとして使われており、大抵の護送は彼女たちが任されていたのだとか。

 弱みを握られているのか、係長がある会話を持ちだすとそれまで嫌がっていた彼女はしぶしぶ仕事に向ってくれる、これに甘えて他の係員も護送を手伝うことはなく、むしろ彼女とそのパートナーである立山優奈に任せきりだったようだ。


 係員の話だと、その辺りの仕事量が嫌になったんじゃないかということだったのだが、グレネーダーに対して重大な反逆行為を行ったために抹消対象に指定されたという。

 ちなみに、護送対象は二つが融合したぷっちんなプリンであり、これを行った人物は後々自ら届け出てグレネーダーの保護下に入っているそうだ。


 大した力ではないことと、問題を起こしていないということで妖研究所の保護施設アルカディアで普通に生活しているということなのだが、その男は怪しい女に言われて出頭したという。

 その怪しい女の特徴が鮎川智佳斗と酷似しているということを聞かされた。


 彼女らに対して係員が知っていることはそれくらいらしい。

 やっぱり、隊長とはあまり関係ないのかも?

 その二人はすでに抹消済みなため、二人と行動をともにしているということもないようだ。

 でもま、怪しい男っての見に行ってみるのも良いか。

 会ってるってなら何かしら情報があるでしょ。

 んーでも、やっぱりこのこと調べてもあんまし意味ない気もするなぁ。

 いや、どんな些細な事でも知ることで道が開けるはずだ。

「真奈ちゃん、保護下に置かれた男の人に会いに行こう」

「りょうか~い」




 妖研究所の庭先にやってきた私と真奈香は、周囲を見回しながら、目的の人物を探していた。

 この妖研究所は表向きは大学病院と同じようなもので、妖使いの病気を見たりしてくれる場所である。

 全国に配置されており、一般人の外来も対応している。


 また、保護を受けた妖使いの寮も完備されていて、別棟に住んでいるらしく、アルカディア寮と呼ばれている。

 彼らは妖能力をこの研究所内でのみ自由に奮うことが許されているのである。

 で、何をしているかと言えば、入口から研究所本棟に向うまでにある庭でほっこりしたり、ネット通販で気に入ったものを頼んでヒキコモリしてみたり、お金についても保護という名目で月単位で補助金が出され、食事なども研究所内で賄える。

 まさに至れり尽くせりの理想郷。


 でも、好んで保護を受けようという妖使いはあまりいなかった。

 都市伝説とでも言うべきだろう。

 妖研究所の黒い噂が私達妖使いが保護を受けるのに戸惑いを覚えさせるのだ。


 ――妖研究所に保護された者たちは、人体実験で殺される――


 ホントかウソかは誰もわからない。

 ただ、ここを見た感じでは皆幸せそうで、人体実験の噂の影など欠片も見当たらな……ああ、そういや病院内の自販機に黒いジュース売ってたな。アレはある意味人体実験だ。飲んだら危ないらしいし。


 まぁ、とにかく、護送係の人から善意? で真奈香が貰って来たらしい写真を見た限りでは、秋葉原に普通に居そうな魔法使いなお兄さんだった。

 美少女の顔写真付きのプリントシャツにジージャン、ジーパン。

 もちろん青一色。なぜか額にはバンダナ付けていて、髪の長い太ったお兄さん。眼鏡も付けている。


 果ては紙袋にポスターだろうか? 四本くらい突き出ている。

 間違っても普通に町歩いている時に声をかけたくは無い相手だ。

 しかも、口調がさ、言葉の最後に「~なんだな」とか言うんだって。

 やばいよ。絶対危険だよこの人。


 妖研究所のアルカディア寮に住んでいるらしいので、笑顔のじいさんばあさんが屯う憩いの広場を横切り、寮とは思えないコンクリート製の建物へと向かう。

 なんだろうね、むしろ学校の校舎と言われた方がしっくりくるよこの佇まい。


「すいませーん」


 寮長さんだろうか、受付と書かれた玄関口にある出窓に声をかけると、おばさんが顔を出す。

 私達は探している男の人を聞いてみると、外に出ているとか。

 今日も公衆トイレに籠ってるんじゃないかと言われた。


 何? 公衆トイレに籠るって。しかも今日【も】って。

 なんとなく嫌な予感がする私だったが、公衆トイレに向かった私たちは、嫌な予感をなんかよくわからない方向にすっとばす、とんでもない光景を目の当たりにするのだった。


 公園の片隅に佇む公衆トイレ。

 右側が女性で左が男性なのだが、男性側の側面方向が丁度目線の位置でガラスも何もない窓としてしっかり開いていた。その開いた吹きさらしの窓に覗きこむようにつま先立ちをする女性が一人立っている。


 何してんだと近づいてみると、女性の息が荒い事に気付く。

 アレは、まさか、真奈香並みのヘ・ン・タ・イか?

 この近くにいるはずなので、彼女に聞けば……いやいや、絶対に声をかけちゃいけない人だ。

 いや、でも、あの公衆トイレにいるハズらしいし、まさか、いや、でも、そんなことが在る筈が……


「有伽ちゃん。あの痴女さんに聞いてみよ」


 ああ、真奈香が引いている。同類の真奈香さんが引いているっ!!

 これはかなり重要だ。重要だから二度言っておく。いや、もう一度言っておこう。

 あの真奈香が引いているッッ!!

 同族嫌悪とでも言うべきか。

 いや、それ以上の猛者だとでも言えばいいのだろうか。


 それでも、真奈香は果敢に危険人物に近づくことにしたらしい。

 私も、溜息吐きながら彼女の後に続く。

 すると、呟くような声が聞こえた。


「ああ……最高よ、もっと、もっと気張りなさい」


 ……ああ、ダメだ。やっぱ絶対関わっちゃいけない人だ。

 かなり近づくと、もう一つの声が聞こえた。

 どうやら壁の向こうに誰かがいるようだ。


「ああ、いいわ、凄く頑張ってるわよ藤田君っ」


「ああ、いい。いいよ美津子さんっ、もっと僕を見てほしいんだなっ」


 ……何を、してるんだろう、この人たちは?

 やっぱり、近づくんじゃなかった。

 いや、むしろ探すんじゃなかった。

 なんだな。とか言ってるし、なるほど、見られるためにこのトイレに籠ってるヘンタイか。


「あ、有伽ちゃん……」


「邪魔するのも悪そうなんだけど……そっとしとこうか真奈ちゃん」


「そ、そうだね……」


 真奈香と二人でその場を回れ右することに……


「な、なんだなぁ―――――っ」


「ああ、凄いっ、輝いてるわ藤田君っ。あなた今凄く輝いて……あら?」


 ……気付かれました。

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